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夏休みも終わって

 環さんが入院したらしい。

 これは別にクラスの連絡網とかに流れたわけじゃなくって、母親が教えてくれた。

 環さんとは夏休みに入る前はほとんど話す事もなかったけれど、修学旅行用の物をいろいろと買いに行った時に会って以来、タマちゃんがすっかりなついているので、なんとなく仲良くなった感じ。環さんもタマちゃんが気に入ったらしくて、昔に着ていた小さくなった服などをタマちゃん用に何着かくれたりしたので、お礼にお菓子を届けたりしていた関係で親同士も面識があったのだとか。

 次の日にお見舞いにいった時はそんなに病人っぽい感じでは無かったのだけど、お見舞いに何持って行ったらいいかわからなかったので持って行った可愛い動物の写真集を渡した時に、真っ白な手に点滴がささったままで、急に「入院」って実感して少し怖くなった。

 あんまり女の子の病室に何度も行くのも変かと思ったので、その後は毎日タマちゃんだけがお見舞いに行った。


「ねぇ、タマちゃん? 病気がパァーッと治ったりするような術なんて、ないんだよね?」


 わかってて、口に出してしまった。妖怪だからって特別な事な何も無くて、刃物は危ないし殺虫剤かけられれば嫌な気分だし、転がれば目が回る。人間だって何だって大した違いは無い。それでも、不思議な事が出来るタマちゃんについつい聞いてしまった。


「あのね、純。それはみんな考える事なんだよ。そしてね、楽してお金とか、凄い力とか、健康とか、そういうのを欲しがると、お話だと大抵悪い事になる」


 環さんの入院は『お話』ではないけれど、言いたい事はわかった。お医者さんと環さんとが頑張って病気と戦っているのであって、楽して結果だけに飛び付くのは良い事じゃない。例え、そんなズルイ抜け道みたいな方法があったとしても。



 環さんが心配なのは心配だけど、お見舞いばっかりだったわけではなく。

 二度目の夏旅行の後は、近所のプールに行ったり、阿部君達との宿題教え大会で手つかずの宿題があった事が判明して大騒ぎになったり、環さんのお見舞いに行ったりして正しい学生生活を過ごした。

 正しくない学生生活としての妖怪生活も、真夏にサンタクロースにあったり見上げ入道様と脚立に乗った話をしたり、川の化身の蛇神と喧嘩してしまったり、週刊連載の漫画だったら2年分くらいのドタバタがあったりした。

 大怪我をするような事件はなかったのだけれど、妖怪よりも宿題よりも一番手に負えなかったのは、ご機嫌斜めになったタマちゃんだった。

 うちに来てからだんだん朝型生活になったタマちゃんを、ラジオ体操に連れ出す事に成功したのだけど、小学生だけ貰える「スタンプ」にすっかりはまってしまったらしくって。

 一日一個押して貰う度に、鼻息をフンフン荒くして家族全員に見せて回る始末。

でも、夏休みの序盤の分が無いからコンプリートできない事に気付いて、すっかりむくれてしまった。


「なんてゆーかさ?コンプリートできないとすっきりしなくない?」


 このむくれてしまったタマちゃん問題は、母親が解決した。

 家のお手伝いでハンコ(父親自作のニッコリタマちゃん印の消しゴムハンコ)を貰えるスタンプカードを作り、毎日ふとんを干す度に押してあげたのだ。20個溜まるごとにドーナツを揚げるか、ホールのケーキを焼いて上げるという甘やかしっぷり。くそう、俺はそんな手作りおやつ作って貰った覚えないぞ。


 そんなこんなで、夏休み後半は瞬く間に過ぎて行った。


 あ、夏休み明けの中間試験については、ノーコメント。大丈夫、期末で取り戻す。

 中間試験の結果が帰って来て一週間後、環さんが教室に居ないまま、修学旅行の班分けが行われた。もとから居なかったみたいに成るのが嫌だったから、同じ班になった皆に頼んで「信田環」を同じ班扱いにして貰った。

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