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 まずはこの子らに慈愛の精神を教えよう。


「はい。じゃあ今日の指導に入ります」

「オホホ、おぼこ。また昨日みたいに私の逆鱗に触れれば痛い目を見るわよ?」


 こいつめ。こっちには罰棍あるんだぞ。


「て言うか、何なのその“おぼこ”って」

「あら。あなたの名前よ?」


 罰棍ちゃん。出番は近そうだよ。


「私の名前は麗羅!覚えなさい、ちゃんと!」

「ええ、おぼこ」


 もういい。この問答をやってると日が暮れる。


「とにかく。今日からは貴女達の意識改革を目指した指導をしていきます」


 私は、黒板にカキカキといくつかの箇条を書いていった。


「まず、道徳とは何かです。簡単に言えば、人と人とが同じ社会で生きていく上で守らなければならない模範的ルール、マナーです。つまり、一緒に生きていく人達みんなが善意を持って他人の尊厳を守り、善意から助け合いするのが当たり前だよねー、と言う考え方です」


 今のところ三悪女は大人しく聞いてくれている。


「要は善の心を持ち、人を思いやり、それに基づいて行動する事が道徳と言えるでしょう」


 よし。上手く纏められた。


「ですので、貴女達も道徳的な行動を実践していけば、ここでの評価も上がり、次の良い人生に早く転生出来るという事です」


「オホホ」

「くっだらなー」

「なんか面倒ー」


 反応はイマイチだけど、話が伝わっただけでもよし。


「さあ、それでは今から教科書を使って道徳とは何かを勉強しましょう。教科書配るから待っててね」


 多分使う事になるだろうと用意しといて良かった。


 一冊づつ道徳の本を配れば準備完了だ。中は、様々な世界であった良い話や逸話が沢山載せられている。


「さあ、皆さん。お手元の本をお開き下さい。47ページです。ちゃんと聞くように」


「オーッホッホッ!なんかつまらなさそうね!」

「何このタイトル。『善人よし兵衛とおむすび』?チープすぎない?」

「うっわ、くだらなさそー」


「はいっ、そこっ!私語は慎みなさいっ!今から私が読んであげるから絵とか見てなさい!」

「え~、やだ~」

「もし、ちゃんと聞いてたら後で三人にティータイムをあげましょう」


 三人が教科書を開く。


「おぼこ、早うしなさいな」

「たわし、さっさとして」

「花畑、早くー」


 またまた腹立たしいあだ名が追加されてるような気がするが、ここは我慢だ。



「コホン······いくよ。昔、山間の国に大変正直者のよし兵衛という名前の青年がおり──」



 毎日一生懸命に働いて、仕事終わりには必ず氏神様にお参りしていた。心神深く、真面目で善良なこの青年は貧しかったけど、困った人を多く助けてあげていた。

 でも、よし兵衛はある日大怪我してしまい、大事な畑仕事も出来なくなってしまった。

 もうこのまま餓死するしかないと悲しむ彼の元に毎日たくさんのご飯が届いた。

 それだけではなく、彼の畑で育てていた野菜もちゃんと育った状態で届けられたのだ。

 それは、よし兵衛に日頃助けてもらっていた人達と、その善き行いを見ていた神様が届けてくれていたのだ。


 こうして、感動したよし兵衛は、体がすっかり良くなり、村人や氏神様の元に大きなおむすびを持っていってお礼をした。

 その後はみんな仲良く平和で幸せに暮らしましたとさ。




「おしまい。うーん、良い話だね。善行がいかに人々を幸福にしてくれるかという事を教えてくれてるよ。ね、みんな?」


『············』


 わお、一目で白けてるのが分かるような顔を三悪女が浮かべている。


「え、えっと。みんな?話聞いてた?」


「······私の人生が短かったとは言え、こんなつまらない話は聞いた事なかったわね」

「これさ、何が面白いの?」

「この話の人物って実在してんの?だったら全員病院に行った方が良いよ」


 いや、確かに面白いかどうかと聞かれたら、まあちょっとアレだけどさ、そんなボロクソ言わんでも。


「とにかく!これはとても良い話だし、感動しなきゃいけないの!真っ当な人間なら『良かったねー』くらい思わなきゃいけないの!」


『ええー······』


「と、とりあえず、お茶は頼んどくから。あ、あと今日の指導はこれで終わりだけど貴女達には宿題を出します」


 三人にノートを配る。


「これは何かしら、おぼこ」

「貴女達のノート。これから使うから失くさないでね。今回の宿題は、このノートに今日のお話の感想を書いてくる事」

「は?ちょっと、たわし。あたしにそんなどうでもいい事させるつもり?」

「誰がたわしだっ。て言うか何でたわし?あ、髪の色で?キューティクルじゃん!ごわごわしてないし!」

「ねー、面倒くさいからやんなくていい~?」

「だめ!もしやってこなかったらティータイム一週間禁止だからね!」



 お茶が飲めなくなるのは嫌なのだろう。三人は渋々受けとった。



「ふうっ。よろしい!何でもいいから書いてきてね。あ、書けたら貴女達の部屋に置いてあるポストに入れればいいからね。自動的に私の所に来るから」



 今日はこんなもんで良いかな。やっとまともに指導出来たから無理せずに加減していきたい。



「はい、じゃあ今日はおしまい。三人とも、良く頑張ったね。それじゃあ、また明日」



 くぅ~。今の私、最高に教官してる!

 今夜はぐっすり寝れそう。






 翌日。事務所に出勤してみると、机の上に三人のノートがあった。


「おっ、ちゃんとやったみたい。どれどれ」



 ふふ。可愛い所もあるじゃん。素直な三人だ。



 まずはヴィセ、と。


 ──ペラっ──



『あの話には愚か者のお馬鹿さんしか居ないわ~。そんな話を読ませるあんたもお馬鹿だわ~』


「······」


 ──ピキッ──


 ベーゼは、と。


『聞いててイラつく話だった。登場人物全員ぶん殴ってやりたかった。たわしも殴りたくなった』


 ──カチンっ──


 モールは良い子だよね?



『あ』



「············」


 ──プツンッ──


「感想は何でも良いって言うのは、何でも良い訳じゃないんだぞーっ!そこは察しろーっ!あの三悪女どもーっ!!」




 怒りに吠える私を、事務所中の仲間達がポカンと見ていた。




 恥ずかしさに死にたくなった私は、何時もよりおやつ多めに食べた。美味しかった······。

お疲れ様です。次話に続きます。

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