表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

共闘後の静寂:影との戦いの記憶

モンスターの残骸が地面に散らばる。

ツバキは剣を払うと、ふぅ……と短く息をついた。マイク越しにその微かな呼吸が蒼の耳を打つ。


(……この息づかい、ゲーム中の音に聞こえない)


戦闘中も「やった!」とか「もう少し!」なんてセリフは一切ない。

ただ息と気合いだけで戦い、倒し、黙って剣を収める――


 


(……声優目指してるのか、それともガチの舞台系?)


(こんな粋なプレイヤー、滅多にお目にかかれないな)


蒼は、ツバキの装備に目をやる。

装飾の一つひとつに意匠が凝らされていて、明らかに“量産型”じゃない。


(……この系統のプレイヤーって、設定作り込んでるんだよなぁ。聞いてあげると、めっちゃ嬉しそうに語ってくれるやつだ)


蒼は軽い調子で問いかける。


「ねぇ、ツバキ。君のその剣……どこから来たの? なんか物語、ありそうだよね」


 


ツバキは一瞬、静かになった。


剣を見つめたまま、小さく口を開く。


 


「……わしの国、ルヴェルナは、もうない。」

 

 

 蒼は「ロールきた」と内心で構える。20分ぐらいなら余裕。それ以上でも、付き合うつもりだった。


 


「拙者は、討伐隊の一員であった。影――“虚無を渡るもの”と呼ばれる災いを封じるため、選ばれし十剣士の一人として……最奥の転移門まで追い詰めた」


「けど、封じきれなかった……?」


「うむ。あの時、影は門の向こうへ逃げた。己が“痕跡”を喰らい尽くしたその空間に、隙間を開けてな」


 


ツバキの視線が、遠くを見つめていた。


 


「拙者は――その時、斬りかかって、逆に……深くやられたのだと思う。

確かに胸を貫かれた……いや、貫かれた“感覚”は、あった。

気づけば、この地に立っていた。傷は無く、剣だけが手元にあった」


 


蒼は、自然と息を呑んだ。


(……演技でここまでやるなら、もはや本物だよ、君)


ツバキは静かに続ける。


 


「だから、この地に留まる意味は、ただ一つ。

奴を斬る。奴が再び、どこかを喰らう前に」


 


蒼はしばらく何も言えなかった。

演技だとしたら、相当の熟練者だ。


「……影って、やっぱ怖いの?」


「うむ。存在ごと、忘れさせるのじゃ。名前も、記録も、形も。

だから、名を与えてはならぬ。思い出してはならぬ。……じゃが、拙者は、覚えておる。

あれは“無”ではなく、“意志ある消失”じゃ」


 


蒼は軽く頷いた。


そして、いつもの調子で笑ってみせる。


 


「……なら、その影を一緒に追おう。倒すまで、付き合うよ。俺が“君の物語”の証人になってやる」


 


ツバキは一拍の後、やわらかく微笑んだ。


「よいのか? おぬしまで巻き込まれるぞ?」


「大丈夫。俺も今、この世界にログインしてるからさ。

プレイヤーとしてじゃなく、ちょっとロール寄りでね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