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星降る丘の魔法工房  作者: 夜歩芭空(よあるきばく)


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12話 魔法陣の暴走

 それから二日もせずに王国から調査隊がやってきた。真っ黒な魔法使いのローブを羽織った、目つきの悪い男が工房内にやってくる。

「私はこの丘の調査にやってきた、王国の魔法使いスブムンドである。この工房ではいろいろな回復薬を扱っていると聞く。今後の研究のため、それを全部提出してもらおうか」

 高圧的な物言いに対して、彩葉はにこやかに答える。塀には魔獣除けの仕掛けはしてあるが対人間には何の役にも立たなかった。

「申し訳ございませんが、うちの工房の商品は使い道がはっきりしている方でないとお渡ししておりません。うちの店は買い手を選んでおりますので」

「何を言う!使い道は研究のためだと申しておるだろうが!貴様は王国に敵対するというのか!」

「いいえ。どのような研究に使われるかを尋ねているのです」

「生意気なやつめ!私の魔法で貴様など…」

 スブムンドが手をかざそうとしたところ、ルクスがパタパタと飛んできた。

「人族の分際で、オレ様のトモダチのイロハに何をする気だ?」

「神獣…本当に存在していたのか…」

「オレ様は王族よりも上の位のはずだが?」

 そんな話は聞いてないとばかりに彩葉がルクスを見たが、今はスブムンドを相手にしなければならない。

「…これはこれは。失礼いたしました。神獣である貴方がこんなみすぼらしい場所にいらっしゃるとは思いませんでしたので」

「オレ様は嘘つきは嫌いだ。報告は上がっていたが信じなかったんじゃないのか?」

「何か行き違いがあったようですね。また日を改めて参りましょう。失礼しました」


「よかった。とりあえずは引いてくれたようね」

「イロハ、油断はしちゃだめだぞ。ドラゴンと人族の昔ながらの契約で、人族はオレ様に攻撃ができないが、皆はそうじゃない」

「そんな契約があったのね」

「それより、あいつから嫌な感じがしたから気を付けないとな」

「うん。そうだね。そうだ、今のうちにこれ飲んでおいて。解毒剤」

「ん~。味がイマイチなんだけど?」

「急ぎで作ったんだから我慢して。アルバ達にも渡してきて。」

「イロハ。やっぱり俺は」

「シュバルツ。私を信じてほしいの。今のあなたには私がいるわ。私は簡単に亡くなったりしないから!」

「……ぐ…」

 シュバルツは解毒剤を飲もうとするが呑み込めずに吐き出してしまう。まだトラウマの方が大きく心に根付いているのだ。彩葉もわかっていたのだろう。ポケットから同じものをもう一本だし、シュバルツの手に握らせる。

「これ、予備の解毒剤。お守り代わりに渡しておくから」

「…すまない…」


 夕暮れとともに狼型の魔獣が何匹も丘に現れた。ローブを着た魔法使い達が何かを唱えながら操っているようにも見える。魔獣たちは工房の塀を乗り越えようとして、仕掛けに引っかかった。ブシュッ!と紫の霧が魔獣を包み静かに眠らせる。

 彩葉が工房魔法で作ったのは「眠りの香水」だった。この香りをかぐと攻撃心は薄れ、深い眠りに落ちてしまう。ほかに「麻痺の嵐」も作成してある。

「どうなっているのだ?」

 魔法使い達は動揺し始めた。魔獣と同じように眠りに落ちてしまったものや、ふらふらと力なく倒れこむ者。だが、中には毒に強いのか解毒の術を使っているのか塀を乗り越えて庭へと入りこんでくる者がいる。

「工房内には入らせない!」

 シュバルツが剣で応戦し、ルクスは火を吐いて威嚇をする。

「蔦よ、縛り上げて動けなくして!」

 彩葉の手から紡ぎだされる工房魔法を使って、次々と敵を芋虫のように転がしていく。

 

「これで全部にしては少なすぎると思うわ」

「残りは裏庭じゃないか?」

「軍事利用とかいうやつをするつもりなのね?」

「よし、ここはアルバとオレ様にまかせろ。イロハはシュバルツと裏庭へ行け!」

「わかったわ、工房を守ってね」


 地鳴りとともに裏庭が光りだした。魔法陣を出現させたのだろうか?

「まさか。盗んだポーションを使ったのかしら?」

「おそらくは、そうだろう」

 焦る気持ちをおさえ、駆けつけると、この前よりも大きな魔法陣が地面に浮かび上がっていた。

「ふははは!これだ!これだぞ!この力は私のものだ!」

 スブムンドが高笑いをしながら呪文を唱えだした。地面の紋様が脈動し、星空に赤い星が現れる。星の周りに渦が出来始める。まるでブラックホールが現れる前兆のような感じがする。これはきっとよくないものだ。

「古代の魔法よ滅びの術よ、我に応えよ!」

「それ以上魔法陣に刺激を与えてはダメよ!」

 彩葉はスブムンドの前に飛び出した。だが次の瞬間、大きなリングのようなものに捕まってしまった。

「くくく。良い生贄が手に入ったわい。お前には今後のためにポーションを大量生産させたかったが、まあ良いわ。このまま贄となって私の魔力の糧になれ!」

「貴様!イロハに何をする!」

 シュバルツが剣をスブムンドに向けるが、体がガクリと傾いた。手がカタカタと震えだし、力が入らないようで動きがおかしい。

「シュバルツ?どうしたの?まさか、私の作った香水のせい?」

「なんだお前は?おかしな動きだな。これも私の魔力が増大したせいか?ふはは。面白い。さて、この女はきっと古代の魔女の末裔だ、このまま魔法陣に放り込んでしまえ!」

「イロハッ!」

 シュバルツが手を伸ばそうとするがその手は震えるだけで何も掴むことはなかった。



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