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環さんの頼みごと

誤字脱字とか、読みにくいわかりにくい描写がありましたら、ご指摘いただけると嬉しいです。

 殺生石の前での会話を終えた後、班行動の調べ物をテキパキと終わらせる。こんなのは適当でいいや。

 岩だらけゴロゴロの足元を、違和感無く手を引いてそのままみんなと合流する。一度正体がタマちゃんだと確信してしまえば、もう姿が環さんだろうがなんだろうがタマちゃんにしか見えない。

 タマちゃんの正体が他の人にばれない様に、なるべく側でフォローするようにしよう。


「ねぇあの二人って付き合ってんの?」

「なんかもう聞いてると、タマちゃん、純君と呼び合う仲ですよ」

「うわぁ。取り残された俺らの居心地の悪いのなんのって」

「やっぱりさっきの殺生石の前で告白してたの?!」


 向こうが聞こえるように言ってるのか、俺の耳がよくなったのかは知らないけど、そんな会話が周りでされているのがはっきり聞こえる。なんてこった。こいつら夜にでもガチな怪談で恐怖のどん底におとしいれてやる。そんな事を考えながらも、全員を集めて次の目的地に向かわせる。

 殺生石に来たかったから芭蕉の碑を巡るなんていう目的を提出したけれど、実は日光には他にも碑があるから、そっちも回らないと不自然になっちゃうんだよね。


 事前に提出したプランに沿って無事に目的地を回り終え、待ちに待ったと言うほどではないけれど夜になる。キャンプファイヤーは数年前にファイヤーダンスに失敗して火傷した生徒が居たらしく、先生たちの仕込みアリでの肝試し大会が始まる。

 クジ引きでコンビを組み、宿の裏手の暗い道を通って神社まで行って帰ってくるのだけど、クラスの女子が気を効かせてクジを交換してくれたらしく、タマちゃんは俺と行く事になった。

 夜中はカードゲームと怪談で盛り上がるだろうから、二人で話が出来るタイミングとしてはちょうど良いし、環さんの姿でやってきた理由を聞かせて貰おう。


 生徒全員が集まれる広い駐車場から、林の間を縫うような細い道にはいるとすぐに真っ暗になる。その茂みの裏に先生が隠れているのが見える。釣竿につるしたヒトダマみたいな物を飛ばしてきたけれど、特にぶつかったり危なかったりするわけではなかったのでそのまま通過。でも暗い道に灯りがあった方が安心だから、自前の火で足元を照らす事にする。

 久しぶりの術だが、実は毎日一回は使って練習していたので自信満々に発動させる。お腹に力を入れて、クルリと指を回して……


「ファイヤー!」


 ゆらりとハンドボールほどの大きさの青い狐火が現れる。青い炎なのに全然熱くないのは変わらないが、大きさは最初に使った時よりもだいぶ大きい。これは地道な練習の成果で、タマちゃんが本気を出すと道の両端に数十個の狐火を出す事が出来るらしい。そこまでするとちょっと派手過ぎていらないと思うけど、とりあえず足元を照らすにはちょうどいい。しっかり見てしまうと変な方向に歩きだしてしまうから、視界の隅でチラ見するようにするのがいいらしい。今回は尻ポケットに刺したケータイの、ストラップのクリップで挟んで置く。こうすると視界に入らないし無くさないから便利で、キツネが尻尾に灯りを燈す理由が良くわかったりした。

 万が一他の生徒に見られても、先生のヒトダマがあるからなんらかのトリックだと誤魔化せるだろう。


 念の為、先生のバレバレのドッキリに併せてタマちゃんがイタズラを仕掛けて来るのを警戒し、眉毛に唾を塗り込んでおく。でも、そんなつもりは無かったらしい。


「あのね」


 一度、大きく息を吸い込んでから、タマちゃんは真面目な顔のまま事情を話してくれた。


 環さんは手術すれば元気になると言っていた事。

 でも、手術が失敗してしまう可能性もあって、その場合は学校に行くなんてとても無理になってしまう事。

 そして、環さんが一番いやなのは、動けなくなったり死んでしまう事よりも、自分の事を誰も覚えててくれない事なのだと。


 だから、商店街で買い物をしていた時に俺が話しかけたのが物凄く嬉しかったらしい。あまり学校に通えていない自分がちゃんと覚えていて貰えたから。

 だからこそ、他のクラスメイトにも覚えて欲しくて、修学旅行という大きなイベントには絶対に参加したいと思った。けれど体調を崩してしまった為、自分が参加していなくても「信田環」が参加していればクラスメイトに忘れられずに済むのではないかと思って代理作戦を企んだ……


「馬鹿だろ」


 俺は一刀両断に、その代理作戦を切り捨てた。


「だってさ、クラスのみんなに環さんの事を覚えてて貰っても、環さん自身は修学旅行で遊んだ事とかを知らないわけだろ。それじゃ話も合わないし……環さんだけ寂しいじゃないか」

