9話 魔獣の襲来
森を抜けたとたんにシュバルツが戦闘態勢をとる。
「イロハ!俺の後ろに下がれ!」
闇の中、何かが暴れてるように気配がする。この先には彩葉の工房があるのに。
「ルクスは? ルクスが先に行っていたはずよ!」
シュバルツは自分の分の魔物除けも彩葉に握らせる。
「ルクスに近づくには、これがない方がいいだろ?」
「まって…シュバルツ!」
では、今暴れているのは魔獣なのか? 森に出かけるときは自分たちを守ることに専念していたため、工房まわりに魔獣除けを燻してこなかった。その匂いはルクスも苦手としていたからだ。以前は小屋の中に閉じこもって匂いを遮断した。だが、外ではそれができない。
剣をたたきつける金属音と何かが引き裂かれる音がする。獣のような呻き声と建物にぶつかるような音が聞こえ、戦闘状態となっていることが想像できた。
「ルクス。シュバルツ…」
お守りを持つ手が震える。二人に何かあったらと思うと心配でたまらない。やはり、魔法陣のせいなのか。魔獣が暴れまくる要素が何かあったのだろか。徐々に音が静かになっていく。魔獣を倒したのか?まさか工房内で?
「イロハ!どこだ?」
「ここよ!シュバルツ!無事だったのね」
彩葉はほっと息を吐くと足ががくがくとした。あまりに突然のことで緊張していたのだとわかる。
「ルクスも無事だ。だが、魔獣は取り逃がしてしまった。工房の一部も破壊されてしまった」
「工房が…。仕方ないわね。それより二人の方が大事ですもの」
「大事…俺もか?」
「当たり前じゃないの!」
「…そうか…」
「イロハー!ごめんよー!店が壊れちゃったーー!」
「ルクス!今行くわ!」
「わわわ。そのお守り臭いよー」
「ちょっとぐらい我慢しなさいよ」
「くっせー。無理だよぉ。シュバルツー。イロハのことは任せたぞ!工房の周りに魔獣除けを燻しといてくれ。オレ様はアルバのところに行ってくる。朝一番に戻ってきて工房の修理をするからそれまでここを守ってくれよ!」
「わかった。気を付けるんだぞ!」
「ええ?ちょっと待って。ルクス!じゃあ、今夜は…」
「イロハ、魔獣除けを燻すやり方を教えてくれ」
「えっと…はい。このお守りの中にはいってます」
「よし、まだ気を抜けないからな。一緒に燻してまわるぞ」
「そうね。そっちが先よね」
「ところでアルバっていうのは何者なのだ?」
「ドワーフよ。この建物のほとんどはアルバが建ててくれたの」
「すごいな。君にはドワーフの知り合いもいるのか。ドワーフはなかなか人前には出てこないのに」
「ルクスと仲が良いのよ。それと私のキャンドルを気に入ってくれているので、この工房のお客様のひとりなのよ」
「はは。ドワーフが常連客だったのか。それは頼もしいな」
「頼もしいの?」
「ああ。ドワーフは戦闘能力が高いからな」
「それ、ミャオも言ってたわね」
「ミャオ?あの猫獣人かい?」
「ルクスもそうだけど、シュバルツもミャオが嫌いなの?」
「嫌いというか、裏表がありそうだと思っている」
「ミャオが?商売人だからかな。多少は損益勘定で裏表があるのではないの?」
「そうかもしれない。王宮にも出入りしているようだ」
「あら、王国御用達とは言ってなかったけど?」
癒しのキャンドルに火をともしていく。アロマの香りとともに、不安や高ぶった気持ちが収まっていく。工房内が明るくなるにつれて、かなり荒らされていることに気付いた。だが、おかしい。魔獣が暴れただけでこんなに商品がなくなるだろうか?
「ポーションがなくなっている…これって、魔獣の仕業じゃないよね?」
「どう見ても違うだろうな」
「じゃあ、泥棒に入られた後に魔獣が出たのかしら?」
「…考えたくないが、この工房が狙われたのかもしれないな」
「工房が?どうして?」
「それはわからないが、盗みをおこなった形跡を隠すために魔獣を放ったとも考えれるな」
「そんなヒドイことを誰がしたの?」
「いや、ただの憶測だ。だが、最近そういう手口も増えているのだ。俺がこの近隣を回っているときにも被害が出たと聞いた」
「そうなのね。魔獣って手なずけることが出来るの?」
「ふつうはできないさ。だが、高度な魔法使いならできるかもしれない」
「そうなのね。今日、ハーブを摘みに行ったのはポーションの材料が足らなかったからなの。だからここに置いてあった癒しのポーションもいつもより少なかったのよ。普段はルクスがいるからここには近づけなかったのかもしれないのね」
「ルクスは神獣だからな。この国を守る守護獣でもあるんだ。だから神獣に人が手を出すことはできない。俺は、彼らは人前に出ることがないと教えられてきたから、信仰の中でのみの存在だと思っていたぐらいだ。それなのに君の前ではあんなに元気に飛び回っていて驚いたよ」
「ルクスってそんなにすごいの?知らなかったわ」
「ははは。君は本当に面白いな。ふつうは龍と暮らすことに不思議に思うのだけどな」
「ちょっとは不思議だったわよ。でもルクスったら、結構強引だし、なのに頼りがいがあって、助けてもらっているうちになんとなく同居人になっちゃったのよ」
「ふむ。それはかなり強敵だな。俺もイロハに頼られるくらいにならないといけないな」




