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「はーい。みなさーん、出発しますよー」
今日は早速地獄見学だ。
専用のバス──と言うより、罪人の護送車に三人を乗せる。
「あらあら、無骨な馬車ね」
「なんかダサいわね」
「全然可愛いくなーい。ねえ、馬は?」
ドヤドヤとバスに乗り込む令嬢達。一応、これも更正指導の一貫なんだけど──
「オーッホッホッホ!よくは分からないけど、なんだか未來的な乗り物だわ~!」
「アハッ!イカすじゃん!ちょっと安っぽいけど斬新な内装ね」
「イヒヒヒッ、馬鹿みたいに椅子だらけ!でも面白ーい」
なんか盛り上がってる。
まあ、彼女らの文明レベルからするとバスと言う乗り物は未來的な文明の力だし、はしゃぐのも無理はない。
だけど修学旅行に行く訳じゃないんだから、もう少し弁えてほしいなあ。
「はいはい、静かに。気持ちは分かりますが、遊びに行く訳じゃないんだからもっと気を引き締めてください」
「ねー、麗羅ー、クッキーあげる。食べよ」
「えっ、いいの?ありがとうっ、ちょうどお腹が空いてた·······って、ちがーう!こらっ、オヤツは後、後!」
「麗羅、ドライフルーツは何が好み?」
「え?私はねー、クランベリーかなあ。あっ、くれるの?ありがとうッ。ちょうどお口が侘しかったとこ·········だからちがーう!」
「オホホホ、麗羅。張り切るのは良いけど、これは遊びじゃないのよ。静かになさいな」
「あ、ごめんごめん。そうだね──って。何で私が注意されなきゃいけないのっ」
初っぱなからいいように翻弄される私。いけない、いけない。獄卒の教官がこんなんじゃ様にならない。
付き添いの法執行の獄卒と打ち合わせをする。
「こんな感じで少し騒がしいのですが、よろしくお願いいたします」
「了解です。今日一日気を引き締めていきましょう」
かくしてバスが動き出す。
ただのバスじゃあ、ありません。もちろん、地獄用にチェーンナップされた特別仕様車です。
どんな悪路をも走行可能のタイヤに、ジェット機並みの出力も出せるエンジン、反重力装置搭載により空の飛行も可能。しかも、エネルギー消費によって排出される汚染物質は0!
要するに、すごく速くて、どんな所も走れて、空も飛べるクリーンなバス。
そして、何と言っても亡者を完全に封じ込める結界付き。
「あら、随分と陰気な風景ねえー」
「うっわ、ひっろ。荒野じゃん」
「凄いね~。地獄絵図ってやつかな?」
なんだかんだ言って、三人とも地獄の風景を楽しんでるみたいだし、今日は平和な日になりそう。
「ここで何人もの亡者が苦しめられてると思うと······紅茶が美味しいわ~!オーッホッホッホ!」
「アハハハッ!あたしも生まれ変わったら獄卒になりたいわ」
「イヒヒヒッ!悪趣味な世界!だけどあのクソ姉をここに落とせたら最高だろうにな~」
平和······平和············平和だなあー。
しばらく、何も無い荒野を走る。
一時間程した頃。ヴィセ達が外の風景に飽きだして騒ぎ始めたくらいでバスは目的地に到着した。
「はいはーい。皆さん降りてくださーい。目的地の極罰場に着きましたよー」
「オホホ、いかにもって所ね」
「へえー、良い趣味してんじゃん」
「まるで魔王の城だね~」
極罰場。それは悪罪人達を苦しめ、魂の奥底にまで後悔の念を植え付けるための場所。
三人が言う感想のように、その外観は荘厳だ。黒くそびえる奇っ怪な古城と言った感じで、三角屋根のてっぺんでは地獄烏が不気味に鳴いている。
まさに悪の居城。事実、ここは昔魔王の住んでいた城だった。でも、ローンが払えなくなって明け渡したと聞いてる。地獄の沙汰もお金次第である。
「はい、皆さん注目。ここは地獄のあちこちに点在する極罰場の一つです。極罰場とは罪人を痛めつけ、苦しませて罰を与える場所です。生前に罪を犯しながら、裁かれる事もなく反省する事もなかった人間が送られる最悪の場所です」
「へえ。例えばどんな輩が来る訳?」
「そうですね。例えば、快楽殺人鬼で捕まらずに天寿を全うした人間。例えば、独裁者。例えば、政治家などでしょうか」
「イヒヒ、なんか微妙に生々しいね」
「笑い事ではありませんよ。そんな連中が安寧な人生を全うしてハイ終わりでは、あまりにも善人が報われません。ですので、死後は重い罰が待っているのです」
私は手帳を開いてスケジュールを確認した。
「それでは、まずはここの所長にご挨拶して、それから見学に移りましょう。少々残酷で辛い場面を目撃する事になりますが、これも更正指導の一貫なので頑張りましょう」
あまりやる気の無さそうな三人を引き連れて所長室に行く。
──コンコンコン──
「失礼します。更正所から参った者です」
『入りたまえ』
中に入ると、体のガッシリした所長が待っていた。
「初めまして。更正指導教官の崩落麗羅です。本日は指導の一貫でこちらの刑場の見学をさせてもらいたく、参りました」
「ああ、話は聞いてるよ。極刑エリアの獄卒達にも連絡済みだ。好きに回るといい」
「ありがとうございます」
「その前に。念のために言っておくが、ここに居るのはみんな法執行の獄卒だ。つまり、必要であると判断したら上限なく権限を執行する。それだけは覚えておいてくれ」
「は、はい。肝に命じます」
ぼかした言い方だけど、脅しに近い注意をされてしまった。
あらかじめ送っておいた三人の資料と、更正所での事件の報告書を見ての発言だろう。
所長室から出ると、三姉妹がニヤニヤと笑っていた。
「釘を刺されたわねえ」
「ビビってたわね、あいつ」
「うふふ~。あたしら有名じゃん」
「こらっ。ニヤつかないの。睨まれてるんだから、粗相はしちゃいけないよ」
こうして、ハラハラの見学が始まった。
お疲れ様です。次話に続きます。




