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身に覚えはありませんか?  作者: 三嶋トウカ
夏:第1便~第3便

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第17話:【第4便】大人気串焼き五種_2


 テープを剥がす音が、部屋に乾いたリズムで響いた。

 ぺりぺりぺり。

 最後の一線を剥がすと、段ボールの中から冷気のひんやりとした匂いが立ちのぼった。


「うわ、すごっ……!」


 思わず声が漏れる。

 中には整然と並ぶ四角いパックが五つ。それぞれ透明フィルムで密閉され、表面の光沢が、まるでショーケースに並ぶ宝石みたいに見えた。


 手前のパックは、おそらく皮串。

 白く、軽く、串の一本一本が均一な太さをしている。脂の粒が冷気の中で白く凝り、光を受けて小さく輝いていた。

 指先でパックの表面をなぞると、ひやりとした感触が伝わってくる。


「お店みたい……」


 声に出すと、自然と笑みが浮かんだ。


 次は、その隣。

 ラベルには『皮の皮(味噌)』と書かれている。


「皮の……皮?」


 小さく読み上げて、眉をひそめる。気になってネットで検索してみると『首の皮と、それ以外の皮と分かれる』と、皮串について説明があった。きっと、この首の皮のことなのだろう。

 というのも、その薄さを見た瞬間、なるほどと頷いたからだ。ほんの紙一枚ぶんの厚みしかなく、光に透かすと、向こう側の文字がぼんやり透けるほどだった。


「これ、焼いたらめっちゃパリパリになりそう」


 指先でフィルム越しに触れると、内側の薄皮がふわりと揺れた。空気が通っただけなのに、生きているみたいに。

 これだけは、皮だけパウチに入れられており、串には刺さっていなかった。家に串はあるし、まずはこれで食べてみよう。


 三つ目のパックは肉串(焦がし醤油ダレ)。

 見た目からして艶やかで、タレが均一に絡んでいる。焦げの斑点がつやの中に沈んでいて、見るだけで香ばしい音が聞こえてくる気がした。


「これは間違いないやつだね」


 そう呟いて、思わずレモンサワーをもう一口飲む。まるで、肉の脂を洗い流すように。冷たい炭酸が喉を通るたび、箱の中の肉の匂いがより鮮明に立ち上がるようだった。


 四つ目のパックはハツ串(塩コショウ)。

 開ける前から、他のパックとは少し違う。赤みが強く、串の上で粒が規則的に並んでいる。


「……おっきいなぁ」


 肉塊は親指二本ほどのサイズで、照明の光を受けて赤黒く光っている。一つひとつの表面には、白い霜のような結晶がうっすら浮かんでいる。


「脂かな? 美味しそう」


 そう言いながら傾けると、その結晶がゆっくりと溶け、パックの中で光が流れるように動いた。


 最後はレバー串。私はそれを持ち上げる前から、ほのかに甘い香りを感じた。

 それから、独特の鉄の匂い――


 けれど、どこか懐かしい。


「……これ、絶対新鮮」


 中のレバーは大ぶりで、表面がなめらかだ。

 中心部はまだ少し紫がかっていて、まるで熟れた果実のような艶を放っている。光を反射したその質感が、一瞬だけ生き物の瞳のように見えた。


「すごい、ぷるぷるしてる」


 笑いながら指先でパックを軽く押すと、ぷるん、と音もなく弾力だけ跳ね返ってきた。


 箱の底には、炭焼き風スモークパウダーとレモンの袋、そして小瓶に入った特製タレ。瓶の蓋を少しひねると、焦がし醤油と甘味噌の香りがふわりと広がる。


「ああ、これ絶対美味しいわ」


 私は思わず深呼吸をした。

 香りの中に少しだけ焦げた甘さがあって、それが妙に懐かしい。昔、祭りの夜に屋台で嗅いだ匂いに似ていた。


 すべてをテーブルに並べて眺める。パックの表面に部屋の灯りが反射して、串の影が柔らかく揺れている。


「……これ、ほんとに全部当選品なんだよね?」


 独り言のように呟いて、ニヤつきながらスマートフォンを手に取る。

 通知欄には、発送完了のメッセージの下に『お召し上がりは加熱してから』という注意書きがあった。


「待ちきれずに食べちゃう人でもいるのかな。……まさか、そんな、ね」


 これだけしっかりしたセットが、折角我が家に届いたのだ。美味しくいただく義務がある。

 私は同封されていた紙を見た。


「ええっと、美味しい食べ方は……」


 簡単かつ、丁寧に手順が乗っているのは嬉しい限りだ。


『脂が透明から黄金色に変わり、表面が少し焦げて、パチパチと細かく音を立てた後、その音の変わった頃が食べ頃です』


「なるほど」


 箱の中をよく見ると、もう一枚小さな紙が入っていた。そこには、五種類の簡単な説明が載っている。

 皮はカリッと、皮の皮は薄く繊細に。

 肉串はタレを重ね焼きに。

 ハツとレバーは火加減を慎重に。

 まるで職人の指示書のように丁寧な文体だった。


 私は一度立ち上がり、グリルの前に立って温度を確認する。魚焼きの扉を開けると、中の金網が薄く曇っていた。


「ここに並べたら、ちょうどいいかも」


 そう言いながら、台所の窓を少し開ける。夜風が流れ込み、炭とタレの匂いが入り混じった空気を揺らした。


 冷蔵庫のモーター音が、部屋の静けさを切り取る。


 時計を見ると、十九時二十分。


「お腹空いた……」


 口に出すと、ぐぅぅとお腹が鳴った。


 ……美味しいものが待っている夜は、どうしてこんなに世界がやさしく見えるんだろう。


 テーブルの上の串たちが、柔らかい照明の下で、ゆっくりと色を帯びて見えた。

 私はグラスを手に取り「焼く準備、しよ」と小さく言った。その声に応えるように、窓の外でどこかの家の風鈴が、一度だけちりんと鳴った。

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