蛇足:学校帰りの寄り道
その後の日常です。
学校帰りにクラスメイトの井上と一緒に、タマちゃんと環さんを連れてファミレスに行くことになった。中学卒業を間近に控えて、進路が同じ者同士でついついつるむ事が増えた。
学校帰りの寄り道も、生徒だけでの飲食店への立ち入りも禁止なのだが、バレなければ怒られないのだから、怒られたことはない。隣のテーブルに学年主任の先生がいた時でも純かタマちゃんのどちらかが居ればなぜか気付かれないのだから確実にセーフ。堂々とするのも当然だろう。まぁ、今日は他にお客さんが居ないのですごく目立ってしまうかもしれないけど、たぶん平気。
「四名でおまちの~、ええと、『俺様』」
「はーい、俺です」
下らなすぎる事をするのはいつも井上君だ。前は『殿様』だった。
「最近さ、妖怪もののアニメが多いよね。あれって妖怪の仕業じゃね?」
「たぶんあってるよ」
いきなり突拍子も無い話を振る井上君をサラッと流すと、本気にしたのか環さんの表情がピキッてなる。冗談だからね?
俺様って呼んでくれたウェイトレスさんが水を五個運んでくる中、井上君の謎のテンションは留まるところを知らない。
「妖怪退治の武器とか、現実にあったりするのかな?」
「博物館とかにあるなら見に行きたい!」
「本物はそれ自体が妖怪じゃよ」
何処のクラスでも無いのに普通にセーラー服着て昼休みと下校の時に混じってくるタマちゃんは、もう井上とは顔見知りだ。顔見知りの誰もが『他のクラスに居る、友達の友達』だと認識しているという立場を、いつのまにかタマちゃんは獲得していた。
赤ん坊の泣き声でやや騒がしい中、注文を終えて……卒業式の後にいく遊園地の話をしたいのだけど、井上君の妖怪トークが終わってくれない。タマちゃんが構うから。
「舞原もさ、覚えてるだろ?」
「何を?」
「修学旅行の時に『信田環ドッペルゲンガー説』とかあったろ? 俺の顔に落書きしたのは信田だってみんな言ってたから、俺はいたと思ってる派なんだけどさ」
「うん、あったね。修学旅行に環さんが来てない事は俺が自身を持って証言するけどね」
「実際行ってないしね」
「ぼくは行ったよ。楽しかったね」
あまり掘り返して欲しくない事を井上君が持ち出した。修学旅行の信田環事件や集団迷子事件は完全に七不思議扱いになっており、未だに話題になるたびに論争になる。
「あれさ、妖怪が信田の姿で旅行に参加してた、とかだったら面白いなって」
正解。全員静かになる。だって正解だからね。
「いや……急にシーンってなるなよ。冗談っていうか、妖怪がクラスに何人かいたら面白いなって思っただけだから。ごめんね信田さん」
「いや、大丈夫。怒ってはいないよ。ただ小規模な集団なら半分位が妖怪だったりする事もあるんだろうねって、私も思った」
環さん目が泳ぎつつ、なんか具体的な事を。うん、環さんが俺を妖怪枠で数えてるのはわかった。ただ、クラスメイトから一番不思議に思われているのは自分だって事を思い出させてあげよう。
「写真には残ってないけど、結構みんな信田さんの事を目撃してたんだよね。それに入院中にも何度か学校で目撃されてるし。信田さんが二人いるとしか思えない……」
足踏まれた。両側から。
俺の叫び声とか、騒ぎすぎてついたての上からじーっと見られたりしたので店を出る事にする。肝心の遊園地の話が今日もできなかった。
「純くん、私を妖怪枠に入れようとしてません?!」
「環さんこそ完全に俺を妖怪枠にいれてるでしょ」
「純はキツネだから」
井上君と別れたら早速追及大会が始まる。
そんな事より気になる事がある。
「さっきのさ、ついたての上から五月蠅いって目でみられたけど、あのついたてって2mくらいあったよね?」
「最初、水が五個きたけど誰の分だったのかな。あと『じゃよ』って言ったの誰」
「そういえばぼく達しかお客さんいなかったよね?」
一言も口きかずに帰った。
タマちゃん「そもそもさ、井上君って人間なの?」
純・環「え?」