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キツネに化かされてる

線路沿いをひたすら北上。

父親の通勤時間と引き換えに、純が生まれた時に買った家なんだよと聞かされている郊外の一軒家を出て三日目。

最初はファミレスで食事と休憩ができていたが、周囲からビルが消えて田んぼだらけになってきた頃から、休憩場所が減ってきた。

駅の近くにはかろうじて店があるが、30分も走ればカントリーロードになるようになり、ここから先は補給が難しくなる事を覚悟する。

昼間に公園で仮眠をとり、ゆっくりのペースとはいえ夜遅くまで走り続けた。

漫画喫茶や24時間営業の店の他、父親の知り合いがやっている旅館に泊まれるように話をつけてくれるという話もあったのだが、夜明けの景色が楽しくて何処にも止まらずに夜明かしした。

さすがに深夜に暗い中を走るのは危ないので、蚊に喰われながら朝を待つ。


真っ暗だったそらが、だんだん紫色になり、気が付くとふわっと白くそまっているのはとても綺麗で。

別に家に居たって見ようと思えば見れる景色のハズなのに、こんな簡単な事でもう旅を満喫した気分になってる。安い俺!


今日の昼には婆ちゃんの家に着く。

半分ほど登った太陽をみながら、また自転車をこぎ始めた。


~~ 数時間後 ~~


田んぼ、田んぼ、一面の田んぼ。

地平線みたいに見えていた山に色が付いてきている。

田んぼの中に変なかかし。キャスケット帽かぶってる。

大きな庭のある平屋の家の前を通り過ぎ、道の脇には用水路。

道は舗装されてない。タイヤの踏まない中央には草がぼさっと生えている。


ずーっと田んぼ。また変なカカシ。


そういえば、長い事だれともすれ違ったりしてないな。田舎はそんなに人が居ないのか。

いや、今農作業の時間じゃないのか?なんでこんなに人が居ない?


田んぼ、田んぼ、ずーっと用水路。

また変なカカシ。顔が笑ってる。


時計がいつのまにか止まっていて、影の向きもしばらく前からずっと真横な事に気が付いた。

たぶん、3時間位。田んぼ田んぼカカシしてた。


どうしよう?

っていうかどうしたらいいんだ。


そういえば何時間もまっすぐ走っているのに、分かれ道があった覚えがない。ずっと直線。

日本一長い直線道路はたしか北海道の16kmだっけ?

それだって3時間も走れば端までいける。そもそも分かれ道も無しの直線なんてありえない。いや、あるから困ってるんだけど。


一旦自転車を停めて、カカシ君の隣に座り込む。軽く汗をかいた体に風が気持ちいいので、このまま休憩にする。

コンビニで買える30円のチョコを出して、もぐもぐ食べる。疲れた時には甘いものがいいらしい。ペットボトルの水を半分飲んで、休憩は終わり。

食べ物はまだあるけど、飲み物が残り少ないから、いつまでも直線道路から出れないとヤバイ。

道に迷ってる……というわけじゃないのだろうけど。どうなってるんだろう?無限ループ?

なんなんだ、神様助けて!


考えていたら怖くなってきたで、お地蔵様代わりにカカシ君にチョコを二つ供えて、また自転車に乗って走り出す。


細い草だらけの道がひたすらにまっすぐ。

両側は青々とした田んぼ。


あ、これ後ろに戻ったらどうなるんだろ。

普通に考えれば3時間はまっすぐのはずだけど、なんらかの異常事態ならば。

道がないとか、すぐに分かれ道があるとか、そんな不思議があってもいいはず。


そう思ってクルリとターンしてさっきのカカシ君の前を通ると……

チョコが半分ほどかじられてる。

そして……



カカシの口元にチョコが。



なんだか分からないが、犯人だけわかった気がする。

俺はまたカカシ君の隣に座り込むと、ケータイのカメラをタイマーモードにして、自転車のサドルに置いた。


「カカシ君と記念写真~。はいちーずっ!」


ヤケクソ気味に叫ぶと、ケータイを裏返して撮った写真を見てみる。

っ!俺だけしか映ってない!

誰もいない所に人が映ってたら心霊写真だけど…あるはずの物が映って無いってのはなんなんだ?

写真取ると魂を取られるとかいうから、オバケだったら魂無くなるまで写真撮りまくってやる。


「俺を元の場所に戻さないと、魂無くなるまで写真とるぞ!」


今度はケータイを縦にしてカカシの全身を画面に入れて、はいちーず!


「ほーら無くなるぞ!」


もう一枚、はいちーず!

撮る時の音声が「はい、ちーず!」なせいで緊迫感がないけど、結構必死です。

画面を見てみると、やっぱりカカシは映って無くて……下の方に茶色いモノが。


「こいつ、キツネ?」


ケータイの画面から、カカシ君に目を移してみる。

そこにはもうカカシはなく、足元に茶色いモフモフした塊が落ちてるだけだった。


「たましい……取られりゅ……」


と、うわ言の様に呟き、目をぐるぐるにしてあおむけに倒れているキツネ。

それもマクラ位の大きさで、しっぽも胴体と同じ位のふわふわ。

イヌ科の動物っていうよりは、ぬいぐるみに近い。

っていうか、こいつ今しゃべった!

写真取られて魂取られると思って気絶しちゃったのかな?

