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星降る丘の魔法工房  作者: 夜歩芭空(よあるきばく)


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3話 行商人ミャオ

 彩葉は工房の開店準備をすすめていた。ゴリゴリとハーブをすりつぶすと清涼感のする強い香りが充満する。今日はこれで石鹸とハーブソルトを作る予定だ。ルクスはこのゴリゴリという音の響きが面白いらしく、毎回手伝ってくれている。

 夜にはキャンドルの灯りがゆらゆらと揺れる中、ルクスと彩葉はその日あったことを話しながら食事をする。

 空はどこまでも青く、風がそよぎ、ゆったりとした時間が流れていく。彩葉の望むスローライフが始まろうとしていた。


 だが、開店したが誰も彩葉の工房の事を知らない。数日たち、やはり宣伝が必要かと思い始めていた時に、初めての客が来た。猫耳と尻尾を持つ青年、ミャオだった。ミャオは獣人で、行商人をやっているらしい。

「お嬢さん、いい工房だね! 何か面白いもんあるかにゃ?」と笑いかけてきた。ミャオはいろんな場所を移動しながら、村や町へ商品を売り歩いているという。

 彼は彩葉が手にしているキャンドルに目をつけた。香りを嗅いでニンマリする。

「そのキャンドル、癒しの効果があるんじゃにゃいのか」

「ええ。よくわかったわね」

 キャンドルの原材料のハーブには、癒しの効能がある成分がはいっていた。

 ミャオは魔獣の毛や、角や爪を差し出し、交換を提案。彩葉はそれらに工房魔法をかけ、そこにハーブを封じ込め、ミャオの目の前で「癒しの香水」を作り上げた。

「すげえにゃ! お嬢ちゃん! これなら村でバカ売れするぜ!」

 ミャオは目を輝かせて、大量に彩葉から商品を買い付け、興奮気味に去っていった。


 その後もミャオは数日おきに工房にやってくるようになった。彼は村や町で流行っているモノや、必要とされているモノの有意義な情報を教えてくれる。それに彼が持ち込む魔獣のアイテムからは香水だけでなく、回復系のポーションなども作成できた。これは彩葉の工房にとっては良い経験となる。

「この間の香水。よかったみたいだにゃ! また作って欲しいってリクエストされたにゃ」

 ミャオは彩葉が作った香水を村に売り込み、たちまち評判になったらしい。

「あら良かったわ。今回はバラやラベンダーのエッセンスで作ってみたの。また感想聞いてみてね」

 特に女性に人気なのは癒し効果のあるフローラルな香水やキャンドル。男性からは虫よけのアロマ。騎士や冒険者にはポーションや薬草など。工房の商品は人気が良いらしく、順調なすべりだしだ。


「それにしても、この世界には魔獣なんかいたのね」

「そりゃいるさ。イロハはまだ会った事がないのかにゃ?」

「ええ。私は戦闘スキルがないので、出来れば闘いが始まるような場所には行きたくないんだけど。向こうからやってきたら仕方ないんだろうな」

「ふうん、攻撃魔法は使えにゃいのか」

「そうなの。だいたい攻撃魔法ってどういう人が使えるものなの?」

「そうだにゃあ。魔法使いとか、あと、魔獣やドワーフとか……」

「あら、知り合いにドワーフがいるわよ。この工房も増築してくれたの。洞窟にも詳しくていろんな鉱物とかも持ってきてくれるのよ」

「ドワーフがいるのか? それはやっかいだにゃ」

「え? どう言う意味?」


「い、いや。にゃはは。にゃんでもない。それより、今作っているのは新しい商品なのかにゃ?」

「ええ、そうよ」

 彩葉は工房魔法でアルバからもらったガラスを溶かしていた。真っ赤に燃えた火の中にガラスをいれると、彩葉の手から虹色の光が舞い、自由自在にガラスの形を変えて行く。それをジュっと水の中に入れて粗熱を取ると、あっという間にガラス細工の置物や、アクセサリーが出来上がっていく。

「いつみても凄いにゃあ」

「ふふ。ありがと。褒めてくれたお礼よ。ほら、手を出して」

 そういうと彼女は、ミャオの手のひらの上に、小さなネコのガラス細工を乗せた。

「え? まさか、これっておいら?」

「そうよ。頑張って似せたつもりだけど。どうかな? いつもありがとうの感謝のきもちをこめて。プレゼントよ」

「おまえっていいやつなんだにゃ……。おいらプレゼントなんてはじめてだにゃ」

 ミャオの耳と尻尾がピンと立ち、ゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえてくる。

「気に入ってもらえたようで良かったわ」

「うん! うん! いつも持ち歩くにゃ!」

「じゃあ、キーホルダーに加工するわね」

 彩葉は器用にガラスの猫にリボンの首輪をつけ、そこにチェーンを通した。ミャオが嬉しそうにそれをカバンにつける。

「おいらそっくりにゃ!」


「ルクス。ねえ、ルクスったら。まだ怒っているの?」

「うるさいな。別にオレは怒ってなどいないぞ」

 チビドラゴンは彩葉の前でごろごろと寝転がりながら、短い尻尾をビタン! ビタン! と床に打ち付けていた。どうやら機嫌が悪いようだ。

「でも、ミャオが来るとルクスはどっかに行っちゃうじゃない」

「あいつは胡散臭い! 何を考えているかわからないからな!」

「確かに。たまに変な事を言うなとは思うわね」

「そうだろ? あんな奴、工房に入れるなよ!」

「でも商売をするためには宣伝が必要じゃない?」

「だからって、あんな奴にプレゼントなんて」

「ルクスのも作ってあるわよ」

「ほんとか! オレのもあるのか!」

 ぱあっとチビドラゴンの目が見開く。彩葉の手には片手で持てるくらいのドラゴンのガラス細工が乗っていた。

「気合い入れて作ってたら細かい作業になっちゃって、思ったよりも大きくなってしまったのよ」

「あいつの奴よりもオレの方が大きい!」

 ルクスはパタパタとガラス細工の周りを飛び回る。

「あいつのよりも、オレのほうが細かい!オレにそっくり!」

「ふふ。持ち歩けないけどね。部屋の目立つところにでも飾りましょうか」

「うん! そうしよう。工房じゃなく、オレの部屋に飾る!」

 アルバは来るたびに工房の棚や部屋を拡張してくれ、今ではルクスの部屋まで出来ている。彩葉たちが何も言わなくても、彼にはどの家具がどこに足りないかがわかるらしい。

 機嫌が直ったルクスに、彩葉がほほ笑みながら、ハーブティーを淹れ始めた。

 

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