37
本日、3本投稿の予定です。
聖堂に戻ってきた。先ほどの光景のあった場所へと急いで向かう。
が、しかし。四人の姿はなかった。
「ど、どこに?!」
──ヒヒーンッ──
すぐ近くから馬のいななきが聞こえた。
反射的にそっちを見ると、果たせるかな。私達が乗って来たのとはまた違うタイプの馬車があり、その手綱を例のメイドさんが握っていた。
「あっ!居た!待って!」
走り寄ると、メイドさんがキョトンと首を傾げた。
「あれ?貴女は?」
「私は獄卒の崩落麗羅。いや、そんな事より!もう大丈夫!さ、そこから降りても平気だよ」
「え?なんでですか?」
「え?」
思わぬ返答にこちらも虚を突かれた気分。
「なんでって······だって、貴女は無理矢理コキ使われてるんでしょ?あの三人に」
と私が言うと、馬車の窓がビシッと開いて悪役令嬢達が揃って首を出した。
「オッホッホッホ!今のは聞き捨てならないわねえ!麗羅?」
「メイドに働かせるのは何も悪くないでしょ」
「口出さないでよ、バカ麗羅」
「なんだとー?!」
三人はニヤニヤと笑っていた。
「今からこの馬車で天国の町へショッピングに行くのよ」
「荷物持ちのメイドも出来たしね」
「だから麗羅は留守番しててね~」
「何を勝手な──」
「オーッホッホッホ!メイ!馬車を出しなさい!」
「はいっ、お嬢様!」
「あっ!待って──」
止めるのも待たず、馬車はガラガラと動き出し、テラスの方へと爆走し始めた。
「こらーっ!待ちなさーいっ!」
奇しくも、また地獄の時のようにリアル鬼ごっこが始まってしまった。ロケ地、天国。
周りの天使達がざわつく中を走る馬車と、追う私。
「ねえっ!待って!メイドさんっ!馬車を止めて!」
「止めるんじゃないよ、メイ!あの追いかけてる麗羅って奴は鬼なのよ!」
「誰が鬼じゃーっ!あっ、鬼ではあるか」
「そうそう、だから~、あいつに捕まったらあたし達食べられちゃうの~。お願い、メイ。あたし達を守って~」
「食べるかっ!こら~!マール~!いい加減な事をメイドさんに吹き込むなー!」
「分かりましたっ、お嬢様方!皆様はこの私が必ずお守りいたします!」
メイドさん!
話を聞いて(涙)。
何か脅されてるのか、弱みを握られているのか、メイドさんはあの三悪女の言いなりのようだ。
馬車が聖堂内を出て、巨大なテラスへと移る。
よし、もう道はない。テラスの先は空だ。
「はーっはっはっはっ!観念しろいっ!令嬢どもーっ!そっちは行き止まりだー!」
「オーッホッホッホ!麗羅、悪の鬼役なかなか似合ってるわよー!」
「やかましいっ!」
でも、これで馬車は止まる。そしたらメイドさんを救出、三人にお説教だ。
ところが──
「ハイヨー!ペガサス!飛べー!」
「へ?」
『ヒヒーッン』
──バサッ──
青天の中へはためく純白の翼。ペガサスの羽が風を叩き、馬車がふわりと浮いた。
馬車が空を飛ぶ。
「あ~っ!?」
「オーッホッホッホ!さよなら麗羅~」
「アハハハハッ!バイバーイ!」
「イヒヒヒヒッ!お疲れ~!」
「······ふっ」
「あら?」
「ん?」
「お?」
ふっふっふっ。私が何の対策も無しで天国の見学に来たと思うかね。
「甘いわー!この間の地獄での失態から何も学ばなかったとでも?とうっ!」
持って来ておいたお札を地面に叩きつける。
──ボワンッ──
一瞬、白い煙が上がり、その中から黄金の雲、金斗雲が現れる。
「よっと!」
それに乗る。金斗雲は獄卒の移動用の道具。もちろん空だって飛べる。こんな事もあろうかと持って来ておいたのだ!
「待てーっ!」
ギュンッと加速して馬車を追う。
馬車から首を出した三悪女達が悪態を吐く。
「しつこいわねぇ~」
「アンタも無茶するわね!」
「なんでムキになってんのさー!」
「黙らっしゃーい!メイドさんを解放しなさーいっ!」
「メイ、今の私達は悪の鬼に追われる身よ」
「あたしらの命運はアンタに預けたわ」
「頑張ってねー」
「はいっ!お嬢様方!このメイドのメイ、使命を果たします!」
「メイドさーんっ!もう言いなりにならなくていいんだよー!大丈夫だから~!」
「オーッホッホッホ!まるで姫を狙う魔王のようねー麗羅!」
誰が魔王だ。可愛いメイドさんを悪女達の魔の手から救おうとする正義の騎士じゃないか。
「しつこいわね!マール!あんたの持ってる菓子をよこしなさいっ!」
「あ~、それ食べようと思ったのにー」
「おっ、良さそうなのがあるじゃない。ほら、あんたも持ちなさい」
「わあ、これ良さそう!」
「あら、面白そうね。私にも下さる?」
前方で何やら騒ぐ三悪女。何を企んでるかは分かんないけどもう少しで届く。
飛び移って乗り込んだらそのままハイジャックだ。
「覚悟しなさいっ!今、鬼の手が天誅を下す──いたっ?!いたたたたっ!?」
──パチッパチッパチッ──
前方から小さな散弾のような霰が飛んでくる。いや、違う。霰じゃない。
これは、豆だ。
三人が豆を投げつけているのだ。馬車のスピードも乗って威力抜群。
「あいたたたたっ?!こ、こら!食べ物を投げつけないの!」
「オーッホッホッホ!落ちなさいっ、闇の亡者!」
「悪魔よ滅べ!」
「落ちろー!」
「いたたたた?!痛いっ、痛い!」
く~、知ってか知らぬか、これじゃあ節分の豆まきじゃないか!
だけど、本物の鬼はこれくらいじゃ倒れんぞ!
「待ちなさーいっ!」
私達のカーチェイスはこれからだ。
お疲れ様です。次話に続きます。




