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セーブデータとグレムリン

ダラダラ夜更かしするのも楽しいけど、早起きして遊ぶのも楽しい。

何しろ、がっつり遊んで時計を見るとまだ昼前だったりするのだ。

(一度、タマちゃんが時計を遅らせるという悪戯をしたのだけれど、「時計が3時じゃないから、3時のおやつは抜き」とした為、泣きながら時間系いたずらの封印を約束していた)

よって、今日も時計が5時45分をさすと同時に起床。パジャマから運動用スエットに着替え、カーテンを開けてお日さまを浴びる。

半分寝ているタマちゃんを叩き起し、レギンスとロングTシャツに着替えさせて公園に向かう。

……どうでもいいけど、俺のお下がりじゃない服が増えてるのは母親と父親がそれぞれ買うから。ホントに娘欲しかったのな。グレないけど拗ねはするぞ。


公園で夏休みのラジオ体操を2番までしっかりやって、タマちゃんがスタンプを押して貰うのを待つ。

早起きは文句言う癖に、ラジオ体操のスタンプ押して貰うのは嬉しいらしい。最初の方のスタンプが無いから皆勤賞にはならないんだけどね。


こうやって、

『朝イチの太陽を浴びて健康的に生活すれば、怪しいモノには惑わされない』

っていう婆ちゃんの言いつけを守っているわけなのだけど。

昨日、ぬらりひょん来たよなぁ。ああいうのは害がない内にはいるのかな。神社では神様に会えたけど。

あ、そう言えばまだ父親に神様の事を話して無かった。急いで戻れば出かける前に間に合うかな。


「タマちゃん、ダッシュ!家まで競争!」


叫んで走りだした。長距離通勤戦士の父親は朝が早いのだ。

耳元で風が音を立てる位の速さで走るが、たちまちタマちゃんが追いついてきて並ぶ。

やっぱりこやつめ、走るの早いな…。神社行った時の遅さはわざとか。

まぁ。いいんだけどね、わざと捕まろうとして遅く走るなんて可愛いじゃないか。この位は騙しているうちには入らないだろう。そもそも隠し通せてないわけだし。


「ついた!ぼくの勝ち!」

「ただいまー!パ…父上、まだいる?」


結構全力で走ったんだけど、負けた。呼吸が乱れついでに思わずパパとか呼びそうになってしまった。封印封印。

呼吸の乱れてないタマちゃんがニマニマこっちを見てる。ちっ!


「いるけど、もう出るぞ。どしたんだ?」


朝ごはんを食べ終わった父親が玄関前でネクタイ締めていた。


「この間さ、神社に行ったら神様にあったから、今度ちゃんと作法とか教えて貰いたいなと思って」

「朝の忙しい時間になんかとんでもない事聞いちゃったなぁ」


ネクタイ締める手が止まる。いきなり神様にあったとか言ったらそりゃ驚くか。普通は信じないだろうけどね。


「昨日のぬらりひょんの事もあるし。妖怪遭遇率が高すぎる気がするし。お祓いとか行った方がいいのかと思って」

「お祓いなんかしたら、お前自身が消滅したりしないよな?」


ネクタイの玉を直しながら父親が恐ろしい質問を投げてくる。

タマちゃんは娘扱いなのに、俺は妖怪枠なんだ……確かにちょっと不安だったから神社に確かめに行ったんだけどさ。


「鳥居はくぐれたし、お札やお守りにもさわれたよ。それに神様が作法知ってて偉いねって言ってくれたんだから、俺が祓われる側って事は無いはず」

「なら安心だな。会社休んだ方がいいか?それとも今度の休みでもいいか?」

「いや、急がないから会社行って下さい。今度の休みの日に教えて」


うお、急に仕事休んでまで教えてくれようとするなんて。やっぱりちゃんと身を案じてくれてるのか。ビバ父親の愛情!


