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「オーッホッホッホッ!まあまあのお茶だわ~!」

「まあ、白湯よりはマシってとこかしら」

「お菓子もフツー」


 この悪女ども~。私が無理言ってコックさんが用意してくれたティーセットなのに~。


「はい、ちゃんと要望通りに用意してあげたんだからね。そのままでいいから私の話聞くように」

「仕方ないわねえ」

「一回だけよ」

「貸し1ね~」


 この際もう態度は問わない。


「コホン。さっきの話の続き。貴女達は罪人ではあるけど情状酌量により極罰(地獄における刑罰のこと)は比較的軽めです。具体的には、貴女達に苦しみや痛みを伴う罰は行われません」


 それを聞くと悪女達、


「オッホッホ、悪くないじゃない」

「当然よ、当然っ」

「それで~?あたし達は何させられるの~?」


「よくぞ聞いてくれました」


 よしっ、やっと本題に入れる。


「貴女達に課せられた罰はズバリ、善行奉仕活動です」


『·········』


「あら?何それ?」

「ぜんぎょーぼうし?」

「可愛くない名前~」


「善行奉仕。つまり、善い行いをして罪を償おうという活動です」


 黒板に箇条書きしていく。


「まず、一つ。死者は天国と地獄に別れます。その天国に行った死者には生前の行いによってご褒美とも言える生活が保証されます。天国の死者もやがて転生しますが、それまでの間は文字通り天国な生活をしていーよーという事ですね」


『·········』


「その為に必要な生活物資を地獄に落ちた罪人達が作る訳です。例えば、極上のふかふか布団だったり、至高のお酒だったり、美麗な景色だったり。そう言った物を作って提供するのです」


 うんうん、授業っぽくなってきた。


「そして二つ目。地獄の公共工事への従事です。地獄は常にメンテナンスが必要な場所です。ですが、我々獄卒の手だけではこの広大な地獄の全ては整備出来ません。そこで、溢れる亡者達にも労働して貰うことになってます」


 あれ?なんか三人とも険しい顔してる。ま、いっか、次が大事なんだから。


「最後に三つ目です。これが一番重要ですよー。三つ目は直接的な償いをする奉仕活動です」


「直接的な?」

「償い?」

「奉仕活動?」


「はい。つまり、貴女達が生前に迷惑をかけた人達に直接お詫びする活動です。色々ありますが、例を挙げましょう。例えば、生前にたくさん虐めてた女の子が居たとしましょう。その女の子が生きてる場合は、その子が幸せになれるよう、人生を支えてあげるのです。具体的には貴女達のマナを使って──あ、マナと言うのは霊的エネルギーの事で──」

『·········』

「って。あれ?おーい、みんなー?」


 気がつけば三人とも物凄い殺気。


「ど、どったの?」

「私が、この私がっ······あんなグズのために奉仕ですって?」

「は、はい?」


「あたしの事死に追いやったあんなクソ女のために償い?」

「ほえ?」


「あたしを······あたしをあんな目に逢わせたあいつを?」

「え、ええっと······?」


 そして、本場獄卒も真っ青なほどの鬼の形相にカッと変わる。


「絶対やらないわーーっ!!」

「ええ?!」

「ふざけんじゃないわよおおおおお!!」

「ひ、ひぃ?!」

「あいつ殺してやるうぅ!!」

「ふえぇ?!」


 ──ドガタアーンッ──


 椅子を蹴っ飛ばして立ち上がる悪役令嬢達。


「ほ、ほわあぁ!?」


「何が奉仕活動よぉっ!死んだところであのグズに頭下げる私じゃないわあーっ!!」

「誰がするもんですか!そんな活動おー!むしろ今から地獄に引きずりこんでやりたいくらいよおー!」

「そんな事するくらいなら刑罰の方がマシよぉー!」


 慟哭(どうこく)、絶叫、魂の叫び!悪の三姉妹は途端に怒り狂い暴れだした。


 脇目も振らずに髪を振り乱して、そこらの椅子や机を張り倒し、蹴り飛ばすその姿は正に鬼!

 美しい顔立ちを憎しみに歪ませた顔は、人間の生々しい表情が垣間見えるではないか。

 高貴な人間の、感情一直線のその姿は正に静と動のクロスファイア。

 そこには完成された感情があったのだ──



 ·········って!悠長に観察してる場合じゃなーいっ!


「ちょ、ちょちょーいっ!こらっー!止めなさーいっ!」


 慌てて止めに入る。


「ちょっとヴィセ!落ち着きなさい!あいたっ!引っ掻かないでよ!ベーゼ止めなさいっ、椅子さんが可哀想でしょっ!痛いっ!蹴らないでっ、足折れちゃう!マール、言うこと聞きなさい!あいたたたたっ!髪引っ張らないでぇー!」


 飛び込んだのがいけなかった。憎みの矛先が私に向けられてしまったではないか。


 ポコスカ殴られ、ドカバキ蹴られ、ボロボロにされた私はやっとの思いで三悪女の八つ当たりから逃れた。


「う、うぐぅ······こ、こうなったら!」


 最後の手段だ!

 懐の笛を取り出し、おもいっきり吹く。



 ──ピイイイイイィィッ──


 助けて同僚。


 これは同僚を呼び寄せる笛なのだ······。


 ──ドタドタドタ──ガラガラッ──


「どうした、麗羅!何事だ?!」

「うおっ?!罪人が暴れてるぞ!」

「ちょっと大丈夫?!麗羅!」


「た、助けて~」


 ああ、良かった、来てくれた。


「おい!貴様ら!大人しくしろ!」

「そっち押さえろ!もっと援軍呼べ!」

「麗羅を避難させろ!」

「さ、麗羅。あたしに掴まって」


 乱闘する同僚達に感謝しながら、私はさながら負傷兵のように運ばれていった。

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