10話 信頼
結局、その日の出来事をまとめたり意見交換をしいてるうちに夜が明けてしまった。彩葉がシュバルツと二人きりだとドキドキしたのは一瞬で。あとは話に夢中になり、ハーブティーを4~5杯おかわりしたところでアルバがやってきた。
「アルバさん。朝早くからごめんなさい。お手数おかけします」
「……うむ」
アルバは工房を一回り見て惨状を確認すると、森に入り丸太を何本か抱えてきた。
「シュバルツと言います。お手伝いします」
「……いや、あんたは少し寝た方がいい」
アルバはひとめでシュバルツの体調を見破ったようで、休息が最優先とわたしに眠りに落ちるハーブを処方するように言う。そこで彩葉は。シュバルツが昨夜話続けていたのは、彩葉の不安を取り除くためだったと気づいた。
「イロハも仮眠を取っておいで。ここはオレ様とアルバで片づけておくから。ついでに客間と魔獣用の仕掛けを作っておくから」
「うむ。まかせておけ」
「ありがとう。助かるわ」
やはり、真夜中の襲撃はかなりのストレスだったのだろう。彩葉も布団に入るすぐに眠りにおちた。なにより陽が昇った事と、ルクスやアルバが来てくれたことに安心したことが大きかったようだ。彩葉は自分が信頼のおける者達に囲まれていることに気付き、熟睡することが出来たのだ。
昼過ぎに置きだしてきた彩葉が人数分の昼ご飯を作っているところにミャオがやってきた。アルバが工房を修理しているのをみて驚いている。シュバルツも少し前に起きてきたようで、ミャオの背後にまわり警戒をしていた。
「何があったんだにゃ?イロハは大丈夫にゃのか?」
「昨日、魔獣が出たのよ」
「えっ。昨日?それでなんで元気でいるんだにゃ?」
「お前、オレ様達が元気でいるのがそんなに不思議なのか?」
ルクスが睨みながらミャオに詰め寄る。以前からミャオの言動はおかしかった。本当は嘘がつけない性格なのだろう。だから本音がまざってしまうのだ。
「いや。そうじゃにゃくて、ほら、ドワーフがいたからびっくりしてさ」
「お前が以前からこの工房をイロハに隠れてスケッチしていたことは知っているんだぞ」
「そ、それは…」
「あら、ミャオったら絵心があったの?」
「イロハ。オレ様が言ってるのは、こいつなら工房の見取り図が書けるって話だぞ」
「なるほど。見取り図があればどこに何が置いてあるかはわかるよな」
シュバルツが腰の剣に手をかけた。ピリッとした空気が広がる。緊迫感が増したところに焦げ臭い匂いが充満しだした。
「ぎゃ!どうしましょ!お昼ご飯が焦げちゃったわ!」
「わわ、それは困るぞ。オレ様はイロハの料理が毎回すごい楽しみなのに」
「うむ…」
アルバも無言の威圧のようなものを発している。これはまずい。今回の報酬はお昼ご飯と癒しのキャンドルということになっているのだ。
「じゃ。これはミャオに食べてもらいましょう!」
「え?おいらが犠牲になるのかにゃ?」
「まあ、犠牲って言い方はないでしょ?今日のお昼はパンケーキだったのよ。変な空気になっちゃって、焦げ焦げになったのはミャオのせいよ。あきらめてここに座りなさい」
「…わかったにゃ…」
「みんなの分は今から焼き直すわね。蜂蜜たっぷりのパンケーキとクルミとナッツのパンケーキ。好みで木苺ジャムをかけてもいいし、あとは野菜スープよ」
「…うむ。この前の木苺ジャムは絶品だった」
「あら。ではたくさんあるから持ち帰り用に小瓶にわけるわね」
アルバがニカッと笑う。気難しそうなドワーフも笑うのだ。
食事が終わり、アルバは作業を再開し始めた。ミャオには皿洗いを頼んだ。もちろんルクスの見張り付きである。その間に彩葉はポーションを大量に作り始めた。
「あのさ。おいら、この後、ほかの村にもいかないと行けにゃいんだが」
「だめだ。お前が王宮に出入りしていることはわかっている」
シュバルツが冷たく言い放つ。ミャオのしっぽと耳ががピンと立った。
「にゃ、にゃにを言ってるんだにゃ…おいらは行商人だ。王宮にも顔を出しに行くこともあるんだにゃ」
「一般人でもなかなか王宮には来城できないんだ。獣人であるお前が頻繁に行き来しているのはおかしいではないか?」
「そ、それは。呼ばれたから行っているだけで。おいらだってあんな怖いところ行きたくないんだにゃ」
「へえ。王宮って怖いところなのか?オレ様が通っていた時は広いばかりで迷子になりそうな場所だったが?怖いことなんかなかったぞ。」
ルクスは面白半分で通っていたようで、皆ルクスを見ると驚いていたという。
「い、いや。そりゃ。会う人によるだろう。いろんな考えの方がいるんだから。おいらはできればもう行きたくにゃいんだ」
「そうなのね。ミャオは怖い目にあっていたのかしら?」
彩葉はミャオの前に癒しのポーションを並べた。
「ミャオはこれが必要なのよね?急いで作ったのだけど、どうして必要なのか教えてくれるなら渡してもいいわよ」
「にゃ…にゃんでそれを…」
「わたしは、ミャオが、本気で悪いことを企んでいるとは思えないからよ。迷っているようにも見えるわ。本当はとても素直で、嘘がつけない子だってのもわかっているもの」
「おいら…おいらは…。イロハ。…はおいらを嫌いに、にゃらないか?」
「本当のことを教えてくれたらね。私が商売のことでなにもわからなかったときに、ミャオにはいろいろと助けてくれたでしょ?だから私もミャオのことを助けたいの」
「おい猫獣人、罪悪感を抱えたまま生きていくのと、辛くても、自分に正直に生きていくのとでは、人生の価値観は違うのだぞ」
アルバが難しい顔をしながらミャオを諭す。なんだかアルバが言うと、とても重みのある言葉に感じる。
「…そうだにゃ。全部話すよ」
うなだれるミャオに彩葉はハーブティーをいれた。果実のような香りが鼻腔をくすぐり、その温かさに気持ちがリラックスしていく。




