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「あいつつぅ。うう、染みる~」

「ほら、我慢なさい」


 10分後。私は医務室で同僚からの手当てを受けている。


「痛たたた。うう~、足、腫れてないかなぁ」

「大丈夫でしよ。あたしら獄卒なんだし、人間ほどヤワじゃないじゃん」

「ねえ、ほっぺの傷は?」

「残らないわよ。そんな大きい傷じゃないし」


 まさか悪役令嬢に傷物にされるとは思わなかった。人生何があるか分からんなぁ。


 て、そんな事あってたまるか!!

 私は教官だよっ?!鬼の獄卒なんだよっ!?それなのに亡者達にボコボコにされるなんてどういう事よっ。


「う、いつつつ······も~、あの悪女どもめ~」

「アンタも大変ね、あの三人みんな問題児なんだって?」

「問題児も問題児。札付きのワルだよ。プロフィールにある経歴の七割が犯罪行為なんだから。悪のエリート、悪役令嬢だよ」

「死なないよう気をつけなさいね」

「うう、遺書書いとこうかなぁ」


 幸い地獄(ここ)には色んな世界各地から集まったアイテムがあるので、大抵の怪我は治せる。木っ端微塵までいくと難しいけど、五体バラバラくらいなら傷痕無く治せる。まあ、お金すごいかかるけど。


 だから、私も心置きなく怪我できるねっ。すごいっ。


 でも、心の痛みは残ります······。


「ねえ、シャーリー。あの後三人はどうなったの?」

「あたしはアンタ抱えて脱出したから知らないわよ。まあ、普通に制圧されて牢獄に戻されたんじゃない?」

「そっかぁ」


 それは何とも言えない結果だ。

 ここは更正所だけど、決して慈善事業家じゃない。もしあの三人が、更正の余地の無い罪人、救いようのない罪人と判断されれば慈悲は取り消される。

 つまり、ただ責め苦を与えられるだけの罪人に成り下がり、長い地獄を見る事になる。


「どうしたの?麗羅」

「ううん。何でもない。シャーリーありがと、私もう戻るね」

「分かったわ」



 廊下を一人歩いて考える。


 あの三人は確かに罪人だ。悪人でもある。

 ざっと読んだプロフィールだけでも相当な業を感じる。そこへきて目の当たりにするあの性格。地獄に落ちるのは当然だ。


 だけど──私には一つ気掛かりが──······。


「おや?麗羅ちゃん?」

「っ!!」


 このお声は!

 私のシリアスシンキングタイムは煩悩によって一瞬で吹き飛ばされた。


 振り返ると、そこには爽やか先輩が新緑風たなびかせた笑顔を傾けておわすではないか!

 美白の肌、きめ細かい顔立ち、サラリと伸ばした銀髪。薄く微笑む唇。


「り、リューゲ先輩!」

「こんにちは、麗羅ちゃん」


 クスッと目を細める。淑女のそれのように美麗な目元は煌めくサファイアのよう。


 私の先輩で、同じく指導教官のリューゲ先輩が声を掛けてくれたのだ。


「さっき笛の音がしたから駆けつけたんだけど、凄い騒ぎだったね。貴族令嬢らしき女の子が三人暴れてて、担当の獄卒が怪我したって聞いたんだけど······麗羅ちゃんだったんだね」

「は、はい。お恥ずかしながら」

「そっか。怪我、大丈夫だった?」

「そ、それはもうっ!今治りました!」


 眩しいイケメンスマイルが特効薬です。


「ははは、元気だね麗羅ちゃんは」


 そう笑ってからリューゲ先輩が踵を返す。


「怪我大した事なくて良かったよ。今度あの三人の事聞かせてね。それと、また怪我するような事あったら僕が手当てするよ」

「ありがとうございますっ!」


 あ、なんだか知らないけど、もう一回あの悪女達にボコボコにされたくなってきた。


 先輩の背中に手を振ってお見送りする。

 今日は良いこともあった。


「むふふふ、今日はラッキー」

「みっともなく亡者にボコボコにされたからか?」

「のっひょおお?!」


 突然後ろからかかった声に思わず跳び跳ねたら、傷に響いた。痛い。


「いっつっ!だ、誰ですか、いきなり後ろから──って、なんだ(おぼろ)か」

「悪かったな俺で。愛しのリューゲじゃなくてな」


 そんな失礼な悪態をついて私の事を見下ろしていたのは幼馴染みの朧だ。


「ふん。怪我したって割には煩悩まみれか。大した事ねえな」


 と、このように一々突っかかってくるのが彼の悪癖だ。

 背も高く、黒髪のよく似合う、顔立ちも悪くないという幼馴染みなんだけど、とにかく口と態度が良くない。とりわけ私には塩い。


 そう、つまり残念系イケメン幼馴染みだ。


「なんだよその目は」

「別にー。ただ、リューゲ先輩みたいな人が幼馴染みだったらなーって」

「そりゃ悪かったな」


 フンッと背を向ける朧。


「ピーピー笛鳴らすくらいならガキでも出来る。次からは一人でどうにかしろ」

「はいはい、忠告どうもありがとう。べーっ」


 くそ~。子供の頃は私のこのあかんべーで逆上してたくせに今はクールに無視とは。時の流れを感じる。


 去り行く朧の背中にあっかんべーを喰らわしてから私も教室に足を向けた。


「むむぅ」


 朧の言い方は癪だけど、言い分は正しい。獄卒が罪人にしてやられるなんて言語道断。笛吹いて仲間に頼るなんて誰にだって出来る。


「はぁ~。今日は失敗しちゃったなぁ~」


 だめだめ。落ち込むのは後、後。

 とりあえず教室に戻んなきゃ。


お疲れ様です。次話に続きます。

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