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蛇足・タマちゃんの日記

タマちゃん視点です。

タマちゃんのイメージが崩れますので、ご注意を。

7月10日

 人間がつける日記と言う物をしてみようとしてやって見る。うん。

 だって私は人間として人にまぎれて生きていくつもりだから。母さんは人間は怖いものだから関わらないで生きていこうと言っていたけれど、それはさみしい。化かす妖怪として生まれた以上、関わらないでいるのは消える原因になってしまうと思うんだ。


 私達の様な妖怪はもう今ではだいぶ少なくなってしまったらしい。

 昔は人間と同じで沢山いて凄く賑やかだったそうだけど、とても信じられない。丸一日、山を歩き回っても山の神様の他の何かに出会える事は少ない。酷い時には神サマの居ない山すらある。


 これはすべて人間のせいなんだそうだ。

 詳しい理屈は……説明されたけど聞き流しちゃった。たぶんどうでもいい事だと思うし。一言で言ってしまえば、『人間が妖怪は居ないと思い始めたので居場所が無くなった』というダケの事。人間の想像力が世界の輪郭を作ったとか畏れと敬意だとか、どうでもいいや。


 私達のようなキツネという妖怪はかなり有名どころなので、そうそう消える事は無いと思っていたのだけれど、人間は容赦なかった。

 昔から妖怪に化かされると言われている山に、トンネルを掘って立派な道が通ってしまった。それどころかトンネルで起こった事故が有名になり、カップルでそこを通ると女の霊が鏡に映るとかで大勢の人が訪れた。

 鏡の霊に悪気は無いのだろうけど、これは侵略の様なものなのです。ここにいた化かす妖怪というイメージは『元々この山は霊的なスポットで』という説得力の為に使われてしまって、私達の居場所はかえって無くなってしまう。

 良く遊んで貰ったコロビさんがいなくなり、小豆洗いさんの音も聞こえなくなった。小さなお社が移されてから母さんは覚悟を決めた様で、口数がグッと少なくなった。


 母さんはこのまま消えていくつもりなのだろうけど、私は嫌だ。何か手はあると思う。

 私の名前は御婆様の名前を頂いた物らしい。御婆様は金毛九尾白面の物と呼ばれる玉藻の前。人間に打ち滅ぼされたと言い伝えられている(・・・・・・・・・)

 ここで大事なのは滅ぼされた事ではない。言い伝えられている事だ。居ないと思われ続けて消えてしまうのが妖怪なのならば、有名になるという事は『居続けている』という事でもある。現に御婆様は死んだけど消えたわけではない。


 有名になると言っても、居ると確信されるのも問題があるそうだ。こう言う話を聞かせてくれた物知りな見上げ入道先生が教えてくれたのだけれど、外国ではネッシーさんとかビッグフットさんという人が面白い事をやっているらしい。何度も姿を見せた上に写真にまで撮らせるという動かぬ証拠を叩きつけたのだとか。その結果は、徹底調査とかをやられたあげく、ネッシーさんはそんな大きな生き物が住める訳が無いとか言われてしまった。生き物じゃないんだから関係ないのにね。

 『居ない証拠』を探しに来た大勢の人に突っつきまわされてネッシーさんは居無くされてしまったらしい。写真には気を付けよう。写真に撮られると魂を取られるっていう迷信は妖怪にとっては洒落にならない。ビッグフットさんも虫の息だとか。


 私は……いや、一人称はボクにしよう。少しでもキャラを立てないと。人化術を使った時にはキツネ耳だけ残したり、特徴的な語尾を付けたりするのもいいかも……なんかヤだな。

 でも、ボクはただ消えていくのを待つなんてのはイヤだ。なんとしても生き残ってやるんだ。

 いつか、殺生石という御婆様の欠片に会いに行ってみよう。何かヒントでも掴めればいいんだけど。



7月20日

 母さんが居なくなったので巣を出る事にする。

 思ったよりも早い。だけれど、だいぶ前から話しかけても返事をしなくなっていたので、そろそろ消えると覚悟はしていた。だから悲しくは無い。寂しいけど。


 皆に挨拶していこうと思ったけれど、しばらく会わないうちに居なくなっている人が多かった。わた……ボクが生まれてからまだ10年程でこんなに減るなんて。神も妖怪も居なくなってしまうのかもしれない。そう考えるとムシャクシャする。山を降りたら人里を焼き払ったりしてやろうか。あー、でもお婆ちゃんがずっと前にやってるな、それ。



7月29日

 日記めんどくさい。たまにでイイよね。何か変わった事があった時だけで。


8月2日


 結婚を申し込まれた!信じらんない!


 いきなり人里で大きな術を使うのは怖いので、小さな村とか山奥で通りがかるお年寄りとかを化かしてみたんだけど……全然動じない。普通に座り込んで休憩して、しっかり術を解いてしまうんだ。

 みんな知ってるのかもしれない。化かす術は、深呼吸したり休憩して頭を切り替えると解けるって事を。

 それはマズイ。ボク、術は一杯習ったけど、派手なのは知らないんだ。「キツネに化かされた!」っていう印象を植え付けて「化かすキツネはいる」って思わせたいだけなのに。


 だから、若い人ならイケるんじゃないかと思って、自転車で走ってきた若い子供を化かしてみたのだけど、こんどは全然別の意味で動じない。

 化かされた事にも気付かないまま三時間も同じ所を走ってる。カカシに化けたままグルグル回る人間を見ていたのだけど、そろそろ飽きてきた。でもボクは! 君が! 泣くまで化かすのをやめないっ!

