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星降る丘の魔法工房  作者: 夜歩芭空(よあるきばく)


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13話 古代の記憶と鍵

 魔法陣の中心に放り込まれた彩葉は、体と意識を切り離された。意識だけが別の空間に飛ばされる。

「ここはどこなの?」

 広い空間に星たちが瞬いている。

「奇麗ね。でもこれは星が騒いでるんだっけ?」

【来たね】

【ああ。鍵だね】

「誰?私に話しかけているの?何の鍵のことを言っているの?」

【私達は星詠みの魔女さ】

「星詠み?では、あの魔法陣を作った魔女さん?」

【おや。私たちのことを知っているのかい?】

「お願いです。魔法陣を止めてほしいんです!」

【こちらが言う前に言われてしまったね】

【話が速いね。ああ、いい鍵だ】

「さっきから鍵ってなんのことですか?」

【あの魔法陣を封印する鍵だよ】

「封印?封印できるんですか!…でも、精霊は森とつながっているって」

【そうだよ。だから消すことはできないのさ】

【だから封印するんだ】

「どうすればいいんですか?」

【あの魔法陣は力が強すぎるため、悪用されると世界のバランスを崩し、異次元への扉を開く可能性があるのさ】

【だから隠してきたんだがね。そろそろ持たなくなってきたんだよ】

【だから封印する鍵が必要になった】

「そのカギが私だというんですか?」

【そうさ。だから連れてきたんだよ】

「え?じゃあ、私が転移したのは、あなた方が呼んだからなんですか?」

【そうさ。悪かったねえ。恨まないでおくれよ】

「いいえ。私、今の生活が好きなんです。ずっとスローライフにあこがれていたんです。工房でポーションを作ったり、植物とお話したり、ルクスやシュバルツとの日々が私の宝物なのです」

【いい子じゃないか。鍵だけにしとくのはもったいないよ】

【そうさな。この子は必要だね】

【では私たちの記憶の一部をわけてあげよう】

「記憶ですか?それはどういう…」

【さあ、おゆき。自分の手で掴むんだよ】


 たくさんの記憶が流れ込んでくる。魔法陣の意味。作成の仕方。魔法の正しい使い方。過ぎた魔術は身を亡ぼすことなど。どれもこれも基本だと思えた。


 夜空に亀裂が走り、星々が落ちるような光景が目に入る。ああ、魔法陣が暴走し始めたのだと頭の隅で声がする。冷静になれ。自分に与えられた力はなんだ。

 今、魔法陣は地面に描かれている。正確には土地そのものに刻まれているのだ。ではそこに話しかけてみればいいのではないのか。「共感」の力で。

「貴方はこのまま暴走してしまうの?」

【我は力を与えるモノ。我は星の運行と世界の魔力を調和するモノ。我の力は人間一人の手にはあまる】

「そうだよね。この状況は貴方が望んだものではないよね?」

【貴殿は止められるのか?】

「協力してくれる?」

【我はその時が来るまで静かに眠りたいのだ】

「わかった。落ち着いて。静かに私に同調して…」


「あの女、何をぶつぶつ言っているのだ?」

「空が!スブムンド様、空が割れてしまいます。このままではこの世界が崩れてしまう」

「ええい、うるさい、もう少しで私に膨大な力が下りてくるはずなのだ…」

「馬鹿な人。あなた一人に世界の調和を支えられるわけないじゃないの」

「私に意見するな!」

 彩葉はポケットから香水を取り出す。魔獣に出会ったら使おうと思っていたものだ。ひとつ。ふたつ。みっつ…。香水を次々と魔法陣へと落としていく。紫の霧が濃くなり辺りに広がっていく。

「お眠り。次に目が覚めるまで。眠りの香りに包まれながら」

 魔法陣から力が失われ、光が消えていく。空の亀裂がふさがり、赤い星が小さくなって消えていく。元の星がきらめく夜空となった。


「シュバルツ…」

 彩葉はシュバルツの傍に行き、彼の持つ解毒剤を手にして一口、口に含むと彼に口移しで少しづつ与えていく。

「大丈夫、貴方は貴方のままでいい。私が傍にいるから」

 ぴくりと腕が動くとシュバルツの瞳が開いていく。

「イ…ロハ…?」

「すぐに動けるようになるわ」

 

 濃厚だった紫の霧が拡散されていく。苛立った声が聞こえ、スブムンドが風魔法を使ったのだとわかった。

「なんだいったい!どうなったのだ!」

 ほかの魔法使いが深い眠りについている中、スブムンドだけが起き上がっていた。

「あら、私の香水が効かなかったのね」

「お前か!お前が魔法陣を消したのか!」

「さあ、どうかしら?」

「もう一度魔法陣をだせ!お前なら方法を知っているだろう!」

「いやよ。たとえ知っていても貴方になんか教えないわ」

「生意気な女め!」

 スブムンドが魔法を使おうと手を挙げる前にシュバルツの剣が舞った。

「なっ?お前動けるのか?」

「よくも…俺のイロハを投げ飛ばしたな!」

「ふはは。お前ごときにこの私がやられると思うなよ」

 スブムンドが片手を挙げると雷がシュバルツめがけて落ちてくる。

「シュバルツ!」

 だが、シュバルツの剣がその雷をはじき返す。精霊の加護の力が発動された。

「ぎゃあ!」

 スブムンドが地面に倒れこんだのを見計らって、ミャオがすかさず、スブムンドの手に魔術封じの手枷をかけた。カチャン!

「いやあ、やりましたにゃあ。魔力さえ封じればこっちのもんですにゃ」

「お前、今頃…」

「えっと、違いますって。最初からそのつもりで。タイミングをみてたんですにゃ。決してビビッて隠れてたわけじゃないですって!」

「ふふふ。まあ、そういうことにしときましょうか。それで、手筈はうまくいったのかしら?」

「はいですにゃ。王様にもルクスさんの名代ということで謁見してまいりましたにゃ。もうじきこちらにバリエナ様が王命を受けて到着されますだにゃ」

 ミャオの話を聞いているうちに王軍が到着したようでルクスたちが駆け寄ってきた。

「イロハー!終わったかぁ?」

「ええ。終わったわよ!」

「では、後片付けはミャオとそのほか大勢の方にお任せしましょうか」

「え?そんにゃ。おいら。何したらいいか…」

「私は面倒なことが嫌いなの。ゆっくりと自分の時間を過ごしたいのよ」



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