ミストノクティルカ、転送直前
転送されたばかりの異端たちは、口々に話し始めていた。
「えっ? このログ終わったらオフ会しよ?」
「マジで? じゃあ私、サンドイッチ作ってく」
「いやツバキちゃんログアウトできないんじゃ……泣くわ」
「マジで記念撮影しよ、画面スクショだけど!!」
ツバキはそんな声を背に受けながら、剣を鞘に納めた。
驚きはあれど、もう心は揺れていなかった。
ただ、世界が“こうも多様なのか”という事実に、静かに目を見開いていた。
蒼は残り時間を確認し、即断した。
残り 00:41:08
「……時間はギリギリ。
通常ルートは捨てろ。最短で最深部を叩く」
「じゃあ、わたしの出番だねっ♪」
元気よく割り込んできたのは、魔法少女Sakura★Triggerだった。
ふわふわマント、レトロな魔導書、虹彩のオッドアイ。
「街石のファストトリップ、ちょっとだけいじっちゃった♪
うん、魔改造。合法じゃないけどね」
「“ちょっと”か……?」
蒼が眉をひそめたとき、
背後から3メートル超の銀騎士グロウリオが無言で現れた。
Sakura★Triggerは彼をチラリと見て笑う。
「彼、ダンジョン深くまで自分じゃ行けないから。
だからね、あたしが連れてくの。」
そのとき、端末の裏側で“虫”が羽音を立てた。
さきほど探索に出ていた自立型探索虫たちが戻り、
操作主の手元で座標ウインドウを投影した。
「霧夢の都市、最深部。現時点で最短ルート、座標確定。
正式名称なし、《Ωフレーム》領域。
転送先の負荷、極めて高いが……転送は可能」
「ログ感謝。お前のおかげで飛べる」
探索型プレイヤーは、淡々と答えた。
「私はただ、都市の底が美しいことを知ってほしかっただけです。
それだけで、もう十分」
魔法少女は詠唱を始める。
「さあ、魔法少女式!
《バク式マナ接続跳躍術:みんなまとめてホップステップワープ☆》
全員分のマナ? 問題ない。空間そのものに負荷を押しつけるからねっ♪」
蒼が絶句したまま、ツバキに目をやる。
ツバキは一歩、術式の中心へ歩を進めた。
「……最後の一撃を、最深で放つ。
世界の果て、その淵にて」
グロウリオが静かに、ツバキの後ろに立つ。
魔法少女はふわりと微笑む。
「さあ、いってらっしゃい。
この不思議でバグまみれの、世界の底へ。
きっと、ちゃんと帰ってきてね」
【転送開始】
参加者:認可済:15、認可外:23、保留:1、管理者:1
宛先:《霧夢の都市:Ωステージ》
最後に、蒼が一言だけつぶやいた。
「……全部、ここで終わらせる。
お前が消される前に、“名”を残す」
転送完了。