ドブ掃除はエレガントですわ
「ドブ掃除、意外と楽しかったわね、レオン様」
その一言が、王立ラピス学院のきらびやかな廊下に響き渡った瞬間、周囲を歩いていた令嬢や貴公子たちの動きがピタリと止まった。ジークからは「成績を落とさないこと」を条件に、冒険者活動の許可を(半ば強引に)もぎ取った。レオンもまた、特例措置で冒険者登録を済ませている。というより彼の場合、王家から「何があってもセレナを護れ」という至上命題を下されているのだ。
「ドブ掃除楽しかったですね
お、俺はあなたとならどこでも嬉しいです(小声)」
貴族の学び舎に響く「異界」の会話
豪華なシャンデリアの下、優雅に歩を進めるのは、かつて「病弱な深窓の令嬢」として知られ、今は「第一王子を壁に埋めた狂犬」として恐れられるセレナ・フォルテス。そして、その後ろを忠実な猛犬のように守る騎士団総帥の息子、レオンハルトです。
二人は、昨日の初依頼(Fランク:下水道の泥浚いおよびスライム駆除)の余韻に浸ってた。
「え?ごめんなさい最後の方聞き取れなくて…」
「いえ!大丈夫です!」
前を向くレオンの耳は赤く染まっていた。
「…最初はあの独特の臭気に驚いたけど、カゲレナちゃんが影で泥を濾過してくれたおかげで、宝石の破片や古いコインがいくつか見つかったのも面白かったわ。ねえ、カゲレナちゃん?」
(ケッ、お嬢。あんな汚ねぇ場所、普通は令嬢が笑顔で語るもんじゃねーんだわ。ま、あのヘドロスライムの『発酵したドブ味』、案外悪くなかったけどな。おかげで毒耐性がさらに上がったぜ)
二人の会話を聞いていた周囲の生徒たちは、泡を吹かんばかりに驚愕していた。
令嬢A: 「ド……ドブ……? フォルテス様、今、下水道を掃除したと仰ったの……?」
貴公子B: 「しかもあのレオンハルトが、ドブ掃除…?あの二人、王宮で何を食べてきたらあんなに逞しく(狂って)しまうんだ……」
彼らにとって、冒険者ギルドは「身分の低い者が命を懸ける場所」ましてやドブ掃除など、一生縁のないはずの「不潔な作業」だ。それを、学院一の美少女とエリート騎士候補生が、お花摘みの思い出でも語るかのように談笑している。
「あ、見てレオン様。靴にまだ少し『ドブネズミの粘液』が私の靴に残ってるわ。これ、なかなか落ちないのね」
「……失礼。すぐに拭き取ります、セレナ様」
レオンハルトがその場に跪き、家宝級のシルクのハンカチで彼女の靴を拭い始める。 その際、少し持ち上がったスカートの裾から、眩いほどに白い太ももが露わになる。
周囲の令嬢たち: 「ドブ……ネズミ……粘液……」と、不潔な単語の暴力に耐えきれず、白目を剥いて壁際に崩れ落ちる。
周囲の野郎共: 泥の不潔さなどどうでもよくなった。令嬢の禁断の領域を間近で拝むレオンハルトへの殺意と、視覚情報の暴力(白い太もも)により、鼻血を噴き出しながら悶絶。
(そういえばペッパー、お前最近寝てること多いな)
『ふわぁ、深夜までお嬢様の告白パターンをレオンが考えてて…寝不足っす』
(そりゃあ、お気の毒様)
ドブ掃除で大活躍した俺
影の網を展開: セレナの足元から伸びた影が、泥の下に広範囲に広がる。この時、俺は影の密度を調整して、「液体や細かい泥は通すが、固形物は通さない極細のメッシュ」のような状態になる。
「毒素捕食」による強制クリーニング:泥に含まれるヘドロ、腐敗物、毒素を影が「ズルズルと吸い取って食べる」ことで、泥自体のボリュームが減り、汚れが消える。
比重選別(お宝だけ浮上): 汚れを吸い取ってきれいになった液体(ただの水)と、俺が「不味くて食えねぇ!」と吐き出した無機物(宝石、金貨、魔石)だけが、影の表面にキラキラと残される。
(お嬢、見てろよ。このドロドロを俺がゴクゴク飲んでやると……ほら、食えないゴミ(宝石)だけが残るだろ? 手を汚さずに掃除完了だ、エレガントだろ?)




