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「美味しい~」


 天界の料理もなかなか美味しい。地獄に比べると上品で薄味なのが多いけど、嫌みやクセの少ない味は私好みだ。



「オホホ、少し薄味だけどまあまあね」

「それなりのコックは居るってとこね」

「こんくらいはしなきゃ天国なんて名前負けだもんね」


 素直でないながらも、三令嬢もその味は認めている。



「皆さん、良かったらこちらのジュースをどうぞ」


 メナエルさんが瓶を出す。そして、ガラスのコップにトクトクと中身を注いでいく。淡い白色のジュースだ。


「これは?」

「天界のココナッツのジュースです。ウェルカムドリンクの定番なんですよ」


 頂いて飲んでみると、びっくりな美味しさ。


「お、美味しい!」


「あら?」

「へえ?」

「おおっ?」


 これには三令嬢も流石に感嘆の声をあげた。



「やれば出来るじゃない」

「もっと寄越しなさいよ」

「あと100杯分は飲むよ」


「こらっ、調子に乗らない」

「構いませんよ。ではお持ちしますね」



 結局、他にも美味しいフルーツやスイーツをたらふく平らげる三人だったのだ。


 食休みしていると、どこからともなくハープの音色や、軽やかなベルのささやきが聞こえてきて、お花のふんわりした香りが優しく漂ってきた。



「まあ、天国と言われる所以(ゆえん)は理解出来たわ」

「ここなら住んでやってもいいわね」

「召し使いは天使50人くらいかなー」


 散々お世話になっておきながらこのふてぶてしさ。神をも恐れぬ輩め。



「それでは、そろそろ天国の町を見学に行きましょうか。皆さん、休憩は十分取れましたか?」


「私は輿に乗って行くわ」

「同じく」

「なんか乗り物欲しー」


「こらこら、そんな図々しい注文を──」

「分かりました。今手配しますので少々お待ち下さいね」

「え?!そ、そんな事までしなくて大丈夫ですよ、この子らは我が儘言ってるだけですから」

「いえいえ、せっかく天界にお越し頂いたのですから、せめて楽しくて良い思い出にして欲しいですから」



 さすが天使。なんと慈愛に満ちた言葉だろうか。ああ、なんか一緒に居るだけで浄化される~。



 その後、メナエルさんが手配してくれたモクモク雲絨毯がやってきた。


「こちらにお乗りください。これは自分の思った通りに動く雲ですので、移動も楽になります」


「オホホホッ!便利だわ~!」

「うっわ、ふかふか!」

「これ欲しいー」


「良かったねみんな。ほら、メナエルさんにありがとうを言いなさい」


「あなた使えるわね」

「お人好し天使」

「メイドにしてあげてもいいよ~」



 ぐっ、この三人にしては褒めてる部類だ。だけど、やっぱ態度悪い!



「と言うか、麗羅。なんで私達の地獄にはこんなおもてなし無いのかしら?」

「ほんと。あんたら獄卒って無能集団?」

「地獄も少しは見習いなよー」


「地獄が至れり尽くせりの快適サービス満点だったら意味ないでしょっ!」


「あら、ただのジョークよ?」

「カリカリしないでよ」

「短気~」



 この天界に地獄のお仕置き絶景を展開してくれようか。



「はあ······なんか疲れた」



 でもまあ。天国(ここ)に来た目的は、快適で素晴らしい生活を体験してもらって、善人になればこんな良い事があるという事を知って貰う事だし、今のところ思惑通りだ。



「それでは天国の町を見に行きましょうか」




 こうして、私達地獄の使徒は天使に導かれて、天国をさ迷う事になった。



 天界の町はさっぱりしていた。空や雲の色を損なわないように柔らかな色調で壁も屋根も統一されていたし、ビルなどのような高層建造物も無い。でも、たくさんの色んなお店とかが並んでいる。



「あら、賑やかね。市場を思い出すわ」

「そうだね。活気があっていいね」


 町行く人──天使の大半が美男美女なのも天界の凄いところだ。


「あ、良い男いんじゃん。ちょっとこっち来なさいよ」

「こらっ、ベーゼ!天使さらいしないの!」

「チッ。未遂だからいいじゃん」



 遠くの入道雲の天辺辺りには荘厳な神殿が見える。あそこに神様方が居るのだ。


「ねーねー、麗羅。あそこに住んでる奴を倒せばあたしが神になれるの?」

「なんて恐ろしい事考えてるんだ己は!無理だし、駄目っ!」

「冗談なのに~」



 虹の架け橋を渡って、緑豊かな公園に行けば、アクアマリンのような色の大きな泉の上で極楽鳥らが羽つくろいをしているのも見れる。


「こちらは憩いの場です。日によってはあの泉から神龍などの聖獣が現れて、祝福を施してくれるのです」

「見たかったなあ」

「ふふ、何時でもまた見に来て下さい」



 そして、ふんわりほんのりと漂う良い香りに誘われて辿り着いたのは広大な花畑。



「あら、麗羅が居るわよー、オホホホッ!」

「アッハハハッ!ほ、ほんとだ!!」

「イヒヒヒッヒッヒッ!れ、麗羅の大群!」


「こ、の、悪役令嬢ども~!!」




 まあ、そんなこんなで。




 天界の暮らしや場所を実に堪能出来た時間になったのだ。



 再び、聖門に戻り、今日の見学の終わりとなる。



「ふう。たくさん回ったね。三人ともどうだった?天国ツアー楽しめたかな?」


「そうねえ」

「んー」

「うーん」


 あら?なぜかイマイチな反応。


「天国最高だったでしょ?私ですら良いなあって思ったんだから人間の貴女達ならなおさら」


「良くはあったわ。でもねぇ」

「なんつうのかなー」

「退屈?」



 三悪女達は一様に首を振った。


「少し刺激が少ないわね」

「正直、この間の地獄の刑場の方が面白かったわね」

「同じくー。地獄の方が楽しいかな」



 故郷を褒められて嬉しいけど!そうじゃないっ。


 天国に憧れてもらって、次はここに来たいなーってなって改心、更正してもらわなきゃのんないのにっ。



「あ、そうだ。麗羅さん」


 メナエルさんがふと思い出したように手をポンっと打った。


「実は、こちらの女神様と麗羅さんの所の所長さんが知り合いらしく、女神様からお茶のセットを麗羅さんに預けて渡して欲しいと言われているのです。お手数ですが、お願い出来ますか?」

「あ、はい。もちろんです」

「では、こちらへ」


 おつかいが発生してしまった。



「三人とも。少し行ってくるから大人しく待っててね」


 ここは天国だし、今日は三人とも何も問題行動は起こしてない。



 少し待たせても大丈夫だろう。



「早くしなさいな」

「遅かったら置いてくわよ」

「しょーがないなー」



 ブーブー文句言う三悪女を待たせて、私はメナエルさんの後を追った。

お疲れ様です。次話に続きます。

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