第19話『バレてしまった秘密』
文化祭の準備が本格的に始まってから数日。
放課後の教室には、色紙やポスター、段ボールが散らばっていた。
玲奈は窓際で、文化祭のポスターに色を塗っていた。
「玲奈、そこもうちょっとピンク濃くして!」
「う、うん……こんな感じ?」
「うわ、可愛い!」
クラスメイトの女子たちはすっかり玲奈を女子扱いしていた。
自然に会話し、自然に笑う。
けれど――。
玲奈の胸の奥には、ずっと消えない不安があった。
(もし……全部バレたらどうなるんだろう)
女装している男子。
しかも、体まで女子みたいに変わり始めている。
それがクラス中に知られたら――。
玲奈は小さく息を吐いた。
その時だった。
ガラッ!!
教室のドアが勢いよく開いた。
「おーい、文化祭の飾り取りに来たぞー!」
入ってきたのは、隣のクラスの男子グループだった。
その中の一人、大島翔太が玲奈を見てニヤッと笑った。
「お、女装男子じゃん」
空気が少しだけ凍った。
美咲がすぐに立ち上がる。
「翔太、余計なこと言わないで」
「えー?だって有名じゃん」
翔太は玲奈をじっと見た。
視線が胸に向く。
「……てかさ」
「それ本物?」
玲奈の手が止まった。
「え……?」
翔太はニヤニヤしながら近づいてきた。
「胸だよ胸」
「パッドだろ?」
クラスの空気が一気に重くなる。
玲奈は慌てて胸を隠した。
「ち、違っ……」
翔太は腕を組む。
「男子なのにそんな膨らむわけないじゃん」
すると後ろから声がした。
「翔太、やめなよ」
玲奈の前に立ったのは美咲だった。
「玲奈困ってるでしょ」
「えー、別にいじめてないじゃん」
「興味あるだけ」
翔太はそう言いながら、さらに言った。
「てかさ」
「お前さ、男なんだろ?」
教室が静まり返る。
玲奈の心臓がドクンと鳴った。
誰も言葉を発しない。
翔太は続けた。
「女子更衣室使ってるって聞いたぞ?」
「それってヤバくない?」
その言葉に、クラスの数人がざわついた。
玲奈の頭が真っ白になる。
(どうしよう……)
(どうしよう……)
美咲が強く言った。
「翔太」
「もうやめて」
「玲奈は――」
美咲は少し言葉を詰まらせた。
玲奈の秘密を守りたい。
でも、どう説明すればいいのかわからない。
その時。
玲奈が小さく口を開いた。
「……私」
声は震えていた。
それでも玲奈は立ち上がった。
「私は……」
クラス全員が玲奈を見ている。
怖い。
足が震える。
けれど――。
玲奈はゆっくり言った。
「男……です」
教室がざわついた。
「え?」
「マジ?」
「ほんとに?」
翔太が笑う。
「ほら見ろ」
「やっぱ男じゃん」
玲奈は続けた。
「でも……」
涙が浮かんだ。
「でも……」
「私は女の子の服が好きで」
「女の子みたいに生きたいんです」
声が震える。
「胸も……最近本当に大きくなって……」
「自分でも……よく分からなくて」
教室は静まり返っていた。
玲奈は俯いた。
「気持ち悪いですよね……」
その瞬間。
バンッ!!
机を叩く音。
美咲だった。
「気持ち悪くない!!」
教室中が驚いた。
美咲は怒っていた。
「玲奈は玲奈じゃん!」
「優しいし、可愛いし、努力家だし!」
「何が悪いの?」
翔太は少し驚いた顔をした。
美咲は続ける。
「男子とか女子とか」
「そんなの関係ないよ!」
すると、後ろから声がした。
「……私もそう思う」
振り向くと、クラスメイトの女子が立っていた。
「玲奈、普通に友達だし」
「うん、私も」
「文化祭一緒に頑張ろうよ」
次々と声が上がる。
玲奈の目から涙がこぼれた。
「みんな……」
翔太は少しバツが悪そうに頭をかいた。
「……別に俺も」
「そこまで否定してるわけじゃねーし」
「ただ驚いただけ」
そして玲奈を見て言った。
「文化祭の女装コンテスト」
「出るんだろ?」
玲奈は小さくうなずく。
翔太はニヤッと笑った。
「じゃあ優勝しろよ」
「そしたら認めてやる」
教室に笑いが起きた。
玲奈は涙を拭いた。
胸が温かかった。
(怖かった)
(でも……)
(言えてよかった)
美咲が隣に来る。
「玲奈」
「うん?」
「絶対優勝しよう」
玲奈は微笑んだ。
「うん」
文化祭まで――あと二週間。
玲奈の挑戦は、まだ始まったばかりだった。




