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狐ではじまる妖怪生活  作者: 地空乃いいちこ


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20/30

タマちゃんのお約束

「ねぇ、最近妖怪遭遇率高すぎない?」

「みんな珍しいんだよ」


久しぶりに学校指定の半袖ワイシャツに腕を通しながら、ふと思った事を聞いてみる。


うん。ホント久しぶりだ。


今日は授業は無いから教科書はいらないし、宿題の提出もほとんどはまだだからカバンは軽い。水筒と提出するプリントだけ入れたのを確認する。忘れ物は無い。

神様やぬらりひょんに会ったり、グレムリンや家鳴りを退治したり。塗り壁さんや火車さんにもご迷惑掛けた。

その後にもデカイ蛇の人とか、見上げ入道さんとか、正体不明のなにかとか。

あんまり頻繁に妖怪に会うものだから聞いてみたのに、相変わらずタマちゃんの返答は的を射ない。得ないだっけ、射ないだっけ。教科書のどっかに書いてあったのは覚えてるけど内容を覚えてない。まずいな。


「珍しいって、何がさ?」

「純が」

「なんで」

「しーらない」


なんでプイってされるのかわからない。いや、着替えてるんだから横向いてくれるのは助かるけど。

タマちゃんが横向いているうちにズボンも履き替える。久しぶりの夏服だけど小さく感じたりはしない。そんなに急激に背は伸びないようだ。膝とか結構痛いんだけどなぁ。


「今日はホームルームとかだけだから、お昼には帰ってくるからね」

「はぁ~い、いってらっしゃい」


なんか夫婦の会話みたいだな、と思う。いや、夫婦なんだっけ?

母にも行ってきますと伝えて、ズシリと重いカバンを持って家を出る。今日は夏休みの一番めんどくさい日、登校日だ。


アスファルトから立ち上るムッとする熱気がぬくい、いや憎い。

風が吹いても涼しくない。生温かいどころか熱風だ。

学校に続く直線道路の先もゆらゆらと揺らめいている。

妖怪が出るなら、ひぃやりとした風とかの方が良いのに。

いや、なんでも妖怪のせいにするのは良くない。道がユラユラしているのは陽炎だし、生温かい風も気温が35度だからだ。真後ろから聞こえるシャコシャコいう音も、小豆とぎじゃなくて自転車の……


「ナニぼーっと歩いてんだ純!」

「自転車通学禁止だよ」

「公園で自転車停めて、そこから歩くからいいんだよ」


要領のいいクラスメートの安部君だった。小豆とぎじゃない。

やばいな、だいぶ頭が妖怪中心の生活になってる。ただしい中学生に戻さなきゃ。



汗をかかない様にゆっくり日陰を歩いていくか、早くクーラーの利いた校内に掛け込む為に走って行くべきか悩んでいる間に学校に着いてしまったので、そのまま教室に入り、夏休み前には挨拶する事のなかった信田さんに挨拶してから、パンパンに膨らんだカバンを机にどさりと置く。


「ぐえ」


うん、気付いてた。途中から。校門くぐったあたりでだけど。このカバンに何かが潜んでる。たぶんキツネ的ななにか。


もう一度カバンを持って、廊下に出る。

水道の台に乗せてカバンを開けると、中からは……朝はふわっふわだったのに見る影もなく汗でべったり濡れたタマちゃん(キツネモード)が居た。


「純、いたい」

「うん、自業自得だよね。なんでカバンに入ってるの?」

「おやくそくかとおもって。あとアツい」

「自業自得って意味わかる?」


カバンから自分で這い出たタマちゃんは、そのまま蛇口の下に降りて自分で栓を捻ると水を浴び始める。自由だなー。


「さっき、凄い声聞こえたけど、もしかしてタマちゃん?」

「たまきさんこんにちー」


カバンを置いた時の声が聞こえていたらしく、環さんが心配して見に来てくれたらしい。

水飲み場の中からずぶ濡れになりながら手を振るタマちゃん。そのままプルプルと身を震わせて水を飛ばすので、こっちまで濡れてしまう。仕方ないのでハンカチで毛皮を拭いてやる。この状態で人化したらどうなるのやら。


「タマちゃん、付いて来ちゃったのね」

「うん!」


手を取り合って、せっせっせしながら喜ぶタマちゃんと環さん。


「で、どうする?ぬいぐるみの振りしてカバンに入ってる? それともどこかで待ってる?」

「あー。風の通る木陰かなんかで」

「それとも、私の予備の制服着てクラスに紛れちゃう?」


キラキラした眼でとんでもない提案をするのはなんと環さんだった。

あ、タマちゃんが同じ眼になってる。


「いや、紛れられないでしょ。絶対気付くし。それに何で予備の制服持ち歩いてるの?」

「こんな事になるんじゃないかと思って。タマちゃんならきっと登校日に着いてくると思ったから!」


いえーいとハイタッチする二人。

この二人、仲良すぎないか? っていうか、なんか似てる。


「というのは冗談で。去年より少し背が伸びていたので、新しいのを注文していたんです。この間。朝お店が空いてたから受け取って来ちゃった」


それなら納得がいく。でも少しだけ離れておこう。悔しくなんて無いけどさ。


「髪の毛すぐかわくから。そしたら服貸して貸して」

「うんうん。私の代わりに出席の返事してみる?」


いや、それは無理だろう。まさか、ホントにやる気じゃないよね?


そして緊張感あふれるホームルームが始まった。

出席を取った時に、舞原って呼ばれた時に返事が二つ上がった時はびっくりしたけど、それ以外には何の違和感も無く夏休み明けの修学旅行の説明とか、中間テストあるからあんまり羽目外すなよとか、海とかにいく時は子供だけで出かけない様にとか、そんな注意事項が続く。

子供だけじゃなければいいんだよね、子供と妖怪ならセーフだよね。妖怪の子供だからアウトかな?とかボンヤリ考えていると、あっという間に終わり。今日はこれで解散、登校日とか何の為にあるのやら。


安部君の後ろのイノウエがちょうど風邪で休んでいたので、そこに座っていたタマちゃんは最後まで気付かれていなかった。


「すごいねー! 『そこにいるのは誰だっけ?』とか、『君、名前は!』とか言われたらどうしようと、ずっとドキドキしちゃった!」


そんな風に話しかけてくる環さん。


「みんな化かしてやった」


胸を張るタマちゃん。このキツネ、超ドヤ顔です。

俺ぜんぜんそんな心配して無かったよ。信頼してるのを通り越して毒されすぎかも。ただしい中学生生活、無理っぽい。

しかし、だぁれも不思議に思わないって凄い。ぬらりひょんのお爺さんが来てた時ってこんな感じだったのかな。

「学校についてきちゃう」ってお約束ですよね。


しかしホント久しぶり。超スローペース。月イチくらいには更新して、今年中には完結させます。

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