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オレンジ色の憂鬱

作者: コウ
掲載日:2026/03/23

ようやく昼休憩に入れたのはもう時計の針が四時を回ってからだった。

狭いバックヤードに入り込んでラップに包んだおにぎりを食む。なんだかお腹は減っているのに、疲れ過ぎて食が進まない。

年齢とともに食欲や体力は確実に落ちてきていると感じる。

私はそれほど大きくもないおにぎりを半分食べただけでバッグにしまう。代わりにペットボトルの麦茶を取り出して一口、二口の見下す。

開いたスマホには案の定なんの連絡も来ていない。いや、一件だけ来ていたLINEは近所のドラッグストアからのものだった。

今日は三連休の最終日。いつも以上の来客に休憩を取る事もできず、ずっと立ったまま接客を続けていた。改めて確かめなくても足が浮腫んでいるのがわかる。

この店が入っているショッピングモールは地方都市にありがちな『ここくらいしか娯楽が無いので、用事がなくても週末には人が集まる場所』だった。

私が勤めているアパレルショップも今日は高校生やら家族連れやら常連客やらでごった返していた。

一応休憩時間は一時間あるのだが、おそらくそんなに休んでいる暇はないだろう。

私は気分転換に2階へ上がる。

メダルゲームに熱中している老婆がいる。上手いのかぎっしりとメダルが詰まっている緑のカップが三つも置かれている。

プリントシールに落書きしている若者二人組が見える。女の子が甲高い声を上げながら、男の子の腕に手を回している。

学生服を着た男の子と女の子が、お菓子を落とす機械で取った戦利品をビニール袋に詰めている。

休日のここは人の気配で溢れている。ふと、高校の時隣のクラスだった女の子が真剣にクレーンゲームを操作していた。隣には小学生くらいの男の子が台の中の、ゲームキャラクターのぬいぐるみを指さしている。親しかったわけではないので声をかけたりはしないけれど、なんとなく遠巻きに眺めてしまう。彼女は数回クレームゲームを繰り返したが、結局落とせず駄々をこねる男の子と帰っていった。

私は財布を取り出し、彼女がやっていたクレーンゲームに百円玉を投入する。

アームがぬいぐるみを軽々と持ち上げる。しかし持ち上がったところで力無く落としてしまう。何度かお金を入れて繰り返すと、ぬいぐるみは徐々に穴に近づいたが、あと一歩のところで落ちない。

いつの間にか小銭が無くなっており、私は両替機に千円札を放り込む。出てきた百円玉を握りしめ、台に戻る。再びぬいぐるみをジリジリと動かす。頭の隅では冷静な自分が、何をムキになっているのかと冷静では無い自分を止めようとする。別にこのぬいぐるみが欲しかったわけではない。少なくとも私は欲しくなかった。ぬいぐるみを落としたとしても彼女の子どもにあげるわけでもないのに。

結局二千円ちょっと使ってぬいぐるみは私の手元に落ちてきた。休憩時間終了まであと二十五分。

私はぬいぐるみを抱えたままアーケードの手すり越しに一階を眺める。天窓から眩しいほどの夕陽が射し込み、私の顔を照らす。

一階には恋人たちや家族連れの客たちが楽しそうに笑っている。

思わず胸でぬいぐるみを抱える腕の力が強くなる。なんてことはない。平気、へいき。

自分に言い聞かせるように、頭の中で繰り返す。

幸せそうな人々の声。溢れる笑顔。まるで修行のようだと思う。

プレゼントする子どももいない、もらわれる当てのないぬいぐるみに、先ほどより愛着を感じながら私は一人階段を下りて、店舗へと向かった。

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― 新着の感想 ―
拝読しました。 地方都市特有の空気感と、バックヤードでの静かな疲れが肌に伝わってくるようなリアリティに圧倒されました。 欲しかったわけではないはずのぬいぐるみに2千円も費やしてしまうシーン。そこにある…
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