第12話『体育で下着が見えるハプニング』
午後のグラウンドは、少し強い春風が吹いていた。
5時間目の体育。
今日の授業は――バレーボールの試合。
「今日はチーム戦やるぞー!」
体育教師の笛が鳴る。
クラスメイトたちは歓声を上げながらコートに集まった。
玲奈――本名、春翔も体操服姿でコートの端に立っていた。
白い体操服に紺色のハーフパンツ。
その下には、最近つけ始めた下着がある。
胸はまだ大きくはない。
だけど、少しずつ膨らんできているのがわかる。
そのため、体操服の下にスポーツブラのような下着をつけていた。
(大丈夫かな……)
玲奈は胸元を軽く押さえる。
気づかれないように、そっと。
すると、美咲が近づいてきた。
「玲奈、同じチームだよ」
「ほんと?」
「うん」
美咲は笑う。
「安心して。私がカバーする」
「そんなに運動苦手じゃないよ!」
玲奈は少し頬を膨らませた。
その様子に、美咲はくすっと笑う。
試合が始まった。
「サーブいくぞー!」
相手チームの男子がボールを打つ。
パシン!
ボールが高く飛ぶ。
「玲奈!」
美咲が叫ぶ。
「お願い!」
「う、うん!」
玲奈はボールの下に走る。
ジャンプしてレシーブ。
ポン!
ボールはうまく上がった。
「ナイス!」
チームメイトがトスを上げる。
「玲奈打て!」
「え!?」
玲奈は慌てながらジャンプする。
そして――
パシン!
ボールを打った。
その瞬間だった。
ビリッ
小さな音。
玲奈の顔が一瞬固まる。
(……え?)
体操服の胸元が、少しだけ引っ張られていた。
さっきのジャンプで、服がずれたのだ。
そして――
中の下着の肩紐が少し見えてしまった。
それを見た男子が叫ぶ。
「おい!」
「見ろよ!」
「ブラじゃん!」
コートの空気が一瞬で変わる。
ざわざわと声が広がる。
「マジでつけてる」
「男子だろ?」
「キモ……」
玲奈の心臓が大きく鳴る。
胸元を慌てて押さえる。
顔が真っ赤になる。
(どうしよう……)
逃げたい。
でも足が動かない。
そのとき――
「ちょっと!」
美咲の声が響いた。
みんなが振り向く。
「そんなことで騒ぐ?」
男子の一人が言う。
「だって男だぞ?」
美咲はため息をつく。
「だから?」
「普通じゃないだろ」
すると、美咲は真っ直ぐ言った。
「普通ってなに?」
男子は黙る。
「玲奈が何つけようが、あんたたちに関係ないでしょ」
さらに言う。
「それに」
美咲は玲奈の肩に手を置く。
「笑うほうが、よっぽどダサい」
グラウンドが静かになる。
そのとき、体育教師が笛を鳴らした。
「こらー!授業中だぞ!」
全員が姿勢を正す。
先生は周りを見て言った。
「バレーボールに集中!」
試合は再開された。
玲奈はまだ少し震えていた。
「玲奈」
美咲が小さく言う。
「大丈夫?」
「……うん」
玲奈は深呼吸する。
「ありがとう」
「当たり前」
試合は続く。
玲奈は少しだけ勇気を出して、もう一度ボールを追う。
パシン!
レシーブ成功。
「ナイス!」
チームメイトが声をかけてくれる。
そのとき、女子の一人が言った。
「玲奈、うまいじゃん」
「え?」
「さっきのスパイクすごかった」
玲奈は驚いた。
「……ほんと?」
「うん」
さっきまでの空気とは、少し違う。
笑う人もまだいる。
でも――
普通に接してくれる人もいる。
授業が終わった。
夕方の体育館裏。
玲奈は備品室で制服に着替える。
スカートを履くと、やっぱり落ち着く。
胸元の下着を少し整える。
(……見られちゃったな)
恥ずかしさが少し残る。
だけど――
ドアを開けると、美咲が待っていた。
「おかえり」
「待たせた?」
「全然」
美咲は笑う。
「今日さ」
「うん?」
「玲奈、かっこよかったよ」
「え?」
「逃げなかったじゃん」
玲奈は少し照れる。
「……足、動かなかっただけ」
「それでもすごい」
夕焼けがグラウンドを赤く染めていた。
風が吹く。
スカートがふわりと揺れる。
玲奈は空を見上げた。
(少しずつ……)
胸の中で思う。
(少しずつでいい)
自分らしく生きたい。
それだけでいい。
玲奈は小さく笑った。
「帰ろっか」
「うん!」
二人は校門へ歩き出す。
夕焼けの中で、スカートが優しく揺れていた。
秘密だった気持ちは、
少しずつ“自分”になっていく。