「了解。じゃ土曜日あけとけよ。タマちゃん、純をよろしく頼むな?」

「はいはーい」


タマちゃんに俺の事を頼んで、父親は玄関から出て行った。2時間半かけての通勤、お疲れ様です。

さて、朝ごはんを作るか。タマちゃんはリビングのでかいテレビにファミコンを繋いで遊び始めた。

……新しいゲーム機もあるんだけどね。CD触るの怖いらしくて、父親のクローゼットの奥からカセットのゲーム機を引っ張り出してきたらしい。


たまごも納豆も品切れなので、ウインナーを一袋取り出す。

袋の中身は半分しか無い……父親に先越されたか。二人分のおかずの一品にするには少ないので、パスタを茹でてナポリタンにしよう。

ちなみにご飯もちゃんと食べるのでナポリタン丼だ。


「うわぁぁぁ!」


そこまで決めて鍋に沸かしたお湯にパスタを放り込むと、タマちゃんの悲鳴が聞こえてきた。

大連鎖でも食らったか?いや、一人で遊ぶ時はRPGのはず。どうしたんだろ。

コンロの火を弱火にしてリビングに行ってみると、足音を聞いて振り向いたタマちゃんが涙目になっている。

画面には『あなたの冒険の書は……』で始まる有名なフレーズが。んー、カセットの電池が無くなってたのかな。


「きのう、べぎらま覚えたばっかだったのに!」


一番面白い頃だな、ご愁傷様。


「純!探して!」

「え…何を?」

「ぼくのぼうけんのしょ、消した奴!」


いや、電池切れだろ。誰かが消したわけじゃないよ、と言ってもタマちゃんは一歩も引かない。


「ちがうよ、小さい羽生えた小鬼が触ってたんだ。だから心配になって付けたら、中身消されてた!」

「ちょっと……それ、詳しく聞かせて」


長年の恨みのぶつけ場所を見つけたのかもしれない。いままで何度悔しい思いをした事か。


「純、手をこうやって、キツネの形にして?」

「こう?」


両手の中指と薬指だけを親指に付ける。するとタマちゃんを俺の両手の指を、編むように複雑な形に組み始めた。


「痛い痛い痛い!折れる、逆に曲がってるって!」

「あれ。こっちか、これでいいはず。これ、狐の窓。ここから覗いて探して?」


それだけ告げてタマちゃんはソファーの裏や食器棚の中をバタバタ探し始めた。

そのタマちゃんを、指で作った窓から覗いてみると……。

おお!茶色い毛玉が歩いてる!凄いなこれ。正体とかがみえる術なのか?

すると指の間から見えるキツネモードのタマちゃんがくるっと振りかえり


「純のえっち。覗かないでよっ!」


……いや、覗くってそういう覗き方じゃ無いんじゃ?

でも、『鶴の恩返し』とかだと正体見たら鶴が帰っちゃうわけだし。もしかして正体見るのってマナー違反なのか?

むぅ。なんかエッチとか言われると一方的に悪いことしたみたいで気まずいな。バッドエンドフラグも立てたくないし、タマちゃんをこれで覗くのはやめておいたほうがいいのかな……?


タマちゃんが二階の方にあがっていったので、そっちを見ないようにすると必然的に一階の和室とリビングや玄関を重点的に見る事になる。

ファミコンを弄ってたって事は、機械に興味がある小鬼なのかな?

せっかくだから餌を撒いてみよう。

ファミコンの電源を入れなおし、主人公の勇者の名前を「タマすけ」で入力。起きて王様に会って酒場でセーブ。二つ目、三つめのセーブデータにも同じように記録。

電源を入れたまま、放置。


パスタ茹でっぱなしだったのに気付いて、火を止めに行く。パスタ伸び伸びだな。

切ったウインナーと玉ねぎと一緒にフライパンに入れて、ケチャップとタバスコ投入。

火を止めた流れで、つい朝ごはんの支度をしてしまったけど、リビングに戻って扉の影に隠れて『狐の窓』を作る。指痛いな、これ。

覗き込むと……いた!

コウモリ羽根を持ったの10cm程の大きさの筋張った小鬼。


ちくしょう、電源パチパチしてやがる!

あんなにONとOFF繰り返したらデータもきえるよ、そりゃ。

『窓』から目を離すと見えなくなる。目を離して見失っても嫌なので、大声でタマちゃんを呼ぶ。

階段を駆け下りてきたタマちゃんが、キッ!とファミコン本体のあたりを睨むと、ティッシュペーパーを二枚とって大またで歩み寄り、背中から小鬼を摘みあげる。

キーキー喚いている小鬼を、窓を開けて表に放り投げた。


ティッシュごしに掴んで窓の外。そういう扱いなんだ。


「べぎらまー!べぎらまー!」


おおっ、凄いぞ。狐火を次々に出しては投げつけてる。俺もやろう。


「メラゾーマ!」

「べぎらまー!」


風に吹かれてふわりとティッシュが開く。中に居た小鬼は太陽の光があたると全身から煙を噴き出して溶けるように消えた。

あー、狐火はノーダメージなのにお日様に直接あたると消えるのね。

婆ちゃんの言いつけはやっぱり正しかったんだ。


「あくはほろびた!」


ぐいッと胸を張って誇らしげなタマちゃんに、伸びたナポリタンを持ったお皿を渡す。

朝ごはん食べたらレベル上げ交代でやってあげるからね。




タマちゃんのパーティは、勇者タマすけ・戦士ぱぱさん・武道家ままさん・魔法使いじゅんです。

打撃力過剰なのが好みなのか…

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