表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/30

妖怪のいる日常生活

今年最後の更新でスレスレ滑り込み最終話です。

 修学旅行が終わって二週間ほどたった日の昼休み。

 環さんの手術は修学旅行の三日目だったらしいので、手術終わってから二週間でもある。数日おきにお見舞いに行っているのだけど(タマちゃんは毎日行ってる)どうやら退院が近いらしい。


 とは言え、退院してすぐ学校に来れるわけでもないので、旅行の写真を買っておいてと頼まれている。

 プロのカメラマンさんが撮った写真が今日から張りだされたので、壁に貼られている大量の写真の中から、自分や環さんの映っている写真の番号を探して購入用紙に番号を書きうつす。

 自分の分と、環さんに頼まれた分の二枚を持っているのでちょっと大変。


 俺は自分が映っている写真というよりも、班のみんなと映っている写真だけで良いかなと思っているのですぐに終わるが、環さんの分が大変なのだ。

 なにしろ、まず環さんは写真に一切映っていない。クラスの中で流れている『信田は修学旅行に来ていなかった説』の根拠にもなっているのだが、少なくとも生徒が個人的に撮った写真は完全に回避している。よっぽど怖かったんだろうけど……凄い。

 さらに、タマちゃんの化けた環さんが持っていたカメラは、家に置いてあった父親のお古を持ち出したもので、デジカメではなくフィルム式。そしてフィルムが入っていなかったので一枚も撮れていない。

 それも問題だけど、自分は映らない様にしているのに、他人はジャンジャン撮影していたタマちゃんがちょっと怖い。二日目の夜まで写真撮られると魂を取られるという嘘を信じていたのなら、なおさら。

 ただこれは、妖怪特有の考え方では無くて、子供の残酷さなのかなと思う。タマちゃん他人の迷惑はどうでもいいと考えてるフシが所あるし。これからしっかり躾けていかなきゃ。


 撮れていなかったとはいえ、修学旅行中にタマちゃんは、『カメラ小僧信田』とかいうあだ名が付けられる位、みんなの写真を撮りまくっていた。

 それだけじゃなく、タマちゃん全力の怖い話(怖くない)とか、帰りのバスで寝ているクラスメイトの顔に落書きして写真撮るとか、ホント話題になるような事をいろいろやっていた。

 これは環さんの印象をより強く残す為の行動なのだと説明されたけれど、その印象の強さと誰の写真にも映っていないという事実が、『信田は修学旅行に来ていなかった説』を一層不気味な物に仕立てている。


 実際、修学旅行から帰ったみんなの話題は信田さんの話で持ちきりだった。


 「入院してる信田に、『お土産何がいいか』ってメール打ったら『明日手術で食べ物とかは無理だからお土産話をお願いします』って返事がきた」


 担任がこんな事言いだしたものだから、「そう言えば俺が撮った旅行の写真に信田が映って無い」とか、「見た覚えはあるけど誰の写真にも映って無い」「本当に居たのか」とか大騒ぎになった。そもそも来ていた事を担任が知らないってのも酷いっていうかおかしい。

 タマちゃんの化かしかたの詰めが甘かったわけだけど、それを知らないクラスメイト達は落ち着いて居られなかったみたいで。

 いつも信田さんと一緒に居たと噂されてる俺に、一緒に居たよな? って聞きに来るクラスメイト達がいたから、「俺は班長だしみんなを見なきゃだから一人で行動してたけど?」とか面白がって答えてみたらクラスはパニックになった。

 『キツネに化かされたんだ派』と『信田の生霊がみんなの記憶に残りたくて現れた派』にわかれてオカルト話が大ブームになっている。両方合ってるっていいたいけど、さすがに説明できない。

 しかし、こっちの方が話題になるかと思ってアドリブで言って見たら大変な大騒ぎになった。悪気は無かった。


 そしてその『信田居なかった説』がさらに証明されてしまうのが、今日のカメラマンの写真張りだしなのだ。無心になって、環さんの欲しがっている「信田環が見たであろう景色の写真」をメモしている俺の後ろでは、クラスメイトが次々に撃沈していく。信田環が何処にも映っていない事を確認しては恐怖判定に失敗して悲鳴を上げているのだ。ちょっと耳がキーンとしてる。


「やっほー、純くん。おはよう!」


 後ろから環さんに背中を叩かれた。

 静まり返る廊下。教室。


「昨日退院したので、体調をみながら午後からだけど登校してきました!」


 これはもちろんわかってる。タマちゃんの変身だ。

 今日の朝にタマちゃんが「今日は環さん学校行くから」って予告してたし。それに、登校日に借りた小さくなってしまった制服は、結局そのままタマちゃんが貰ったのを知っている。先生へのメールの返信は冗談で「写真にはたまたま映ってないけどちゃんと居たよ」って、環さんの姿で訂正して貰わないと騒ぎが収まりそうもないし、ちょうど良かった。


