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 一夜明けて。


 モーニングトーストを咥えての出勤を果たした私はギリギリ遅刻に終わった。


「なんでぇ?!今のおかしい!カードの反応遅かったじゃんっ!!ノーカン、ノーカン!」


 タイムカードめ。古いタイプだから私の早さについてこれなかったんだ。おかげで遅刻だ。


「朝っぱらからうるせえな」


 私が異を唱えている所へ朧がやってきた。


「んだよ、遅刻か。もっとシャキっとしろ」

「違うよ、タイムカードが反応遅くてこうなっちゃったの!」

「だとしても5分前とかに来れば間に合ったろ」

「う·········そんなの詭弁だー!」

「正論な。罪人を更正する教官なんだから模範に反するような事はすんなよ」


 ぐぐぐ、おのれ朧~。ロジックだけが人を救うと思うな。時には合理性ではなく優しい言葉が正しいと知れ。


「んな事より、ほれ、お前に指示書来てんぞ」

「えっ?」


 ピラっと紙一枚渡される。サーッと自分の血が引いていくのを感じた。


「じ、辞令?もしかして、私クビ?」

「辞令じゃねえよ、業務命令書だ。よく読めよ」


 言われて見てみると、確かに辞令ではない。



「えっと、なになに······『昨日の暴行事件を受けて、担当獄卒の身の安全面に問題ありと判断。よって、罰棍の使用を許可する』。えっ?」


 思わず朧を見上げると、仏頂面のまま頷いた。


「お前がザコすぎたんで警棒をくれるとよ。良かったな」

「一言多い。でも、罰棍かぁ」


 罰棍(ばっこん)はいわゆる鬼の金棒的なやつで、種類は様々だけど、大抵は亡者を打ち据えて痛めつける武器だ。

 特別製の武器なので、亡者には抜群のダメージを与える仕様となっており、軽く叩くだけでも亡者は凄まじい痛みを受けるそうだ。

 主に悪罪人を苦しめる獄卒達が使う道具。


「物騒だから使いたくないんだよね······」

「んな事言ってまたボコられたらどうすんだよ」

「いや、まあ分かってるけど······これ、使用許可って事は使わなくてもいいって事だよね?」

「わざわざこんな許可を出してきたんだ。つまり、使えって事だろ」

「そうだよねえ······あ、でも。て言うことは、あの三人は引き続きここで更正指導の処遇なんだね」

「みてえだな。ふん、さっさと悪罪人に格下げすりゃいいのにな」

「·········それにしても、罰棍かぁ」


 あんま気乗りしないなぁ······。

 でも、護身もしっかりしとくのも教官の仕事だ。取りに行こう。


 私は罰棍の置いてある資材室に行った。中は鍵のかかったガラスケースが棚のようにズラリと並んでおり、このケースの中に様々なアイテムが入ってる。


 資材室の管理人さんに事情を説明すると


「分かった。今鍵を開けるよ」


 と言って机の上に並んだ無数の鍵穴の一つに鍵を差し込んで捻った。ガチャンっと、ケースの一つが開いた。

 中には黒光りする棍棒が幾つも入っていた。


 その中から比較的小さな携帯用の棍を取って腰のベルトに掛ける。なんだか身の引き締まる思いだ。


「よしっ」



 気を引き締めて教室へと向かう。


 入る前の深呼吸。ふぅー、よし。


 ──ガラガラガラ──


「みんなおはよー」


 あくまで平常に挨拶をして入る。

 三人はちゃんと来ていて席に座っていた。


「おお~、三人ともちゃんと座ってる!」


 だが、感心したのはここまで。

 よく見ると、三人は机の上に化粧道具やら何やらを広げてキャッキャッとしてるではないか。


「オーホッホッ!安っぽい手鏡ね~!まあ、私の美しさはそれでもゴージャスに映るけど」

「ふーん。この口紅悪くないわね。ちょっとガキっぽいデザインなのが気に入らないけど」

「ねぇ、見て!これ、睫毛が入ってる!もしかして着けるのかしら?」


「·········。?っ!!ちょーいっ!!」


 よく見れば三悪女が広げて見てるのは私の化粧道具じゃないか!


「こらーっ!なに勝手に人の化粧品使っとんじゃー!」

「あら、おぼこ。来ていたの?」

「うっさいわね!いきなり叫ぶんじゃないわよ!」

「やっぱ花畑はセンス無いねー」

「返しなさい!あー、もうっ!こんなにしちゃって!一体いつ盗ったの?!」

「昨日殴ってたら落としたわよ?」


 そうだったのか。暴行で強盗か。もはや悪役令嬢ではなく追い剥ぎトロールか何かだろう。


「まったくも~!気づかなかった私も悪いけど、拾ったらちゃんと届ける!これ常識でしょ?」


『常識?』


 三娘が声を揃えてキョトンとする。


「どうして私が手にした物を渡さなくちゃならないのかしら?」

「何の権限あってあたしが手に入れた物をアンタが貰えんの?」

「訳わかんな~い」


 なんという事だ。この三バカには常識というものがそもそも存在していないんだ。

 というより、かなり捻れた人生を歩んできたから普通の人間の常識や倫理を持ち合わせていない。鬼の私ですら他者を悼み、慈愛を持って歩み寄れるというのに。


 これではとても善行奉仕活動なんて出来やしない。


 これは困ったぞ。根本的な所から指導しなきゃいけないじゃないか。


 だけど逆を言えば方針は決まった。


「······よし。決めた」


 三悪女が揃って私の方に目を向けた。その目玉に突き刺さる勢いでビシィッと指差してやった。


「まずは貴方達に道徳の授業から施す事にしましょう!人とは何か。思いやりとは何か。倫理的に生きる事の美しさ。それらを私がみっちり教えてあげましょう!」


『???』


 首を傾げる三人は無視して早速チョークだ。



「さあっ!始めるよっ!」



お疲れ様です。次話に続きます。

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