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日常は不思議で一杯

 そろそろ秋になりかけだけれど、来年まで置いておくと湿気てしまうので、夏休みに買ったままやってなかった花火を玄関を出てすぐの所で処分しながら、お見舞いに行ったタマちゃんから話を聞く。

 環さんの容体はかなり悪いらしい。何かしつこい様だけど、病気が治ったりするような術は本当に無いのか。ついつい聞いてしまう。


「だーかーらー。子狐になにを期待しているのさ?」


 属性とか違うでしょ? と、火のついた花火を振り回す手を止めて、身も蓋もなければ取り付く島も無い返答が返ってきた。病気を治してくれる妖怪……聞いた事無いよね。龍とか不死鳥の血を飲んだら良くならないかな? 健康どころか不老不死とかになっちゃいそうだ。

 そんな風に環さんの病状を案じていると、タマちゃんがピッタリくっつくように俺の隣にしゃがみこんで、小さな声で囁いた。


「あのね? 健康とかはほとんど誰でもお祈りする事なんだよ。誰でも長生きしたいし、病気はイヤだし」

「うん。わかってる」


 誰もが欲しがるものだからこそ、簡単に手に入る方法は無いし、様々な不思議と接点があるからって、軽々しくそこに頼っていいわけじゃない。それはわかってる。だけど、せっかくタマちゃんが仲良くなったんだし、何か出来る事があったらしてあげたかっただけなんだ。

 そんな俺の考えを読んだのか、じーっと俺を見つめるタマちゃんは、とんでもない事を言い出した。


「どうしても、っていうのなら。方法はある」

「え! あるの?!」

「治す方じゃなくって、逆の方で環さんの手助けはできるよ。だけど、それはやっちゃいけない事。今の暮らしは無くなる。それでもいいのなら、やってあげる。どうする?」


 逆ってなんだ。今の暮らしが無くなるってどういう事だ。

 タマちゃんは、花火点火用の新しい蝋燭に火を付け、短くなった蝋燭に継ぎ足しながら続ける。


「方法とか、どうなるのかとかを聞くのは無し。やるか、やらないか。やるのなら何があっても泣かないで。やらないのなら、神頼みとか妖怪頼みはナシにしよう?」


 無言でやる線香花火は玉が大きくなる前にポタポタ落ちてしまって、なんだか不完全燃焼だった。



 次の休みの日。さっそく病院に行く事にした。もちろん、どっか怪我したとかじゃなくて、環さんのお見舞いに。

 まだまだ暑い炎天下のアスファルトの上をてくてく歩いて行く気にもなれないので、自転車に二人乗りでサーッと。二人乗りといっても後ろに乗せるのじゃ無く、カゴにふわふわした生物をいれて走るだけだから、お巡りさんに注意される事も無い。お見舞いにいくからなのか、いつも自転車に乗るとキャーキャー騒ぐタマちゃんも、今日は大人しかった。


 「そう言えば、環さんが代役頼んだ理由は聞いたけどさ、タマちゃんが旅行に来たかったのってどうして?」


 そう聞いてみると、だんだん忘れられて、居ない物にされてしまった妖怪たちの中で、死んでなお有名になったお婆ちゃんを見てみたかったのだという話が聞けた。


「なんか、コツでもあればと思って」


 いまいち、タマちゃんのやりたい事がわからない。



 病室まで行って、お見舞いに持って行った竹筒に花をさしながら、旅行中にあった事を全部二人で交代交代に話していくと、だんだん環さんの表情が面白くなっていく。

 最初に同じ班になるように俺が頼んでいた話の辺りでは「え」とか言いながら驚いた表情だったのが、タマちゃんがガールズトークもしたよ! とか、肝試しのコンビを代わって貰って色々話しこんでたら後続が大惨事になっちゃったよとか話す頃は「あわわわ」みたいな意味不明な事を言い始めた。そのままタマちゃんが、純とコンビ組んだ事を女子部屋で寝る時にからかわれたよ! と報告したり、夜中呼び出して対策練ったけど無理だった事なんかを話したら、真っ赤になって目をバッテンにしてそのまま布団にもぐってしまった。


「学校行ったらぜったい冷やかされるじゃないですかー」

「別に実際に付き合ってるわけじゃないし、すぐ沈静化するよ」


 学校行くのが初めて怖くなりましたと呟く環さんに、でも絶対誰も忘れないよと返すと、環さんはタマちゃんのお腹を突っついいた。


「タマちゃん、ばらしたな?」

「ぼくがばらしたんじゃなくて、純が自力で気が付いたんだよ」

「なんでわかったの? そういうの気が付く術があるとか?」


 そう尋ねる環さんに、きっぱりと俺は答えた。


「いいや、術はあるけど使わないよ。そんなの使わなくても、大丈夫なんだ」


 うん。術は使わない。病気で苦しむ環さんには悪いけれど、何とかする方法があると知ってしまったから申し訳なく思うだけで、本来なら何もしてあげられないのが普通だ。


 タマちゃんはどうなるのか聞くのはナシって言いながらも、ヒントをたくさんくれていたから、薄々ながら想像はついた。それに「何とか出来る」とか「出来る方法を教えてあげる」じゃなく、「してあげる」って言っていた。

 だから、その術は俺が使うのじゃなくて、タマちゃんが使ってくれるつもりなのだろう。そして、今の暮らしが無くなるって言うのはタマちゃんが居なくなるって事なのだと思う。

 タマちゃんと、環さん。二人がおぼれていて、どっちかしか助けられないのなら、タマちゃんを助けるよ。タマちゃんは溺れなそうだけどさ。例えばの話。


 そして、タマちゃんを選んだ上で、あくまで『出来る限りの事』をしよう。


「あ、所でこの竹の花瓶、水入れなくても無くならないヤツだから」


 タマちゃんはなんかもったいないと叫んでたけど。水が欲しければ自販機で買えるし蛇口ひねれば出てくるし。不思議な術より現代の科学の方が凄い。だから延命の術よりお医者さんの方が凄いと信じてる。


うまく話の中で説明するシーンをいれられませんでしたが、

この話の設定では、妖怪は死ぬ事は無いけれど、ある日消えてしまう事があります。人が忘れた神や妖怪は消えるのです。


タマちゃんの母狐もある日消えてしまった為に、タマちゃんは頑張って誰か化かして「化かす狐がいる」というアピールをしようとしていた……なんていう裏話。


婆ちゃんは有名人な玉藻さんなので、忘れられていないし、きっと死んだというのも嘘だろうと考えて会いたがっていたりしました。

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