 案の定、環さんの姿のタマちゃんはクラスの皆に囲まれた。観察していたけれど、全然ぼろは出さずに自然にテンパっている様子を出していた。

 

「ねぇねぇ、修学旅行に来てたよね? 同じ部屋に居たもんね?」

「入院中でしたよ。修学旅行の最終日が手術だったから、病院に行けばカルテとか、証拠あると思う」


 さっそく同室の瀬良さんの質問に、鉄壁のアリバイを出して皆の顔を蒼くさせている。


 おいおい。居なかった方向で行くのか……環さんとの打ち合わせは大丈夫なんだろうな?

 俺の心配をよそに、クラスメイトの正気は削られていった。


「修学旅行に環さんは行かなかったって言う方向で押し通すの?」


 あんまり不安だったので、皆に囲まれているタマちゃんの腕を掴んで廊下に連れ出し、そのまま非常階段まで引っ張って行って問いただす。打ち合わせが必要だ。


「うん。だって本当に行ってないわけだし?」


 きょとんとした表情で答えるタマちゃん。うーん、そりゃそうだけど、環さんの事を忘れさせない作戦はどうするんだよ。このままだと変な印象ばかりになっちゃうじゃないか。

 ……いや、それが目的なのか。もしも「修学旅行に居たよ」という風に口裏を合わせた場合、いくら俺達が話を聞かせたり、環さんが見たであろう景色の写真を見せたとしても、実際にその場に居なかった以上はクラスのみんなとの知識とのズレがでる。

 例えば、いつの日が同窓会などで修学旅行の話をした時に「あの時楽しかったよねぇ!」という話題の中で寂しい思いをする事になる。

 だけど、一緒に居た記憶があるのに実際には居なかったというオカルト的な事件にしてしまう事で、印象だけは強く残しつつも、お土産話を聞く側の立場を得る事もできる。

 殺生石を見に行ったんだよ! という会話に対して、写真で見たけど匂いとかやっぱり凄かったの? と返せる。実際にその場に行っていない環さんからしたら、どっちが会話を繋ぎやすいか。


「でかしたっ!」


 タマちゃんの頭をガシガシ撫でてやる。そこまで考えてこう言う状況に誘導したのだとしたら、まさしく策士。孔明も真っ青の策士っぷりだ。


「でも、『たまたま写真に写って無いだけ』じゃなく、『環さんは実際には来ていなかった』っていう路線で行く事、ちゃんと環さんと打ち合わせで来てるんだよね? ホントに登校してきた環さんが修学旅行楽しかったねとか言っちゃったら台無しだからね?」


 そう聞くと、タマちゃんは少し驚いたように固まった後、ニヤーッと悪そうな笑みを浮かべて親指を立てた。


「意志疎通完璧。タマキさんはちゃんとこの事知ってるよ!」


 えらいえらいと頭を撫で続けたら、顔を真っ赤して逃げてしまった。



 そして、家に帰ったらタマちゃんがいるわけだ。

 あの後、普通に授業を受けて、環さんと一緒に下校して、環さんの自宅に向かう分かれ道でちゃんと分けれて、細かい所まで再現してるなーなんて思いながら自宅に着いてみると、母親と一緒に買い物に行っていたタマちゃんと玄関先で遭遇。


「あ、純! 学校で環さんにあえた? 朝でんわがあってね、退院したって。今日はとりあえず顔出しに学校行くから、体調の悪い日は授業のノートをお願いしますって。替玉はしなくていいって」


 うん。驚いた。見事に『化かされた』わけだ。学校であった環さんはホントに環さんだった、と。思いっきり頭撫でちゃったよ……恥ずかしい。



 登校できるようになった環さんは、かなり長い間皆に囲まれて話題の人になった。

 それだけじゃなく、環さんの小さくなった制服を貰ったタマちゃんが普通に登校してきたりもするせいで、『授業には出ない、誰も知らない謎の女生徒が廊下を歩いている』という新しい七不思議まで現れた。


 きっと、二人とも忘れられたりなんてしない。

長い事お付き合い頂きありがとうございました。

妖怪との遭遇という特殊な状況を、特別視せずごく普通の出来事として受け止める純君の妖怪生活はこれにて一区切りとします。

納得がいかない点などありましたら、突っ込みを入れて下さい。今後の糧とさせて頂きたいので。


別作品をある程度更新した後に、ほのぼの&ふわふわ系の「うちのくまの言う事にゃ」を投稿したいと思いますので、もふもふ好きの方はよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