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疑惑の修学旅行

 修学旅行初日は、お寺とかを全員で回る。俺は「昔この地になにがありました」なんていう石碑とか見ると時代劇の世界と繋がってる感じがして結構楽しいのだけど、クラスメイト達はあんまり興味が無いらしくてサラッと流してしまうのがモッタイナイ。

 タマちゃんもお寺とか見るの好きそうなんだけど、環さんとかはどうなんだろ?


「ほらぁ、絶対そうだって!」

「そんな事言っても無駄です。川井さんなんてさっきから隣のクラスの」

「ちょっ! ちょっとやめてよね!」


 環さんをチラ見すると、どうやら向こうはガイドさんの話も聞かずに班の女子達とおしゃべりしてる。たまに聞こえる内容は恋バナとお菓子の話ばかり。

 う~ん。お菓子の話ならタマちゃんもしそうだけど、恋バナがわからないなぁ。


 その日の夜も、大部屋に集まっての夕食の間は環さんの様子が気になってチラチラみる。


「なぁ舞原、お櫃の隣に座ったヤツがご飯よそってくれるのってみんなで決めたルールだったよな?」

「俺もお代わりー」


ご飯のお櫃の傍に座ったと言うのにご飯の代わり宣言を全スルーして環さんを監視。夕食のメニューにサラダがあったんだよ、人参入りの。この(・・)環さんはどうするのか気になって。


「自分でよそうよ、うん」

「ガン無視はちょっと酷いよな……舞原が冷たい」


 普通にサラダごと残してました。うーん、わからん。違うのかな、俺の勘違いなのか。


 環さんとタマちゃんは仲が良くなってた。二人ともなんとかく雰囲気が似てはいるんだけど、環さんはほわほわとした性格でありながら人の輪から一歩引いたような感じで、タマちゃんはいつもなんか企んでるっていうか、イタズラを考えてるのに誰とでも仲良くなれそうな子。全然違うんだから、例え姿が同じになっても見分けはついて当然なんだ。


 だけど、どうも確信が持てない。この環さんはタマちゃんが化けている気がする。でも、違う気もする。

 入院中だったはずなのに旅行参加。それについて先生が何も言わない不思議。初めて会った時にあげた五目おにぎりからは抜いていたニンジン。一人称。

 怪しいんだけどな。怪しいんだけどさ、タマちゃんがそこまでするだろうか。イタズラはするけれど、本当に悪い事をする子じゃないと思ってる。環さんが入院しているからって環さんになり済まして旅行に付いてくるなんて。いくら旅行に付いて来たかったからって、あとで本物の環さんが学校に来た時につじつまが合わなくなる。術で化かして何とかすればいいやと思っているのなら……タマちゃんを軽蔑してしまうかもしれない。

 それに、「人化術」と「変化術」の違いを教えてもらった時に、確かこんな事を言っていたはず。


『人間は人化術だからこの姿だけ』

『変化は騙してるだけだから、まゆつばされると解けちゃう』

『血とか髪の毛とかを貰っておけば、姿をうばえる』


 この話自体も嘘、なんていう可能性もあるけど意味も無く嘘は付かないと思いたいし、あの後に術が上手くなって変化術で上手に化けられるようになったとしたら、さっさと自慢している。そういうのは見せびらかしたくなるタイプだ。

 でも、なんどもタマちゃんはお見舞いに行っていたから、髪の毛を手に入れるチャンスはあった。眉唾では解けない化かし方だとしても、俺には『狐の窓』がある。これでタマちゃんの人化術を見抜ける事は実証済み。


 だけど。術で正体を暴くのって気が進まない。それに環さんだって、何でも知ってるほど仲が良いワケでも無い。夏休み中とかに何度もあって話したりはしたけれど、人参が嫌いなのかどうかも知らない。


 その夜のカードゲームはぼろ負けだった。



 二日目。この日は自由行動なので班で集まる。事前に提出したルートでの行動を守る様に注意を受けて、各自移動を開始。

 困った。今日の目的地はタマちゃんなら(・・・・・・・)連れて行きたくない場所なんだ。

 芭蕉のとかは完全にでっちあげ。だって俺が提出した見学地点は……殺生石なのだから。



 日光から少し距離はあるけれど、充分いける範囲にあるのを確認した時、どうやって修学旅行の班行動でここに行くかを考えた。だって、普通に個人で行こうとしたら絶対にタマちゃんついてくるからね。だから事前にここを調べて、芭蕉が句を呼んだとか知って、それを理由に使ったんだ。


 タマちゃんが俺に付いてきた最初の時。俺が婆ちゃんちにいくんだっていったら、「婆ちゃんちにいくなら着いていく」と言ってた。

 あれって、もしかしたら「俺の婆ちゃん」じゃなくて「自分の婆ちゃん」つまり玉藻の前に、と言う意味だったんじゃないだろうか。

 だってさ、考えてみれば会ったばかりのタマちゃんは俺の婆ちゃんを知らないのだし。それに婆ちゃんに会っても挨拶する位で特に何もしていない。会いに行くならと着いてきたのに。

 もしもタマちゃんが、「婆ちゃん」に会いたくて俺に付いてきたというのなら。金毛九尾の狐である玉藻の前が変じた殺生石は死体の様な物? それともお墓? タマちゃんが既に玉藻の前が無くなっている事を知っているのならともかく、知らなかったらショックを受けるかもしれない。その前に狐に嫁入りした俺が殺生石を見て、ここが狐の妖怪にとってどういう場所なのかを体験しておいた方が良い。そう思ってたんだ。


 でも、今の環さんが「タマちゃんと仲良くなって少し影響を受けた環さん」なのか、「環さんに化けたタマちゃん」なのかわからないまま、二日目になってしまった。

 六人全員はタクシーに乗れないので、二台に分乗。なんとか環さんと同じ方のタクシ―に乗ろうとしたのだけれど、


「3人と3人にわかれるんだぞ!」

「カップルと一緒の車に乗せられる人の気持ちも考えてよぉ~」

「必死過ぎ!」

「はいはい、後で二人っきりにしてあげるから」


 などと、意味不明の供述をする班メンバーによって、男女で分けられてしまった。いや、俺は環さんと付き合ってるわけでも付き合いたい訳でも無くて、確認の為に近くに居て観察したいだけで!


