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『えー。では次のニュースです。昨日、亡者の魂をマナ化して違法売買している魔族グループが摘発され、施設を法執行獄卒の部隊が制圧しました。この犯罪ルートは天界や複数の異界に繋がっていたと見られ、関係者によりますと──』
「麗羅ー。チャンネル変えてもいい?」
「うん。見てないから」
シャーリーがリモコンを手に取る。
朝。休憩室で書類に目を通しながらコーヒーを嗜むこの時間が私は案外好きだ。
ニュースをつけて片手にコーヒー、片手に書類なんて、キャリアウーマンそのものじゃないか。まあ、ニュースは見てないからただの演出だけど。
「あ、今週の地獄占いやってるわよ麗羅」
「本当?私の誕生月は何位?」
「まだ出てないわね。あ、でも後は90以下と10位以上だけみたいね」
「うわー、デッドオアアライブっ。10位以上でありますように~」
キャリアウーマンの休憩には息抜きも必要だ。
地獄見学から数日経った。
その後は普通に道徳の授業を行い、三人も特に変わりなく過ごしている。
まあ、出来れば変わって欲しいけど······。
『オーッホッホッホ!庶民は所詮捨て駒でしかないって事ねー!』
『今日の道徳の話もクソつまんないわね』
『なんであんたの選ぶ話って馬鹿しか居ないの?』
てな感じで更正への道は険しい。
「で?麗羅んとこの三悪女はどうなの?」
「相変わらず。反抗的、凶暴、そして邪悪」
「三拍子揃ってるわね。でも、この間の手伝いが慈善奉仕活動扱いになってあの三人の更正ポイント少し上がったんでしょ?」
「まあ、一応······」
極罰を亡者が肩代わりなんて言語道断の事件ではあったけど、獄卒の負担を減らした労働という事で、奉仕活動扱いにされたのだ。
つまり、三人は『良い事、道徳的な行いをした』とされ、評価された。
「最初見た時は焦ったよ。勝手に暴れてるのかと思ったからさ。でも、あの子らのあの虐めっぷり。獄卒が天職かも」
「誰にでも適材適所はあるものねえ」
「いっそ転生先が獄卒なんてのもアリかも」
「止めなさいよ、同僚に居たら困るわ」
休憩が終わり、私は事務所へと戻る事にした。
廊下を歩きながら、次の社会見学場所の資料を確認する。
「えーと。まずは案内係の人に会って、その後に見学して、最後に食事でも······うん?」
何気なく前の方を見たら、廊下の窓の外を眺めているリューゲ先輩の姿を見つけた。珍しくボーッとしていて、どこか顔色が優れない。
「リューゲ先輩?」
「ん?ああ、麗羅ちゃんか。お疲れ様」
「お疲れ様です」
声をかけると、いつもの優しい微笑みを傾けてくれた。でも、やっぱり落ち込んでる気がする。
「あの、リューゲ先輩。どうかしましたか?」
「え?どうかって?」
「その、なんか元気が無いような気がして······」
「あはは。参ったな。麗羅ちゃんは鋭いね。うん。実はね、仕事で失敗しちゃってさ」
「そうなんですか?」
リューゲ先輩が失敗なんて珍しい。いつも完璧に仕事をこなし、後輩達の目標みたいな理想の先輩なのに。
「でも、先輩の失敗なんて想像出来ません。私なんて何時もドジしたり失敗の連続ですけど、先輩はケアレスミス一つした所も見た事ありません」
「ははは、大げさだよ麗羅ちゃん。僕だって鬼の子。失敗なんてしょっちゅうしてるよ。あまり目立たないだけさ。それより、所長が麗羅ちゃんの事褒めてたよ」
「え?所長が?」
「うん。あの三人に慈善奉仕活動させるなんて並みの事じゃない。とても優れた指導だって」
「い、いや~。ほんとまぐれと言うか、たまたまと言うか、事故、怪我の功名と言いますか。あははは」
私は職務放棄して寝てただけですとは言えない!リューゲ先輩には特に!
「それにしても、例の三人が慈善奉仕活動をするとはね。うーん。想像出来ないなあ」
「ですよね。でも、偶然とは言え他人の役に立ってくれたのは事実なんです」
「そっか。うん、安心したよ。あんまり素行が悪いと僕が連れて行かなくちゃならないからね」
「······そうですね」
リューゲ先輩は、更正指導教官であると同時に法執行の獄卒でもある。
もし、この施設で悪罪人判定の出された罪人が出た場合は、リューゲ先輩含む法執行の獄卒が最終チェックをして、『改心更正の余地なし』と判断したら極罰エリア──つまり本物の地獄へ連れて行ってしまうのだ。
「おっと。もう時間か。じゃあ麗羅ちゃん。また後でね」
「あ、はい。先輩も頑張って下さい。その、ドンマイですよ。先輩なら大丈夫。私はそう信じてます」
リューゲ先輩は振り向いて、少し驚いたような顔をしたけど、すぐにニコっと笑った。
「ありがとう。その信頼には応えないとね」
歩き去っていくお背中をお見送りする。
「やっぱ、カッコいいな~」
「また呆けてるのか」
「わっひぃ?!こ、このタイミングで驚かすのはー!」
振り向くとやっぱり朧。
「もうっ!心臓止まったら朧のせいだからね!この鬼殺し!」
「お前みたいな図太い奴の心臓がそんな繊細な訳ないだろ」
「私のハートはセンチメンタルだよ!」
まったく。毎度毎度、どうしてこうリューゲ先輩と良い雰囲気のところで朧は来るんだろう?
「あっ!まさか私のストーカー?私が他の人と話してるのにジェラシー感じてつけ回してるの?!」
「馬鹿言うな」
「でも、いつもタイミングおんなじじゃん!」
「······お前じゃない。あっちだ。俺が追ってんのは」
「へ?」
あっちって······リューゲ先輩?
え?朧がリューゲ先輩を追いかけてる?
それって······。
「も、もしかして朧······」
「うん?」
「あ、あの。朧って、そっち?」
「は?そっち?」
「あ、い、いいの。別に。全然ダメなんかじゃないよ。だけど、その、なんて言うか······ほら、リューゲ先輩も朧も方向性違うけど美形じゃん?だから、色々とこう、ね、ゴニョゴニョ······」
「お前、何言ってんだ?」
「な、なんでも?じゃあ、私行くね。朧、その······頑張って!」
「は、はあ?!あっ。お前、変な勘違いしてんじゃ······あ、おい待てっ!」
そそくさと退散。これ以上は薔薇の花園。私はその咲き乱れる花弁を遠くから見守るだけさ。
お疲れ様です。次話に続きます。




