11話 ミャオの話
ミャオはぽつりぽつりと話し出した。商売がしたくて行商人となったが、獣人のため嫌がらせも多かったらしい。そんな時、バリエナという魔法使いにあう。
「さあ、これで勘定はあっているか?」
「はい。こちらで間違いにゃいです」
「すまない。同じ人族として恥ずかしい。真面目に仕事をしている者に対して、差別的な感情だけで賃金をだまし取ろうなんて!許せるものではないわ」
「そんな風においらのために怒ってくれるなんて。ありがとうごじゃいます」
バリエナは王国の魔法使いで不正や差別をなくしたいとミャオに語った。ミャオはその思いを実現するために、バリエナの元で、古文書の事柄を実際に見聞するために、あちこちを回り探索を続けながら行商をしていたのだという。
「最初のころはよかったんだにゃ。おいらも目的のために働いてるって実感があって、報告するのも楽しかったんだにゃ」
だが、王宮に報告に行くたびに派閥争いがあることに気付く。バリエナは段々と以前のような正義感をなくしていったという。
「今の筆頭魔法使いはスブムンドという人だにゃ。何を考えているのかがわからにゃい。怖い人だにゃ。自分の力を誇示するためには戦争もやりかねにゃい」
「ヤバい奴だというのはわかったが、それとイロハの工房と何の関係があるんだ?もっとオレ様にもわかりやすいように説明しろよ」
「だから、その古文書に書かれてある魔法陣ってのがこの丘にあるんだにゃ!」
「…ということはその筆頭魔法使いとやらはここの裏庭を狙っているということか?」
シュバルツの眉間にしわが寄る。ルクスも目の色が変わる。瞳孔が縦に伸びると瞳の色が濃くなった。怒っているようだ。
「それだけじゃにゃい。イロハの癒しのポーションは、魔法陣を活性化させるようなんだ。あいつはそれを使って、軍事に利用するとかにゃんとか言っていた」
「軍事…?なんだかとんでもないわね」
はあと息を吐きだすと、彩葉はお茶を入れ替えるために立ち上がった。
「…よく話してくれたわ。辛かったでしょ?ミャオ。ありがとうね」
彩葉の手がミャオの頭を撫でた。ミャオは思わずといったようにポロポロと涙をこぼす。泣き顔は幼い。ひょっとしたらミャオはかなり若いのかもしれない。いつもは取引相手ということで、隙なく立ちまわる姿しか見たことがないが、こちらのほうが実年齢に近いのかもしれない。
「さて、これからしばらくはミャオもうちで働いてもらうわね」
「へ?おいらがここで働くのか?」
「イロハ。こんなやつをここに置く気か?」
「だって、こうなったらミャオも狙われるじゃない?」
「いや。今までどおり、何食わぬ顔で相手の懐にはいっているほうがいいんじゃないか?」
「それよりここから逃げてほしいにゃ。あいつはきっと、調査隊という名目でここに来るはずにゃ!」
「くそっ。そういうことか。俺はこの丘の調査をして安全性を調べた方がイロハのためになると思ったのに。逆手に取られたということか」
「…受けて立ちましょう!どうせどこにも逃げ場はないわよ」
「くははは!さすがはイロハだ!面白い!それでこそオレ様のトモダチだ!」
ルクスがぱたぱたと彩葉の周りを飛び回る。
「それに何もしないで逃げるなんて嫌よ!私は私のスローライフを楽しむためにここにいるのよ!」
「スローライフのためなのか?…ふっ…君って人は」
シュバルツも呆れたような顔になったが、そのままククククと笑い出した。
「何よ。私は本気なんですからね!」
「皆にゃんで笑っているんだにゃ?おいら、つく側を間違えたかにゃ?」
「猫獣人、今更裏切りは許さないぞ」
アルバが睨むと荷物の整理を始める。今日の仕事は終わったのだろう。彩葉が用意した木の実のジャムと袋いっぱいの癒しのキャンドルを大事そうに持ち、また明日の朝と言って消えていった。
工房の周りには魔獣除けの塀が出来上がっていた。アルバが作ってくれたのだ。魔獣が塀に襲い掛かってくるとポーションや香水が噴き出す仕掛けになっているらしい。中に入れる効能はこれから作る予定だ。あまり害のある物は作りたくないがこればかりは仕方がない。
「できれば戦わずに勝ちたいのよ」
「気持ちはわかるが相手は魔獣を使ってくるだろう。ミャオの話だと相手の狙いはイロハの作るポーションだ。確実に仕留めておいたほうがいい」
「でも、工房内で殺傷はしたくないの。してしまうと生産能力も落ちてしまう気がするわ」
「そういうのも君の能力に影響するのか」
「多分、そんな気がするの」
「わかった。できるだけ工房内には近づかせないようにする」
「ありがとう。そういってくれるだけでもうれしいわ」
「俺は約束は守る。君とこの工房を守るよ」
「では作戦会議としよう!オレ様こういうのやってみたかったんだ」
「遊びじゃにゃいんですよ」
「わかってるって。では、いくつか罠を仕掛けるんだが、中にはアルバが作ったものもあり、相手を攻撃できる機能がついているが、間違ってオレ様らが浴びたらどうする?」
「解毒剤も一緒に作るわ。だからみんなにも飲んでもらう」
「俺は…いい。どうにでもなる」
シュバルツはまだトラウマを乗り越えていない。戦うためにポーションを使いすぎて、許容量を超えてしまったがために起こった悲劇を乗り越えれてないのだ。
「だめよ。私を信じて。決して量は間違えない」
「だが…。俺はもう…」
「一緒に戦ってくれるんでしょ?」
「……わかった」




