1. 死んだ!
白くて四角い箱の中で楪は目を覚ました。
箱という表現は少々間違っているかもしれない。どこまでも果てしなく続くセカイ。色を無くしたセカイ。いわば、"無"だった。
虚構に向かって楪は問いかける。
「私は確か……死んだんだったよな……?」
「ええ。あなたは確かに死にました。」
突然の声に楪は飛び上がった。
恐る恐る声のした方を振り向くと、洗練された純白のドレスを纏った、勿忘草色の髪をした女性が居た。
「小鳥遊譲、随分と可哀想な死に方をしたのですね。そこそこいい大学を出て就職したものの、23歳で過労死ですか。」
その上から目線な言い方に少々ムッとしたものの、楪は平静を装って答えるとこにした。
相手を逆撫でる様な行動をしないのが社会人の鉄則である。(もう死んでいるが……)
「そうですね。散々ですよ、過労死なんて。」
私には退職後田舎でスローライフを送るという密かな願望があったのに、と心の中で毒づく。
「……叶うことならば、来世は異世界でのんびりと暮らしたいですよ。」
そう、私の唯一の心の安寧は某小説投稿サイトのランキングを漁り、転生ものの小説を読むことだった。だか死んでしまったため、もうその楽園に浸ることは出来ない。悲しい……
「異世界でのんびりと暮らしたい……。その願い、叶えて差し上げましょう。」
「………………へ?」
あまりに突飛な提案だったので、楪は笑っちまうほど間抜けな声を出してしまった。
確かに今あの女性は、楪の願いを叶えてくれると言った。吹けば簡単に飛んでいく、御伽話の様な空虚な楪の妄想を。
「貴女の来世はとある村の大魔道具師に決定しました。それでは、来世ではどうか幸せな生活を送ってくださいね。」
「はっ?え……。ちょっと待ってくださいよ!!!なんかもっとこう……ないんですか!?情緒とか……!?」
困惑する譲を他所に謎の女性は話を進めていく。それがより楪を混乱させる。
「心配しなくても大丈夫です。そこでは貴女の望むものは全て手に入ります。」
「いや、今はそういう話をしているのではなくてですね!!!」
と言っている間にも、転生の準備が着々と行われている。因みにもう身体が半透明になってきた。
「せめてあなたの素性と転生先の基本情報を伺っても!?」
異世界に行くにも、手元の情報ゼロだと流石に困る。
「私の名前はリュシー。貴女の世界でいうところの女神です。転生先の基本情報ですか……そうですね……来世で貴女は大魔道具師。つまり、魔法が流通しているセカイへの転生です。始めは分からないこともあるかも知れませんが、大抵のことは貴女の身体が覚えてるでしょう。」
う〜ん…………まあ、情報がないよりかはマシか…………って女神!?!?!?
「まぁ、色々と突っ込みたい気持ちは山々なんですけど、時間もないようなので理解したということにしておきます。」
私の身体がほぼ無くなってきている。そろそろ危ないんじゃないか?
「お情けとはいえ、ありがとうございます。今世で出来なかったことを十分に楽しみたいと思います。」
お礼も忘れずに、だ。
「では、良きスローライフを。」
女神の言葉と同時に、私はこれでもかというほどの強い光に包まれた。転生ってマジでこんな感じなんだなと思った。
来世では過労死しませんように。




