鬼火1
そろそろ西の空が紅く染まり始める頃、ようやく目的地である穴沢村に着いた。
細い農道を自転車こいで走り続けた俺は、いくら元気が取り柄の中学生と言ってももうフラフラだ。
ちなみに、タマちゃんはハンドルにしがみついていたのだが落ちたら危ないので、コンビニ袋を両ハンドルにひっかけて、その中にすっぽり入って頭だけ出している。
わりと乗り心地は良いらしい。自転車にかご付けとけば良かった。
婆ちゃんの家に着いた時、ちょうど婆ちゃんも畑から帰ってきたばかりらしく、車から降りて来る所だった。
いかにも「田舎のおばあちゃん」という感じの、もんぺを穿いてタオルを首から下げた年寄りが、HUMMERとかいうやたらゴツイ車を運転する姿は何度見てもびっくりする。
父親に聞いた話だが、運転が乱暴だから運転するなら頑丈な車にしろといったらこれを買ったらしい。
「なんだ今着いたのかい?遅かったねぇ」
車から降りてきた婆ちゃんが、お腹減ったろ?と言いながらサザエさん家みたいなガラガラいう玄関をあけて家に入る。
今、鍵掛かってなかったなー。不用心だけどいいのかな。
挨拶しながらタマちゃん入りの袋を持って家に上がり、手を洗ってうがいして仏壇の爺ちゃんに手を合わせる。
これをしないでおやつとか食べようとすると、頭が割れるようなデコピンをされるんだ。
父親はそれを鼻に喰らって鼻血吹き出した事があるらしい。
仏間に行く時にチラッと見えたけど、掘り炬燵|(夏なのに!)の上にラップを掛けた焼き飯が置いてあった。婆ちゃんが居ない間に俺が来た時の為に用意しておいてくれたのかな。あ、鍵掛かって無いのも俺が入れるようになのか。
「これ、母親からです。お土産です」
「なんだい、この間までママ!ママ!って呼んでたのに。恥ずかしくなって呼び方変えたいのに、母さんとかお袋とかも照れくさいのかい。思春期だねぇ」
母親から持って行きなさいと渡されたカリントの箱を渡すと、速攻で呼び方を弄られる。むぅ。ママって呼んだのを同級生に聞かれて以来なんとか変えようとしてるのに。
「で、そっちの袋の中のは、何を連れてきたんだい」
「あ、途中で知り合って着いてきちゃった喋るキツネのタマちゃん。化かされたんで遅くなったんだ」
「純君の妻です」
ふかぶかとお辞儀するタマちゃんを、代々伝わるデコピンで撃墜。無言でのたうちまわるタマちゃん。
「耀に似たのかねぇ。変な物に懐かれるのは。」
「え。父親もこんな事あったの?」
少し驚いたように目を見開く婆ちゃん。
自分の父ながら変わり者だとは思ったけど。
「あんたの母親連れてきた位だからねぇ」
うわ、嫁姑戦争でした。
婆ちゃんは渡したお土産を仏壇に供えて手を合わせると、
「純、あんたちょっとお隣行ってお醤油借りてらっしゃい。切らしてるから」
と腹ペコで足パンパンな俺には酷なミッションをいいつけた。
醤油なしでいいとか休ませてとか言っても、いいから行って来いの一点張り。
しまいに老人に醤油取りに行かせる気かとか言い始めた。
醤油無くても味噌味とかでご飯作れるだろうに。
しぶしぶ表に出ると、そろそろ暗くなってきて用水路に落ちると危ないから歩いてきなさいとか。
せめて自転車使わせて!
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自分で読み返しても気が付かない事が多いです。