14話 スローライフの日々
それからしばらくはイロハの工房は人で溢れていた。それも転職のお誘いだ。
「だから、行きませんって言ってるじゃないですか」
「なぜだ?王宮で何不自由なく暮らせるのだぞ」
「何をおっしゃるんですか。そんな魔の巣窟みたいな場所、いやですよ」
「魔の巣窟とはどういう意味だ?」
王国からの使いの者があれやこれやと斡旋してくるのだ。それもこれもルクスが私を気に入ってるかららしい。王国の象徴であるドラゴンをどうすれば王宮にとどめることが出来るかと議論となったようだ。今まで伝説の幻獣とか思われていたドラゴンが急に現れて、それも人のペットのように一緒に住んでいるということが問題だと言い出したのだ。
「まったくもう、なんなのよ」
「おーい、イロハ、昼ご飯はなんだ?」
「もう!ルクスのせいなんだから、この騒ぎおさめてよ」
「え~。違うだろ?だいたい、イロハが暴走犯人を捕まえたのに、その主役の座をミャオたちに譲ったりするからややこしくなったんじゃないか」
「だって、面倒なのはいやだったんだもの。英雄とかもてはやされて担ぎ上げられるのは性に合わないのよ。私は静かに暮らしたいの。それに王宮なんかプライドや格式や嫉妬とか足の引っ張り合いばかりしてそうなんだもの、絶対に行かないわ」
「はは。イロハらしい。そういうところは同感するな」
「ねー、シュバルツもそう思うでしょ?」
「でも、行けば、玉の輿~とかに乗れるんじゃねえのか?」
「あら、竜の玉乗り~の方が私は好きだわ」
「はあ?オレ様に玉乗りをさせる気か?」
「ふん。私なんて一輪車のれるのよ」
「なんだそれ?おい、工房魔法で作ってくれよ!」
「ふふ。いいわよ。みんなで乗ってみる?」
「おー!やろうやろう!」
「じゃあ、あの人達を追い払ってよ」
「わかった。そのかわりイチリンシャってのを作ってくれよな!」
その後、竜の一声で騒ぎは収まった。なんでもとっておきの一言を言い放ったらしい。何を言ったのかは聞かない方がよいと思っている。聞いた後が大変そうだからだ。
「今日はシチューにしましょう」
「オレ様、にんじんいらないぞ」
「何言ってるのよ。人参食べないと背が高くならないのよ」
「本当か?」
「ふふ。食べてみたらわかるんじゃない?」
「じゃあ、畑まで食材を取りに行こうぜ!」
「お待ちください。勝手に出歩いては危険です」
「なんだよシュバルツ、それに変な敬語使うなよ。今迄みたいに話してくれよ」
「でも、私は今はルクス様とイロハの従者兼護衛騎士ですし」
「それは表向きの話でしょ?私達だけのときはいつもどおりでいいじゃない?」
「そういってくれるとありがたい」
「でもよかったの?警護隊を抜けることになってしまって」
「ああ。守りたいものができたしな」
「あら…そ、そお?」
「それにアルバが工房に俺の部屋も作ってくれたし、ありがたいって思ってるよ」
「ひゅーひゅー。いい感じじゃないっすか。お二人さん」
「なんだ猫野郎め!また来たのか!」
「ミャオですって。にゃんかい名乗ったら覚えてくれるんすか」
「今日はいい素材あるの?」
「ええ、極上な品をおもちしてますにゃ」
「じゃあ、シチューと交換で見せてくれるかしら?」
「はい、喜んでにゃ」
丘はの上は今日も薫り高いハーブティーとにぎやかな声が聞こえている。
おわり




