第13話『胸の違和感』
朝、目が覚めたときだった。
「……あれ?」
玲奈――本名、春翔は、ベッドの上でゆっくり体を起こした。
胸のあたりに、少し重い感覚がある。
パジャマの上からそっと触れる。
「……大きくなってる?」
最近、少しずつ膨らんできているのは感じていた。
でも――
今日は、いつもよりはっきりわかる。
鏡の前に立つ。
パジャマの上からでも、胸のラインが前より出ていた。
「え……」
少し不安になる。
(こんなに急に?)
心臓が少しドキドキする。
玲奈は急いで制服に着替えた。
いつもの下着をつけて、セーラー服を着る。
スカートを履く。
だけど――
「きつい……」
胸のところが、少し窮屈だった。
学校。
教室に入ると、美咲が手を振った。
「玲奈ー!」
「おはよう」
席に座る。
そのとき、美咲が首をかしげた。
「どうしたの?」
「え?」
「なんか元気ない」
玲奈は少し迷ってから言った。
「……ちょっと相談」
「なに?」
玲奈は小さな声で言った。
「胸……大きくなってる気がする」
「え?」
美咲は目を丸くする。
「ほんと?」
玲奈は恥ずかしそうに頷く。
「なんか、急に……」
美咲は少し真面目な顔になる。
「痛い?」
「少しだけ」
「それなら」
美咲は言った。
「病院行ったほうがいいかも」
「病院?」
「うん」
「でも……」
玲奈は不安そうに言う。
「なんて説明すれば……」
すると美咲は笑った。
「そのまま言えばいいよ」
「え?」
「体のことなんだから」
放課後。
二人は近くの小さなクリニックへ向かった。
待合室は静かだった。
玲奈はスカートの裾を握る。
「……緊張する」
「大丈夫」
美咲は優しく言う。
「私も一緒だから」
しばらくして、名前が呼ばれた。
「玲奈さん、どうぞ」
診察室。
優しそうな女性の医師が座っていた。
「今日はどうしました?」
玲奈は少し戸惑いながら言う。
「胸が……急に膨らんできて」
医師は驚いた様子もなく頷く。
「そうなんですね」
いくつか質問が続く。
「痛みはありますか?」
「少しだけ」
「いつ頃からですか?」
「最近です」
簡単な検査のあと、医師は優しく説明した。
「体の成長には個人差があります」
玲奈は静かに聞く。
「ホルモンの影響で、胸が膨らむこともあります」
「……そうなんですか」
「珍しいことではありません」
医師は続ける。
「急に変化すると不安になりますよね」
玲奈は小さく頷いた。
「でも今のところ、大きな問題はなさそうです」
胸の奥が少し軽くなる。
「ほんとですか?」
「はい」
医師は優しく笑った。
「心配なことがあれば、また来てください」
病院を出たあと。
夕方の空はオレンジ色だった。
「よかったね」
美咲が言う。
「うん……」
玲奈は胸を押さえる。
「びっくりした」
「そりゃするよ」
美咲は笑う。
「でもさ」
「うん?」
「ちゃんと相談してえらい」
玲奈は少し照れた。
「ありがとう」
公園の横を通る。
風が吹いて、スカートが揺れる。
玲奈は空を見上げた。
(体も、気持ちも)
少しずつ変わっている。
(でも)
怖いだけじゃない。
隣には――
「玲奈、アイス食べる?」
「え?」
「帰り道のコンビニ」
玲奈は笑った。
「食べる」
二人は笑いながら歩いていく。
夕焼けの道を。
変化する体。
変わらない友情。
玲奈は胸の奥で思った。
(大丈夫)
少しずつ、前に進んでいる。