「ぼくもそう思ったんだけどね。だけど、忘れられちゃうのがサミシイのはわかるから、だから旅行の事をぜんぶ環さんに話してあげて、サミシク無いようにしてあげようかなって、思った」


 忘れられるのが寂しいって、タマちゃんは忘れられるようなキャラクターして無いと思うんだけど。そう思ったのを読んだのか、タマちゃんがネタばらしをする。


「妖怪って、昔はもっと居たんだよ。だけど『居ない』って思われるうちにだんだんに居なくなっちゃったんだ。だからみんな純に会いたがるんだよ。驚いたり怖がったりするだけじゃなくて『居て当然』って言う風に相手してくれるのが珍しくて」

「ああ、前に言ってたのはそう言う事か。俺が珍しいって」


 タマちゃん連れて帰って来てから、妖怪と会う回数が凄い事になってる理由を聞いた時に、そんな事言われた気がする。


「だからね、環さんが忘れられない様にするのを手伝いたかったんだ。ばれちゃうと、ぼくと旅行した事になっちゃうから、純にもナイショにしてました」

「あー、あくまで、環さんが旅行に来たって言う風に俺が覚えてた方が良かったのか。ごめんね?」


 環さんも妙な事を考えると思ったが、自分が想い出を作るより皆の思い出に残りたいというのなら、それはそれで手伝ってあげた方がいいのかもしれない。病気を治す術なんてものは俺達には使えないのだし。


「んー、でもね。ぼくは純と旅行したかったし、ここにも来たかったから、嬉しい。でも環さんにはごめんなさいだから、あんまり喜んじゃうとズルい気がする。だから帰ったら一緒にお見舞い行ってくれる?」


 正直、なにが「だから」なのかわからないけど、なんとなくわかるような気もする。この替え玉修学旅行はタマちゃんと環さんの利害が一致した物だったのに、環さんの目的は俺にばれちゃって完全成功では無くなったから埋め合わせをしたいって言う事なのかな。ケーキでも買って行けばいいのかな? でも手術っていうから食べられないかもしれないし、お見舞いの品物はちょっと迷う。花でいいのかとも思うけど、他の人も花を持って来ていたら花だらけになっちゃうだろうし。いっそ花を活ける花瓶とかでも持って行けば邪魔にならない……かな。


「おっけー。一緒にお見舞い行こう。それと、クラスのみんなが環さんの事を覚えていられるように、みんなと仲良くしよう。それと写真も一杯撮って、それを見せながら沢山お土産話を聞かせてあげようね」


 おっけーと言ってから、嬉しそうに目をキラキラさせていたタマちゃんだったが、写真と聞いて急に表情を凍らせた。


「みんな? 撮っちゃってへいきなの?」


 写真撮ると魂取られるってまだ誤解したままだったのか。



 肝試しはそのまま何事も無くゴールについたのだけど、後続組と仕込み役の先生がごっそり道に迷ったとかで帰ってこなくて大騒ぎになった。GPS機能のあるケータイを持ってる人はすぐに見つかったみたいだけど、ケータイを持ってない人達は先生たちが総出で深夜まで探しまわる事になって大変だったらしい。

 俺とか、生徒たちも大声で呼ぶとか探すとかしようかと言ったのだけど、生徒は全員宿舎の中に入って点呼を取って大人しく寝ろと言われてしまったので役に立てず。


 えーと。たぶん俺は悪くない。そう思いたい。

 障子に目玉がボコボコ浮かび上がって凝視されるとか、そういう気味が悪い系の怪談話をしようと思っていたのだけど、それどころじゃなく。

 先生が少ない隙をついて女子部屋のタマちゃんを呼び出して、狐火の効果を解除する方法はないかとか必死で考えて貰ったのだけど、そんな便利なワザがあるわけもなくて二人で頭を抱えるはめになってしまった。でも、まぁ、みんなそんな遠くまでは行っていなかったらしくて、日付が変わる事には全員無事に帰って来られたから勘弁して貰おう。


 この集団迷子事件も環さんには話してあげないとね。環さんは面白がりそうだし。

「時間を置いて出発した肝試し後続組が、前に居るカップルをニヤニヤして見てたら、気が付いたら知らない場所を歩いていた」

「前の方が明るいなとは思ったんです。誰か懐中電灯でもズルして使ってるのかと思ってその灯りに付いて行ってたら、なぜか森の中に居たんです」

「生徒が来たから脅かそうと思って後ろからそーっとつけて行ったらルートから外れていた」


後に「肝試しの集団遭難」として七不思議のひとつに数えられる事になり、次の年からは修学旅行中の肝試しは禁止されたとか。

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