 泣くどころか、何が楽しいのかニコニコしながらカカシのボクに手を振ってきたりもしてる。


 ……ばれてる?


 いや、気付いていないはず。術は完璧に掛かってる。あー、完璧なのがいけないのかな。「キツネに化かされた!」って人間が思う為には、化かされた事に気付かないといけないんだ。とは言え、今の状態で術を解いてもたぶん気付かない。そう考えると昔のキツネ達がやった『肥溜め風呂』とか『馬糞饅頭』はインパクトあって凄いんだな。参考にしよう。

 そんな事を考えていたら、グルグル回っていた子がカカシのボクにお供えして柏手を打って行った。イヤいやいや、突っ込みどころ一杯過ぎるでしょ。お供えは貰うけどさ。チョコを齧ったらグルグル回ってた子が急に戻ってきた。フェイント?!

 悪気は無いのかもしれないけれど、口に物をいれた瞬間にフェイント掛けて脅かしてきたり、さらに写真まで撮って来るので必死で避けてたら喉の変なトコにチョコが入った。息が出来なくなって倒れたけど、起きるまで看ててくれた上にご飯もくれたから許してあげる。


 でも、もー、この子イヤ。

 貰ったご飯食べてたら、いきなり求婚してきた。名前を聞くって言うのは万葉集にもうたわれる由緒ある求婚だったはず。外見べた褒めして、名前を名乗って、ボクの名前を聞くとか何のつもりなのか。一目ぼれかしら? ふふん、まさしく魔性の女。

 悪い気はしないけど。御婆様の家に行くって言うから連れて行って貰う事にする。ちょうど良かった、実は御婆様の居場所わからなかったんだ。


 ボクのお婆様のとこに連れて行ってもらえると思ってたら、この子(純君っていう名前)の御婆様だった。そうだよね、ボク慌て過ぎたね。動揺してるわけじやないんだけど。



8月3日


 昨日は大変だった!

 純を化かして遊んでたら泣かれてしまったので、しかたなく謝る事にした。お詫びにマヨイガに連れて行ってあげたのに、あんまり喜んでくれなかった。

 普通に一個貰って来ても便利だし、欲を出して酷い目にあってもそれはそれで面白かったのに。純はホント物語のテンプレートに乗ってくれないなぁ。水一杯貰って帰るとかいうから、水飲むのに使ったコップを純の分って事で持って出る。これは蛇だか龍の神様が持ってた身体に良い水が出てくるヤツだからお土産に持たせてあげよう。


8月8日


 日記書くの忘れてた!

 最近忙しくて日記どころじゃ無かった。書くのやめようかな。今日はラジオ体操のスタンプが三つ目押して貰えた。こういうの溜めるの好きかも。スタンプ帳の格子模様はなんだか眺めているとずっと見続けてしまう中毒性があると思う。


8月9日


 葉っぱのお金で蕎麦屋でたぬき蕎麦食べてきたらママさんに叱られた。ママさんがお店に謝りに行ってお金を払ってくれたけど……キツネとしてどうすべきか。


8月12日


 純とバドミントンしてた時に見上げ入道さんが来た。

 ハネが屋根に乗っちゃったので、ハシゴ掛けて取ろうとしてたらヒョイって取ってくれたのだけど、入道さんと目があった瞬間に純は急いで梯子を降りると、玄関の下駄箱の上に置いてある手鏡を持ってきた。入道の頭が高い所にあるから見あげなきゃいけないけど、見上げれば見上げるほど大きくなる見上げ入道さんにそれはマズイって知ったみたいで。

けど、反り返って見下ろすのも高い所に登って見下ろすのも失礼じゃないかと思ってとっさに考えた方法らしい。

地面に置いた鏡越しに会話するのも礼儀正しいとは言えないけど、見上げ入道さんはこんな子初めて見たと大喜びだった。


9月20日


 学校で七不思議作るのに成功した! でもキツネに化かされてる噂とかは全然流れない。違う妖怪ばかり集まってお礼言いに来る。妖怪の棲みやすい街作りとかそんなつもりじゃないんだ。


9月21日


 日記書くのやめた! もー! 学校で拾ったえんぴつ使ってたらえんぴつに日記読まれて笑われた! こいつも新手の妖怪だった! ああもう、日記見られるのがこんなに恥ずかしいとは!

 「俺も丸くなったもんだぜ」とか言ってるからえんぴつ削りに突っ込んでガリガリしてやった。



「タマちゃん、何やってるの? 焼き芋ならスーパーで……ちょっとなんでノート燃やしてるの!」

「邪魔しないで! これはくろれきしが詰まってるから! ぜったい見ちゃダメだから!」


 危ない所だった。今ではすっかり素だけど、会ったばかりの頃はキャラ作ってたとか、いろいろ誤解してたとか絶対知られたくない。えんぴつのヤツは削り切ったのにまた筆箱の中に居た。冬休みになったらこいつの口封じの為に清明さんの所に旅行に行く予定。


 もちろん、純と自転車で。

完結にして番外編書く時に解除するのってセーフでしょうか。

細かいネタと、お父さんが純を騙す話があるのですが凄く書きにくかったので、また一旦完結にしておいて掛けたら投稿したいのですが。ちょっと御行儀が悪い気もします。

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