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まだ胸焼けするような気持ち悪さがあるけど、大分楽になった。ベンチ君ありがとう。
「う~。まだちょっと気持ち悪いけど、なんとか······」
まさか罪人より先に私が参る事になるとは。もしかして私ってザコ鬼なんじゃ?
と、とにかく。体調は回復したんだから、あの子達を探して合流しなきゃ。
流石に脱獄とかはしてないと思うけど、罪人から目を離すなんて私もどうかしてる。これで何か問題を起こしてたら監督不行き届きも良いところだ。我ながら能天気。
「おーい。みんなー。ヴィセー、ベーゼー、マールー、三人ともー。お待たせー。私は復活したよー。戻ってきてー!」
そこら辺に呼び掛けながら歩く。でも、三人の姿が一向に見当たらない。
全身からサーッと血の気が引く感覚がした。
「で、でも、ここは本物獄卒が集う監獄だし、逃げ出せる訳······」
『オーッホッホッホ!!』
「!!」
あの高飛車な高笑いは······!
私の体は自然に悪女笑いの聞こえた方向へと走り出していた。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
──タッタッタッタッ──
『オーッホッホッホ!さあっ、お鳴き!鳴きながら血を流すのよ!』
やがて、フェンスの向こう側。つまり、極罰場の針山の上に立つヴィセの姿が見えた。
なぜ、針山に?どうやって入った?
混乱する疑問は後!とにかくヴィセを呼び戻さなきゃ。
「はっ、はっ、はっ!はあっ、はあっ、ヴィセ、一体何をして·····でええぇ?!」
近くに行くと、もっとヤバい光景も見えた。
なんと、あろう事かヴィセが悪罪人の亡者を踏みつけにして針山にグリグリ押し付けているのだ。
それだけじゃない。手には本格仕様のトゲトゲ付き罰棍を握っており、それで周囲に串刺しにされてる亡者を打ち据えている。
──ボゴォッ、バゴオォンッ──
「ヒギャアアアアアッッ!!」
「ギョエエエエエエエッッ!!」
「オーッホッホッホッホッホ!!汚ない鳴き声ねえ!反吐が出るわ~」
──ズブズフズブズブ──
「アガアアアッガッ!ヤ、ヤメデ······」
「オーッホッホッホ!!」
「な······なっ············ななっ·········」
何やっとんじゃーっ!!?
「こ、こらーっ!ヴィセ?!何やってんの?!」
「あら?麗羅じゃない。体調は治ったのかしら?こんな所に来るとまた倒れるから戻った方が良くなくて?」
サディスティックな笑いを唇でたっぷり咥えながらヴィセが罰棍で亡者を叩く。
「アギャアアーッ!!」
「オーッホッホッホ!」
「ちょ、ちょちょちょっとヴィセ!何をしてるの?!止めなさい!今すぐ!」
「あら、なんの権限があって私に指図するのかしら?麗羅、口には気をつけなさいな」
教官の権限で指示してんじゃいっ!
「と、ともかく!話は後!すぐに下りてきなさい!」
「オホホ、嫌よ~」
ヴィセは一声笑うと、亡者の身体をスケボーの板みたく使って針山の向こうへと滑って行ってしまった。
「グギギャアアアアッッ!!!?」
スケボー板にされた亡者の断末魔と血しぶきを残して姿を消す。
「あっ!待ちなさいっ!」
このままじゃ大変だ!早くヴィセを捕まえて止めさせないと。
私はフェンスの獄卒用ドアを開けて極罰エリア内へと入った。
「ど、どこに?!ヴィセー!こらーっ!」
『ガアアアアアアアッ!!』
「?!あっちか!」
そう離れてない所から亡者の絶叫が聞こえた。きっと、そこにヴィセも居る。
そう思って走って行ってみると、そこは血の池だった。
「はあっ、はっ、血、血の池?」
「アハハハハハッ!!」
「!!」
この狂気に満ちた笑い声は!
「ベーゼ!!」
「アハハハッ!それっ、速く泳ぎな!」
「ガボボッボッ!ボガガッ!」
「グボボボッグボッ、ヒュギイイッ!」
なんという事でしょう。ベーゼが獄卒用の万年亀に乗って、亡者の首にかかった手綱を持って引っ張らせているではありませんか。
「アハハハッ!ほらっ!何溺れてんのよ。もっと刺激が欲しいみたいねえ?」
そう言いながら、雷石付き罰棍を水面につける。万年亀は絶縁性の皮膚持ちだからいいけど、泳いでる亡者は──
「アバボババババっ?!!」
「ビビビギィギャギャッ!!」
「グバボババババッ!??!」
電撃で痙攣し、水しぶきを上げながら溺れ始める。そこへ罰棍を振り下ろすベーゼ。
「ほらほらほらっ!泳ぎなあ!終わりなき地獄の中をねぇ!!」
「こらーっ!ベーゼまで!何しとんじゃーっ!」
「は?あ、なんだ麗羅か。あんた復活したんだ」
亀に乗ったまま、くつろぐように髪を指先でくるくるやりだすベーゼ。
「まだ休んでていいわよ。あたし、忙しいからさ」
「忙しいのは私じゃーいっ!いいから、こっちに来なさいっ!」
「チッ、馬鹿はうるさいわね。ほら、亀吉。行くわよ」
「あ、待ちなさい!」
──ザブザブザブ──
亀に乗ったまま向こう岸まで逃亡するベーゼ。
「まてーっ!待ちなさーいっ!」
なんてこった。ヴィセ、ベーゼの二人が勝手に亡者を虐めてる。
と言う事は、まさかマールも······。
「はっ、はっ、はっ。ど、どこに?」
「うぅ、ひもじい、ひもじい、く、食わせてくれ······」
「かわいそー。待っててね~、今すぐ助けてあげるから~」
「!?」
すぐ近くでマールの声が。すぐに行ってみる。
そこでは、救いのある光景が展開されていた。
「はい、あ~ん」
「あ~、んぐ。もぐもぐ······」
「美味しい~?」
そう、マールが飢餓刑を受けている罪人にご飯を食べさせているのだ。
本当は空腹状態にさせる刑だから、ご飯をあげるのは駄目なんだけど、なんと人間的で慈愛に満ちた光景だろう!
きっと、飢えて苦しんでる罪人を見て、可哀想になってしまって思わずやってしまったのだろう。マール。良い子だ。
「もぐもぐ······ゴクッ······ぐっ?!ボゲエエエエエエエッッ!ウボォウオオエエエエッ!!」
「イヒヒヒヒヒッ!!美味しかった~?あたしの特性毒薬ご飯は~?胃腸をめちゃめちゃにする劇薬なんだって~。これで胃の中がさらに空っぽだね~!」
鬼、悪魔!なんちゅう酷い事を!
よく見たら、他の犠牲者も地面でのたうち回ってる。
「こらーっ!マール~!なんて残酷な仕打ちしるんだ~、己は~!」
「あれ?麗羅?甦ったんだ?」
「勝手に殺さないでよ!いやっ、それより!今すぐ止めてこっちに来なさいっ!」
「や~だよ~!」
くるんっと逃げ出すマールを追いかける。
お疲れ様です。次話に続きます。




