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三人の悪役令嬢達は聞き耳を立てていた。
「見捨てられないって。あの悪女達を?」
「うん」
シャーリーの言葉に麗羅は頷いた。
「なんか、上手く言えないんだけどさ。あの子達、本当は悪い人じゃない気がするんだ」
「はあっ?!」
この言葉には流石の三悪女も、シャーリーと同じ声を上げそうになった。
いくらなんでも、頭が花畑どころの話じゃない。あれだけの暴力や裏切り行為をされてるのにも関わらず、今のような発言が出るなど、どうかしている。
それでも、ヴィセ達は麗羅の言葉の続きを待たずにはいられなかった。
「上手くは言えないんだけど······なんて言うのかなあ。確かにあの三人は悪人だとは思う。性格だって悪いし、摩れてるし、生意気だし、令嬢と呼ぶには気品無いし」
物陰の三人は殴り掛かりたくなる気持ちをなんとか静めた。
「でもね。なんか憎めないんだよね」
『·········』
「いや、もちろん私だって毎度苛つかせられるし、怒ったりはするけど、不思議と心の底から憎くはならないんだ。どうしてかは自分でも分かんないけど」
麗羅は自嘲気味に笑った。
「あはは。みんなが言うように私って能天気なのかも」
──その通りだ──
と、三悪女が心の中で悪態を吐く。
麗羅の話は続いた。
「だけど。それだけじゃない。私が能天気かどうかは置いといて、もっと客観的で大事な事実もあると思うの。それは、あの三人は確かに閻魔様の裁判を受けて、その結果悲罪人という判決を受けた。つまりさ······可哀想な所もあると思うの。本人達だけが悪いんじゃなくてさ」
『··········』
「誰だって、生まれてきた時は穢れも罪もない。でも、成長していく過程で色んな嫌な事とか悲しい事があって、そのせいで歪められちゃったりする。決して本人達だって『悪女』なんて呼ばれたかった訳じゃないと思うの。好き好んで嫌われたくなんかないはず」
麗羅は悲しげに目を伏せた。
「だから、あの子達もそう。最初から嫌われるために生まれた訳じゃない。なりたくて悪女になった訳でもないし、嫌われて憎まれたまま死にたかった訳じゃない。本当はただ単に幸せになりたいだけだったんだと思うの」
「······でも」
シャーリーは迷うように言った。
「もうあんなに凶悪になっちゃったのよ?あれを今さら更正させるなんて無理じゃない?」
「難しいかもしれない」
でも──と麗羅は言った。
「私はまだ頑張ってみようと思う。本当に更正出来るかは分かんないけど······せめて、あの三人に知って欲しい事があるんだ」
「知って欲しい事?」
「うん」
屈託のない笑みで頷く麗羅。
「人を『信じる』って凄く素敵な事だって。ずっと信じられない事ばかりだったあの子達に、その素敵な事を知って欲しい。きっと、信じたくなかったんじゃなくて、信じたくても、信じる事が出来ずに死んじゃったと思うから」
そんな言葉に、同僚であり友人でもあるシャーリーはポカンと口を開けていたが、すぐにプッと吹き出した。
「ふふふ、麗羅。あんた、言ってる事が冥徒とかけ離れてるわよ。まるで天使の言い分みたい」
「え?そう?」
「生まれる場所を間違えたわね」
「そうかなぁ」
「あんたには天界の花畑が似合うわよ」
「あー!シャーリーまでマールみたいな事言うっ!もうっ!」
賑やかな声を受けながら、陰に隠れていた背中が三つ、元来た道を戻って行った。
数分後。
「しまった、部屋の鍵を掛けるのを忘れてた。万が一という事もある。あの三人の悪女達は動けないとは思うが······」
留守にしていた医務担当の獄卒は医務室に帰ってくると、慌ててベッドの方を確認した。
ベッドの上ではヴィセ、ベーゼ、マールの三人が変わりなく静かに寝ていた。
「ホッ。流石に平気だったか。さてさて、あれ?机が散らかってるような?気のせいか」
机の上に出ていたハサミやメスをしまいながら、何時もの自分の仕事に戻るのだった。
お疲れ様です。次話に続きます。




