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少し遅れて私も教室へ入った。
教室には既に三人が席に着いて待っていた。
「まったく。指導初日から遅刻なんてどうかしてるよ。三人とも反省しなさいっ」
「オッーホッホッ!反省~?何それ、ケーキと紅茶に合うのかしら?」
もっと言葉を噛み締めて欲しい。
「反省なんか死んでもしないわよっ!」
死んでるんですよ、貴女。あ、確かに有言実行。
「反省ってバカがする事だも~ん。しーない」
馬鹿は死んでも治らないらしいや。
まずはこの子らの私に対する態度から改革していくべきだろう。
「······おっほん、オッホン!はい、注目」
私はキッと強気の眼差しを三馬鹿に向けた。
「指導を行う前に、まずは貴女達の教官に対する意識改革から変えなきゃいけないみたいだね。いい?昨日自己紹介したけどもう一回」
私は黒板に自分のプロフィールを書いていった。
「はい、手元にあるノートにこれを書いて。私の名前は崩落麗羅。貴女達の指導教官。ここ大事。貴女達のっ、指導っ、教官!」
「あーら、なら早くペンを持ちなさいな」
「あたしに書かせる気?!」
「自分で書けば~?」
「シャラップ!黙りなさーいっ!」
この人達は自分で雑務とかした事ないんだろうな。そのくせに他人を虐める手間は自らの手でやっていたんだから訳分からん。
こうなったら、少し語気強めにいこう。
「いい?私は貴女達のメイドでも使用人でもないのっ!そして貴女達はもう貴族でも令嬢でもないのっ!さらに!貴女達はただの罪人で、私はそんな貴女達を指導する教官っ!つまりどういうことか。貴女達は私の言う事を聞くのっ!私がやれと言ったら何でもやって、やるなっと言ったら何もやらないのっ!分かった?!私は貴女達の教官だーっ!」
これくらいガツンと言ってやれば少しは堪えるだろう。
「オーッホッホッホッ!長ったらしくて聞いてなかったわ~!」
「言いたい事は三文字以内で纏めなさいよ」
「話なが~。そんなんじゃすぐ老けるよ~」
返せ私の熱意。
だ、駄目だ。まだ始まってすらないのにもう疲れてきた。
仕方ない。いきなり矯正、更正、修正は無理そうだ。少しずつ直していくとしよう。
「はあ。もういいや。とにかく、貴女達は罪人で、教官である私の言う事に従う事。以上」
「あら。まあまあね」
「ふん。さっきよりは分かりやすいわ」
「内容はともかくだけど」
一々人を見下すリアクションしかとれんのか?こやつらは。
ともかく、気持ちを切り替えてさっそく指導からだ。
昨日は状況説明と、この地獄の事と、彼女達を輪廻転生させてやるのが目的だと話した。
なので、今日はもっと具体的な事を話すとしよう。
「はい。今日はより具体的な地獄の説明と貴女達の存在意義を教えていきます。まず最初に、地獄に落ちた罪人の魂はどうなるか説明します。よーく聞くように」
黒板に簡単な図を描く。
「まず、生前に罪を犯しておきながら裁かれる事も罰を受ける事もなく、反省もせずに死んだ者は悪罪人という扱いで地獄に落ちます。これは一番酷い目に逢います。貴女達とは違って、地獄に着いた途端、様々な獄卒から追いかけ回され、日夜責め苦を負うこととなります」
ヴィセが髪の毛いじりだしたが、ここで止めると面倒なので次に進む。
「そして次が劣罪人。これは生前に罰や裁きを受けることはなかったけど、反省し後悔していた者の事です。この人達は地獄裁判の後にそれぞれの刑罰を受けることとなりますが、悪罪人と違って痛めつけるのが目的ではなく、罪の清算が目的となるため、必要な苦しみしか与えません」
ベーゼが机につっ伏した。お腹痛いのかな~?おや、グゥグゥお腹の音がする。いびきに似てるけど。
「そして悲罪人。これが貴女達の事です。端的に言えば、生前に罪や過ちを犯したけどそれ相応の裁きや罰を受けた罪人の事です。よって、業の半分から大半は削ぎ落とされた状態なので、罪人の中では最も情状酌量されます」
マールがお絵描きし始めた時点で流石に私も授業を一時停止した。
「ちょっと!聞いてるの?!」
三悪女達はてんで話を聞いてなかった。
“悪女には 地獄の沙汰も 空回り” 麗羅
「もうもうもーうっ!どうしたら話を聞いてくれるの~っ!!?」
思わず叫ぶと、三悪女らの冷ややかな声がかかった。
「まずは紅茶からよ」
「お茶菓子なけりゃ、話なんて進まないでしょ」
「ケーキと、アプリコットジャムもね」
「·········」
私は獄卒用の通信勾玉をそっと出した。すぐに通信が繋がった。
「あ、すみません、お疲れ様です。麗羅です。はい、お疲れ様です~。あの、今お時間よろしいでしょうか?いえ、料理の注文ではあるんですが、紅茶とお菓子を。いえ、人間用ので。文明レベル3ほどの物で結構かと。はい、すみませんお忙しいところ。よろしくお願いいたします、失礼しま~す」
通信完了。三馬鹿どもをキッと睨んでやる。
「お茶用意したからねっ!お菓子もっ!もう文句言わせないからねっ!ちゃんと話を聞くようにっ」
そして、食堂から紅茶セットがすぐに届けられたのだった。