 阿部君にからかわれながらも、最近の面白い話なんかを聞かせて貰いながら移動。車酔いして真っ青になってた井上君の気分を変える為のハイテンションな会話だったらしいけど、重要な情報も貰えたので助かった。いちおう井上君には例の袋を渡しておいた。吐いたら自分がゴミ係だしそのまま持たせておけばいいよね。


 男子タクシ―が先に出たにもかかわらず、運転手さんの腕なのか信号機の運なのか、女子の乗ったタクシーが先に到着していた。

 俺がまとめてタクシー代を払って領収書を貰って……とかしてようやくみんなに追いついた時には、環さんは一人で黒い大きな岩……殺生石の前に佇んでいた。


 遠くからみる環さんは両足を揃えて、まるで気を付けをしているような姿勢で立っている。少し頼りなさげに色白な彼女がぼーっと無気力に立っているのは、怪談の一シーンのようにも見える。

 この立ち方は、まちがいなく環さんだ。タマちゃんはもっと胸を張って立つし、俺を見る時には何か面白い物を見つけた様に笑っている。


 だから、ここにいるのは間違いなく


 『タマちゃん』だ。狐の窓の術を使わなくても確信が持てた。


 びっくりした様に目を見開いてこっちを見る『信田環(タマちゃん)』に速足で駆け寄って隣に並ぶ。少し俺より背が高い。

 髪の毛に手を置いてガシガシと撫でる。


「これが、殺生石。白面金毛九尾の狐が変じた姿といわれてる。砕かれてもっと遠い場所に飛んでったとかいう話もあるみたいだから、もし会いたいのなら、ちょっと遠いけど冬休みとかに行っても良いよ。だから一人で勝手に行ったりしないでね、タマちゃん」


 ピコン、と。環さんの黒い髪の毛の中から尖った耳が出てきた。両手で抑える。


「ちょ、耳隠して!」

「なんで? 何でわかったの? 癖とか歩き方とかも病室で一緒に練習して、環さんに『本物っ!』って

お墨付きもらったのに」

「んーっと、勘?」


 一緒に練習って事は環さんの許可を得て環さんの姿してるって事か。一つ心配の種が消えたかな。しかし自分に化けてる狐に本物認定とかダメだろ環さん。


「前に、人化術で他人の姿奪うのは悪い術って言ったと思うけど、ぼくが悪い事してるって思った?」

「いいや、疑ってたとかそういうのじゃなくて。なんか環さんじゃなくてタマちゃんな気がしたからさ。もしタマちゃんが旅行に付いてきたいだけで変化してるなら叱っただろうけど、俺に隠して人化術まで使っているのならきっと理由があるんじゃないかって」

「隠して無い。聞かれないから教えてないだけ」


 俺の前の『環さん』は、完全に『タマちゃん』の仕草で胸をそらしてフンッと鼻を鳴らした。威張り過ぎ。


「聞かれてないからっていうのなら、聞いたら教えてくれるんだよね?」

「ぎく」


 わざわざ擬音を口に出してから目をそらす。わざとらしいほどにあざとい。なんか隠してんだろうな。


「えーっと、理由についてはあとでまとめて話す。夜の自由時間でいい?」

「ちゃんと話してくれるならそれでいいよ」

「うん、約束する。だから術を使わずに、ぼくの正体見抜けた理由おしえて?」


 クキッと首を傾けて教えてのポーズ。環さんの顔でやられると違和感あるな、とか思いつつ理由を説明してあげる。


「だってさ、環さんが本当に退院してきたのなら、それこそ『タマちゃんが変身している環さんの振り』しそうじゃない? 普通にクラスに自分の制服着せて紛れこませようとする人だよ?」

「あー、そのはっそうはなかった」


 環さんらし過ぎたという所が逆に偽物っぽいって、ちょっと変かな?


「あとね、やたら目があう。ちょこちょここっちを気にしてる感じがしたから、それも怪しいと思った」

「それは純がこっち見てたからだと思うよ?」

「あとね、タクシ―の中で阿部君から、『瀬良から聞いたんだけど、信田が朝起きていきなり旅館の布団を干し始めたんだってよ』って聞いたから」


 タマちゃんのスタンプ帳は、夏休みが終わっても継続中だったのです。なんてね、そんなヒントは色々あっても、パッと見て『あ、タマちゃんだ』って思ったっていうのが一番大きいんだよね。だからホントに勘。

 素で見抜かれたのがよほど悔しいのか、がっくりと肩を落として顔を伏せるタマちゃん。何日一緒に居ると思ってんだ、誰に化けてたってすぐわかっちゃうと思うよ?


いまさらですが、タマちゃんは鬼火の回で「化かさない」と純と約束して以来、嘘をついていません。

ただし、「あえて説明しない」のは嘘を付いているうちに入らないと思っています。

そして、一度「心が読める」と宣言している以上マヨイガで、読まないでと言われていないのだから、常に読みっぱなしなのはアンフェアではないと思っています。 純君、常時サトラレ状態。

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