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「よし。こっちの教科書のこのページと、あと近い内に地獄見学と天国見学したいから、関係各所への連絡確認をと······」




 一日置いて。


 私は今日もモリモリ働いている。



 昨日は所長室から出た後、シャーリーと一緒に休憩しながら自分の気持ちを整理した。


 私の結論は、まだ更正指導を続けるという事で落ち着いた。



 確かに周りが言うように、少し楽観的過ぎるかもしれないけど、覚悟はちゃんとしたもののつもりだ。



 昨日はあの悪の三姉妹は寝てるままだったみたいだから休ませる事にしたけど、今朝、医務担当から連絡があり、もう十分に回復したとの事。

 早い回復に担当者が驚いていた。




「さて。事務作業終わり。あとは授業だ」


 必要な教材を持って教室へと向かう。



「······」


 昨日はシャーリーの前で大層な事言っちゃったけど······。


 本当に、あの子達の人間不信を払拭してあげられるかな。


「と言うか、私そもそも人間じゃないじゃん」


「人間だったら大怪我して、今頃ここには居ないだろ」


「あ」



 廊下でぱったり朧に会った。


「朧······」

「······なんだよ」


 なんかちょっと気まずい。喧嘩した訳じゃないけど、私が甘かったばかりに彼にも迷惑かけちゃった訳だし。


 ともかく、お礼は言っとかないと。


「えっと······朧、昨日はありがとう」

「······礼はいいから、もっと自分で自衛するようにしろ。何時でも助けてやれる訳じゃない。昨日は嫌な予感がして行ってみたら、ああなってたんだ」

「そうだったんだ」



 朧も罪人の事は信じてないみたい。


「そんな事より。お前も、所長もどうかしてる。二度も暴行事件を起こして、さらには脱獄まで図った奴らをまだ更正させようとしたり、それを許可したり。俺には理解出来ない」

「だよね。それはそうだよね」

「分かってんなら考え直せ」

「うーん。ごめんっ、朧。それは出来ない」

「はあ?」


 朧。私には私なりの覚悟と根性があるんだ。


「朧、私は私のやり方で最後までやってみるよ。あの三人が、悪罪人の烙印を押される時が私が諦める時。それ以外はノーダメージさ」

「いや、お前何言ってんだ?」

「言ったまんまだよ。所長や、閻魔司法所からお達しが来ない限りは、あの三人に指導し続ける。もう頭お花畑でも能天気でもいい。どんと来い、怖い物なんてゴキブリくらいだっ」

「············」


 私の幼馴染みは、ポカンと固まっていたが、すぐに怒った顔になった。


「お前なあ、ふざけてる場合じゃ──」

「ふざけてなんかないよ」

「なに?」

「私なりの覚悟。それを持って臨むつもり。だからさ、見ててよ。私は······居なくなったりしないよ。ちゃんとここに居るから」

「·········所長から、何か聞いたのか?」

「うん······少しね」

「そうか」


 朧は静かな目で私を見下ろしていたけど、今度は悪態を吐く事もなく、踵を返した。



「俺はあの三人を信じられない。だから、お前が何と言おうとあいつらにはさっさと悪罪人になって本当の地獄に落ちて欲しい。だから──」


 そして振り向いて、強い光を宿した瞳で私を見た。


「俺は俺であいつらをマークする。何か不審な点があったら即実力行使するし、所長や司法所に直談判する。覚えておけ」

「······」



 去っていく朧の背中は、何故か寂しそうに見えた。


「ごめんね、朧······」


 貴方が間違ってる訳じゃない。だから、これは私の我が儘。



 朧にも、罪人を信じて欲しい。








 教室の前に着いたところで不思議な緊張感が私を包んでいた。


「ふぅ~······はぁー······」


 昔読んだ人間界の漫画とかにもこういうのあったなあ。転校生?とかいうのが教室に入る瞬間。


 私は毎回毎回、転校生だ。



「············ふうっ」



 ──ガラガラガラ──



「おはよーございます」



 教室に入る。

 三人はちゃんと席に着いていた。


 その姿を見て、何故かほっとする自分がいる。



「さあ、今日は初めに説教からです。三人とも、分かってるよね?昨日はよくも私を縛り上げてくれたね。今後あんな事したら、ティータイムも道徳の授業にしちゃうからね!」



 言わなきゃいけない事は言いつつも、あまり深刻にならないように絶妙な説教をしたつもり。

 果たして、三人の反応はいかに?



「ふぅん」

「あっそ」

「へーへー」



 なんか物凄くやさぐれたリアクションをされた。

 みんな頬杖ついて、別の方向を向いてブスッと不貞腐れた顔をしている。



「ちょいちょーいっ!なんで貴女達が怒ってんの!怒りたいのは私なんだからね!」


 もうっ。なんで怒ってんの。逆ギレとかいうやつなのか?



 そんな私の怒りをよそに、ヴィセが面倒くさそうにこっちを見て言った。


「説教なら止めてくださる?私達、昨日は散々な目に遇ってよ?それも、貴女の同僚のせいで」

「いや、自業自得でしょっ!ま、まあ。確かに少し過激だったかもしんないけど」

「ともかく。うるさい話は聞きたくないわ。ほら、早く指導でも始めなさいよ麗羅」

「もう、ほんと横柄というか、傲慢なんだから。もうちょっと反省······ん?」


 あれ?今、私の事おぼこじゃなくて麗羅って······。


「あ、あれ?」

「何マヌケな面してんの」


 ベーゼが睨んできた。


「さっさとしなさいよ。あんた、あたしらの担当なんでしょ麗羅」

「え?う、うん」

「まあ、もっとも~」


 マールがツンツンした感じで口を尖らせる。


「まだ認めた訳じゃないけどね~。だから、これからあたし達が試してあげるよ。口先だけだったら大変な目に遇うよ麗羅」

「·········」



 何だろう、この違和感は。


 どうしていきなり名前呼びに?



 もしかして──



「もしかして、みんな──」

『·········』

「やっと、私の名前覚えてくれたんだね?!」

『は?』

「いやー!良かった、良かった!このまま覚えてもらえなかったらどうしようかと思ってたんだ。記憶力を鍛える授業とかやろうかとか考えてたからさー。うんうん、これで更正指導に集中出来るね!そうだよねえ、私の名前、可愛いでしょ~。同僚にはカッコいいとかって言われるんだけどね、可愛いよね!」

『······』


 おや?三人がすっごい苦い顔してるぞ?



「やっぱりおぼこの方が良いかしら」

「タワシに戻すか」

「花畑が一番だったね」


「なんでよっ!」




 何はともあれ、これも一歩前進だろう。



 頑張るぞ。


お疲れ様です。次話に続きます。

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