なんか…足ヒクヒクさせて倒れてるまぬけなサマを見ると、悪いことしちゃったような気分。


ん~。少し、ゆっくりしていくか。

明け方のまま影の位置が変わらなかったのも、コイツのせいだったみたいで、すっかり太陽は頭上に上っているから無限ループも解けてると思うし。

あ!太陽が真上って事は、お昼食べても良いころじゃないか。あんまりおなか減ってないけどな。


リュックの中から、夜に冷えてきた時の為に持ってきていたパーカーを取り出して膝の上に。

その上にキツネを抱えてそっと乗せる。

野生のキツネは寄生虫が居るから撫でてはいけない!とか言われているけど。

……しゃべったしなぁ。

たぶん、触っちゃいけないキツネとは別モノなんじゃないかな。

いや、もちろん別な意味で関わりあいにはならない方がいいんだろうけど。


ハンカチをペットボトルの水で濡らして、キツネの目の上に乗せてあげた。

そしてお昼ご飯を食べるかおやつを食べるか迷う。

チョコは残り少ないけど、昨日コンビニで買った五目おにぎりも賞味期限は今日までなんだよね。

両方、食べちゃおうかな。今日の夕方には婆ちゃんの家に着けるだろうし。

そんな事を考えながら、2~30分もそのままぼーっとしていたら、膝の上のキツネがむくっと起きた。

で、短い手でハンカチをどかして目をゴシゴシ。

猫が顔洗ったりする仕草より、子供の仕草に近い。やっぱりこいつタダモノじゃない。

くぁーっと呑気にあくびして。


ようやく現状を把握したのか、いきなりダッシュで逃げると、自転車の後ろに隠れた。

タイヤの影に隠れてるつもりみたいだけど、スポークは隙間だらけだから全然隠れてない。


どうしよ。

ちょっと可愛いかも。仲良くなりたいけど、『星の王子様』によればキツネと仲良くなる時はいきなり近づいちゃダメなんだよね。

五目おにぎりに入ってる油揚げのきれっぱしを、ぐーっと手を伸ばして大きめの石の上に置いてみる。

で、残りのおにぎりを頬張る。

だいぶ時間のロスがあったけど、夕方くらいに婆ちゃんのトコに着けるかな。


二口目を食べようとしたら、服の裾を引っ張られた。


「もっと欲しいです」


懐くの早いな!

何だかものすごい速さで餌付けに成功したので、おにぎりを半分に割って手渡す。


「これ、食べれる?」


こくこくと頷くと、両手で抱えるようにして食べてる。

それも五目おにぎりの中から器用に人参を捨てながら。


「道端に人参捨てちゃダメだよ」


って叱ってみたら素直に拾って、俺のポケットに人参押し込まれた。

いい子なんだか悪い子なんだかわからん。

鼻先をおにぎりに突っ込んで食べてる子狐を、正面から覗き込んでじっくり観察。尖った耳にふさふさのしっぽは、まちがいなくキツネなんだけど、動物園で見るタイプじゃなく、かなりデフォルメされてるキツネだ。

真っ黒で大きな瞳に秋の稲穂の様な綺麗な毛並みのふわふわした生き物が、短い手足で一生懸命おにぎり抱えて食べてる。


「……可愛いなぁ君、俺は純。ねぇ、君の名前はなんて言うの?」


ポトリ。

地面に落ちるおにぎり。

なんでそんな動揺してるんだ。

目をそらして、頭掻いて、もじもじして。

いや、そんなに照れられても!口説いたわけじゃないぞ!


「あの、たまって言います。大祖母ちゃんの名前から一文字頂いた由緒ある名前でして……」


もじもじ。足でのの字描いてる。ホント器用だな!


「うん、じゃあタマちゃん?さっきまで走っても走っても同じ所を走ってたみたいだけど。あれはタマちゃんが化かしてたんだよね?」

「うん。ごめんね?」


くきっと体ごと首を傾けて謝る子狐。


「へたり込むまで同じとこ走らせて、泣きだしたら指さして笑おうかと思って……」


おい。

悪気はなかったんだよ?と続けてるがそれが悪気で無くてなんなんだ。

さすがにそのまま流す事はできなかったので、両手で尖がった耳の先をつかんで引っ張る。


「迷 惑 だ か ら ね!」

「いたいいたいいたいー!」

「もうああいう事しちゃダメだよ?」


と言い聞かせて、耳を引っ張るのをやめる。

タマちゃんは目に大粒の涙を浮かべて、うー、と唸ると


「もう、同じとこ走らせるのはしない。だから許して?」


……他の事ならするって言ってるようなもんだな。

このタイプは同じイタズラは二回しないけど、禁止されてない事ならなんでもやるんだろうなぁ。

まぁ、いいか。

立ち上がって尻についた土をはたく。


「もうしないなら許してあげるよ。俺はもう行くよ、お婆ちゃんの家に行くんだ」


そう告げて自転車にまたがって進行方向を眺めた。

目の前が十字路になってた。

なんだか……凄くげんなりした。


お婆ちゃんちに行くなら一緒についてく!とタマちゃんがハンドルの上に飛び乗る。

あのね、純はあそこの角を曲がって、あっちとあっちを曲がって、ずっとぐるぐる回ってたんだよ!と嬉しそうに報告してくれる。


今日中につけるかなぁ。俺、凄く疲れたんだけど。


とりあえず、これでキツネ編その1は終了と言う感じです。

次は婆ちゃんの家について不思議な屋敷編、家に帰って家族編と続いた後、本格的にいろいろな妖怪の話になります。


~~~~~~~~~~~~~~~~

なんか細かく刻みすぎたと感じたので、1~4を一つにまとめました。

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