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「はい。と言う事で今から天国へ行きます」
「オーッホッホッホ!ついにその時が来たのねー!転生まで長かったわ~!」
「やりいっ!閻魔とか言う奴も裁判見直したって事か」
「やった、やったー!あたしには天国が相応しいもんねー!」
「ちょいちょいっ!盛り上がってるとこ悪いけどさ。天国には見学に行くの。決して天国へ移籍する訳じゃないからねっ」
「あら、分かってるわよ」
「悪のりしてあげただけよ」
「このしらけ鬼~」
「空気読めないおぼこ鬼娘」
「中身もタワシ獄卒」
「花畑のバカ麗羅」
ついに私の必殺鬼ビンタで天国行きにしてやる時がきたか。成仏せい。
「ぐぐぐっ······ふぅ~。最近どんどん血圧上がってる気がする。健康診断が心配になってきた」
なんだか怒りを鎮めるスキルに磨きがかかってきた。私も成長している。
今日の社会見学場所は、ずばり天界だ。
この間は地獄の凄惨さを見て反省を促すのが目的だった。
今度はその逆で、天国の素晴らしさを体験してもらって、善人であればご褒美があるという事を知ってもらうのだ。
「じゃあ、天国に行きましょう。正しくは天界と言います。多分三人も知ってると思うけど、死者の魂が安らかで幸せに過ごせる場所です。天界には私のような冥徒とは対になる存在の天使が居て、死者達を管理しています」
「へえー。でも、なんであたしらの天国とか地獄の認識って共通してるんだろう?」
「話すと長くなるから簡単に説明すると、死者の魂には地獄や天国での生活が、意識出来ない領域の記憶として刻まれるからだね。それが夢とか瞑想中に光景として蘇って、なんとなくの形で宗教化したりするから、大体どこの世界でも似たような世界観になるの」
「ふーん。あんたが難しい事話すとむず痒くなるわね」
「黙らっしゃいっ。とにかく、早速出発するからね。天使達も今は忙しいんだから」
守衛さんも付き添って更正所の中庭に行く。
「あ、こんな所に中庭あったんだ~」
「あら、やあねえ。見てみなさい、趣味の悪い植物ばっかりよ」
そこには地獄の観葉植物や花が植えられてるけど、収容されている罪人を楽しませてはいけないので、人が嫌いやすい植物が選ばれてる。
「はいはーい、見学はまた今度ね。それより、天界から迎えが来てくれてるから早く乗りますよー」
「あら?」
「おっ?」
「あっ」
運動スペースである芝生の上に待機している馬車を見て三人は目を丸くした。
「あら。なかなか良いじゃないの」
「へえー。少しはセンスありじゃん」
「わー、綺麗~」
待っていたのは、純白に輝く天界の聖なる馬車。青い宝石や金色の装飾を凝らした豪華な造りだけど、くどくない控えめな色合いが清浄な雰囲気を出している。
おまけに、馬も普通の馬じゃない。真っ白な馬体と、大きな羽を持ったペガサスだ。
「はい。こちらが天界からのお迎えです。いい?みんな。天使達は私ら冥徒と違ってとても純心で繊細な善のカタマリみたいな方々だから、決して不作法な──」
「オーッホッホッホ!私に相応しい馬車だわ~!」
「どきな!あたしが一番乗りよ!」
「これ欲しい~!持って帰ろっと!」
私の話など無視してドタドタと馬車に駆け込んでいく三令嬢。
「この~っ······人の話聞けーっ!」
怒りと共に私も乗り込む。
「オーッホッホッホ!広いじゃない!しかも私に相応しくゴージャスだわ~!」
「すっご。これ魔法?明らかに外観と違う広さじゃん」
「しかも温かいし、良い香り~。あ、小物もふわふわしてて可愛い。ぬいぐるみだ······」
テンション高めの三人。流石に天界の馬車だ。鬼の私でも心地良い空間。
特殊な魔法で、外からはただの馬車に見えるけど、中はそれこそ貴族の部屋みたく豪華。白やピンクを基調にしたソファやテーブル、ベッドまである。
流しや、色々な食べ物が取り出せるマジックボックスがあるので、ちょっとした料理も出来る。
ペガサスが翼を広げ、馬車が飛び立つ。ペガサスは天使とテレパシーで繋がってて、天界から出される天使の指示で動くのだ。
地獄の赤い空をぐんぐん上り、はるか上空の青い光へと向かって行く。
「ねーねー、麗羅。天界ってどんな所?」
「文字通り天国だよ。天界──神様とか女神様、それに天使達が統治してる世界だよ。地獄の対になっている世界だね。光と風に満ちた世界で、人間からすると息を呑むような美しさだよ」
「ふーん。あんたは綺麗だとは思ってないの?」
「うーん。私は冥徒だから地獄の景色の方が好みかなあ。あんまし真っ青な空とか白い雲って馴染みなくて違和感あって」
「へえ。そこは鬼らしいのね」
「オホホ。麗羅、天界は遠いのかしら?」
「大体二時間くらいで着くよ」
「ならお茶にしましょう。ほら、早う淹れなさいな」
「うん、わかった······って、私はメイドじゃないよ!」
ワイのワイの騒ぐ悪の三姉妹を乗せて馬車はどんどん高度を上げる。
周囲の空の色が代わり始め、巨大な光の渦が頭上に現れる。天界へと繋がるゲートだ。
「わあっ?!何あれ?!」
「ちょ、ちょっと麗羅!あんな中に突っ込む気?」
「大丈夫だよ。あれは天界への入り口だから無害だよ。ちょっと怖いけどね」
「あれが無害なんて信じられないわねえ。まあ、私ら死んでるからどうなろうと関係ないけど」
私も最初見た時は驚いたなあ。あんな中に入って平気なのかって思ったよ。
やがて渦が近づいて、辺りが眩い光に包まれていく。
お疲れ様です。次話に続きます。




