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「リューゲ先輩っ······」
「麗羅ちゃん······残念だね」
入ってきたリューゲ先輩は悲しげに目を伏せると、所長の前に立って言った。
「所長、法執行の獄卒として進言します。あの三人──ヴィセ、ベーゼ、マールの三人は即悪罪人にするべきです」
「えっ?!」
「······」
先輩の発言に私は大きな衝撃を受けた。
リューゲ先輩は法執行の獄卒でもある。つまり、悪罪人などを罰したり更迭する権限と義務を持った獄卒だ。
そんな彼が罪人の処分に口を出したり提案するのは何も変ではない。
だけど──
「ま、待って下さい、リューゲ先輩!」
私は思わず立ち上がっていた。
「これは何かの間違いです!あの三人が備品を盗んだりするはずありませんっ!いえ、仮に盗んでいたとしても、それはきっと気まぐれとか悪戯で、決して悪用しようなどとは──」
「麗羅ちゃん」
先輩は静かに首を横に振った。
「罪人はまず疑ってかからなくちゃいけない。これは獄卒の基本だよ」
「で、ですが」
「それに、残念ながら三人には前科がある。獄卒に暴行を働き、脱獄を図った。これはもう言うまでもなく知ってるよね?」
「それは······」
「それだけでも悪用しようとしたと考えるのが自然だ。そして、所長から聞いてるとは思うけど、問題なのは彼女らに脱獄の意思があったかどうか。これが重要となる」
先輩はゆっくりと話を始めた。
「まず第一。罰棍や札、さらにはハサミなどの刃物は凶器、武器となる。我々獄卒に有効かどうかはともかくとして、所持している事に危険性がある。つまり、それを使って警備を突破して脱獄しようと考えていたかどうか。だね」
「で、でも······」
「そして次に、火薬や鳳凰羽。これは組み合わせれば爆薬のようにもなる。これも、我々を倒せるかは微妙だが、少なくとも設備の破壊には効果を発揮するだろう。例えば牢屋の檻や壁を破壊するのに使える、とかね。実際、それを可能にするくらいの量が見つかった」
「······」
「そしてマナ霊。これは少し特殊だが、エネルギーを吸収すれば本人達の力を高められる。その知識があったかは分からないけど、持っていたという事実が肝心だ。さらにはマナ霊は神聖なる存在でもある。それを私物化しようとしていた罪は重い」
リューゲ先輩は淡々と見解を並べていった。
「調べた結果、札の内容は金斗雲だった。これが何を意味するか。ここからは完全に憶測だけど、こうしようとしてたんじゃないかな」
先輩は一つ一つ確認するように自身の予想を語っていった。
「まず、火薬などを使って牢屋を破壊。マナ霊で力を強めてハサミなどの武器で武装しながら脱走。そして、施設外へ出た後に金斗雲に乗って逃亡。そのための準備を終えてタイミングを見計らっていた。それがたまたま今日の巡回によって発覚してしまった」
「でもっ、待って下さい!それだけの準備をどうやって?!彼女らは常に監視下に置かれてます!その状況でそれだけの物資を調達するのは無理です!」
「確かに、いくつかの証拠品に関しては不明だが、いくつかは大方の予想がついてる」
「えっ」
リューゲ先輩は、薄い眉を陰らせた。
「麗羅ちゃん。辛いかもしれないが······恐らく、君との善行奉仕活動中に調達したと思われるんだ」
「······え」
私との時間で?
「調べによると、麗羅ちゃんは今現在あの三人との共同作業をしているね。マナ霊作りやその他いくつかの現世への贈り物を作る作業を」
「は、はい」
「その時に消費した材料と、出来上がった完成品のチェックはしてあるかな?」
「あ······」
そこまで厳密にチェックはしてない。マナ霊にしろ、他の霊造品(マナ霊のように現世に影響を与える物)にしろ、たくさん材料を用意して、余ったのはまた資材室へ返しているだけだ。
マナ霊を作るために使用した材料の消費量や残数は数えていない。つまり、もしヴィセ達がこっそりくすねていたとしても、私が気づく事はないという事だ。
「だけど······罰棍や札は?あれらは私も用意してませんし、自分の分はちゃんと管理してあります」
「それも説明がつく。彼女らは以前、極罰エリアで獄卒の仕事を肩代わりしたそうだね?」
「は、はい」
「その際、使った道具が全て返却されたか確認はしたのかな?」
「それは······」
あんなのはイレギュラー中のイレギュラー。恐らく、向こうの極罰所もきちんとしたチェックはしてないだろう。そもそも札や罰棍は極罰エリアにおいてはただの消耗品。一つや二つくらい紛失するのは日常茶飯事。
それに、私もちゃんと所持品検査をしなかった。
「麗羅ちゃん······」
肩に先輩の手が乗った。
見上げてみると、少し困った笑顔がそこにはあった。
「気持ちは分かるよ。でも、こうなってしまった以上、僕らの最善な行動は、何か事件が起こる前にその脅威を取り除く事だ」
「ですがっ、あの子らに本当に脱獄の意思があったのかも、本当にあの子らが盗んだのかも分かっていません!」
思わず声を荒げている自分が居る。相手はあのリューゲ先輩なのに。
「私は······私があの三人に直接話を聞いてみます!」
「あ、麗羅ちゃ──」
口よりも、思考よりも、感情よりも。
今は体が勝手に先行している。
あの三人の無実を証明するために。
気がついた時は部屋を飛び出し、教室へ向かって走っていた。
お疲れ様です。次話に続きます。




