6話 王国の魔法使い
「ふははは。丘が光っただと?あの場所で間違いないようだな」
王宮の一角で魔法使いのローブをきた男が嬉々として地図を広げる。
「警護隊からも調査に来てほしいと伝令が届いているのであろう?すべてはこちらの思惑どおりになってきておるな」
「はい。スブムンド様のおっしゃられるとおりでございましたな」
「数々の古文書を調べあげたかいがあったわ。どの文献にも同じような内容が書かれておった。場所を特定するのにかなりの時間がかかったが、今度こそは間違いなかろう」
地図の周りを複数の男たちが囲む。彼らも同じようなローブを身にまとっていた。
「ようやく目途がつきましたね。それにしてもいつの間にやら移住している者がいるとは。人が暮らせれるような建物などなかったはずですのに」
「ああ。密偵を使って探らせていたが、数日目を離したうちに朽ちたあばら家が立派な小屋になっていたそうだ。どうやらそこに住む女の影響が大きそうだ」
「魔術師でしょうか?」
「工房主と名乗っているようだが、魔術もなく回復薬や癒しの香水など作れるわけはないからな。何らかの力を保有しているはずだ」
「しかし、太古の隠された力を呼び起こしてしまうのはあまりにも危険ではありませんか?どれほどの反動や対価が必要になるか予測できません」
ローブの男の一人がスブムンドに意見をしたのを、他の者たちが瞠目したり、辟易した目で見つめる。スブムンドは切れ長の目をさらに細め、片方の口の端を引き上げるように笑いながら男に向き合った。
「バリエナ。言いたいことはわかるが、何事も大義の為には犠牲はつきものなのだ。あの丘の未知なるエネルギーを使えば、この計画も現実のものになる日は近い」
「では、あと少し小細工をして領民の不安をあおってもよいかもしれませんね。そのほうが我らが魔法陣を発動させて、多少犠牲が出ても納得がいくでしょうし、領民だけでなく王国にも感謝されこそすれ、我らが責められることはないでしょう」
「そうですよ。バリエナ様は心配性でございますな。これから先のことは我らにお任せくださいませ」
「そうだな。其方は少し休みをとってもいいのではないか?」
「…ぐっ…いえ。それにはおよびません。出過ぎた発言をいたしました」
バリエナと呼ばれた男は視線を落として口をつぐんだ。この中では何を言っても無駄だとわかったからだ。
「そうか。理解したならそれでいい」
話し合いが終わり、公務に戻るために各自、時間差で部屋を出ていく。最後に残ったバリエナの元に人影が近づいてきた。
「もう話し合いは終わったぞ。お前がもたらした情報はスブモンド様をかなり喜ばせていた。報酬は期待通りだろう」
「…教えてくれ…」
「何を?お前が報告した内容がこの先どうなるかということか?」
「…スブモンド様は何をするつもり…だ?」
「他言無用だぞ。あの丘には古文書に書かれている太古の魔術の結成により作りあげられた魔法陣が隠されているのではといわれているのだ。膨大な力を生み出す魔法陣を使い、軍事利用に転用しようとスブモンドは考えている」
「軍事利用?…そんな物騒な…あそこにはイロハの工房があるのに」
「何をいまさら。お前だってわかっていただろう?スブモンドが王宮での権力を誇示するために奮闘していることを。あの方はご自身の保身のためなら手段を得らばれないさ」
「そりゃ、高すぎる報酬には…何か裏があるとは…」
「王国の魔法使いが派手に動き回るのは目立ちすぎる。それなりの名分や理由が必要なのだ。そのためにあの地域の密偵としてお前を雇い入れた。それにはお前自身も納得していたのではないのか?」
「イロハは、獣人のおいらにも優しくしかったにゃ。差別なく普通に接してくれた。なのに…バリエナ様はいいのか?軍事利用にゃんて、森が荒らされて自然が壊されていくんじゃにゃいのか?そんな膨大な力って、使ったらいけないんじゃにゃいのか!」
「わたしだって、やりたくてやるのではない!今、王国で一番権力がある魔法使いはスブモンドだ。もうわたしではないのだ」
「おいらはバリエナ様だから協力したかったんだにゃ」
「お前が持ち帰った癒しの香水が、魔法陣の力を増幅する触媒となるとスブモンドが発見したのだ。それを使って貴族たちに手をまわしたようだ。いつの間にかスブモンドの一派が第一勢力となっておった。いや、最初から私は狙われていたのかもしれないな」
「おいらのせいだったのか?」
「お前のせいではない。遅かれ早かれわたしはスブモンドに足元をすくわれていたのだろうよ。時期が少し早まっただけだ」
「おいらはどうしたらいいんだ」
「それは…。いいか。お前には選択肢がある。スブモンドは頭の回転が速い。わかりやすく言うと、悪知恵が働く。そして自信家だ。そんな奴を相手にすると反撃が怖いぞ。多少のことは目をつぶって報酬を受け取るか。それとも良心にあらがわずに工房を助ける方法を考えるか。決めるのはお前だ、ミャオ」




