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 医務室のベッドに横たわる三人の令嬢。即ち、ヴィセ、ベーゼ、マールらは固く目を閉じたまま動かない。


「かなりダメージを受けたみたいだな。当分起きる事は出来ないだろうな」



 担当医務の獄卒はそう呟いて、雑誌を開きかけた。そこへ呼び出しのベルが鳴り、舌打ちした。


「また怪我人か。今度はどこだ?げ、第20棟か。遠いな。はぁ~、今日はおやつは抜きだな」


 離れた地点からの要請に、仕方なく出ていく獄卒。部屋には眠っている三悪女だけが残された。



『············』


 いや、眠ってなどいなかった。


 ヴィセ、ベーゼ、マールの三人はほぼ同時に目を開けると、首だけ動かして周囲を見た。誰も居ない事を確認する。



「甘いわねえ。他に誰も居ないなんて」

「あたしらの事舐めてんのかしら?」

「あるいは皆能天気なのかもね」


 悪の三令嬢は静かに起き上がると、一様に顔をしかめた。


「痛むわねえ。あの獄卒はいつか必ず地獄に落としてやらなきゃなんないわね」

「ここは地獄だけどね」

「ともかく、いつか礼はしないとね」


 朧への復讐を誓いつつも、ベッドから降りる三人。

 普通の亡者なら、しばらく動けないくらいに罰棍によるダメージを受けたはずの三人であったが、痛みがあるだけで動けた。

 亡者の強さはその魂の強さによって決まる。それは負のエネルギーであってもだ。



「さて。チャンスね。どうやって逃げようかしら?」

「廊下には誰も居ないみたいよ」

「あ、見てみて。壁に図面みたいのがある」


 マールの発見したのは避難経路等を記した館内マップであった。


 三人はその経路図を見ておおよその位置を把握した。



「あら、ここの玄関が近いわ。下に行って右ね」

「ふん。早く行くわよ」

「何か武器ないかなー。あ、ハサミとかあったよ」

「オホホ、お手柄ね。他にも使えそうな物を見繕いましょうか」



 結果、ハサミやメスなどの刃物や文鎮などの鈍器で武装した悪役令嬢らが完成し、スパイのように迅速に静かに行動を開始した。


 悪運が強いのだろう。たまたま獄卒が少ない日と時間であり、三人はスムーズに脱出経路を進んだ。



「この先が玄関だったね」


 三人のゴールは目前だった。


 しかし──



『ええっ?!アンタまだやるつもりなの?!』


『!!』


 突如響いた声に、三人の令嬢はサッと壁に身を隠した。廊下の途中が凹んだ形でスペースになっており、そこから聞こえる声のようであった。

 陰からそっと覗いてみると、そこは休憩スペースになっており、二人の獄卒が話しているのが見えた。横顔が見える。



「······あら」

「ちっ」

「あ」


 その会話している獄卒の一人は、三人のよく知る人物であった。そう、担当の麗羅だ。


 ベンチに座り、同僚のシャーリーと共に缶ジュースを飲んでいる。



 ヴィセ達はそっと声を潜ませて話しあった。


「どうしようかしら?」

「この前を通んないと玄関に行けないわよ」

「うーん。二人だし、女だし、このまま殺れないかな?」


 しかし、麗羅の腰には罰棍がある。それが朧の使っていた物と似たデザインなのを見て、三人はすぐに同様の物だと理解した。


「あの武器は厄介ねぇ······」

「ちっ、あいつも持ってたのよね」

「でもさ、あれ奪えたらこの後有利じゃない?」


 罰棍は罪人──亡者にしか効果を発揮しない。つまり、亡者である三悪女が獄卒に使ったところで効果は無い。ただの杖と同じかそれ以下である。


 そんな事を知らない三人は、その罰棍を強力な武器か何かと勘違いしていた。



「確かにあの棍棒の威力は体験済みだわ。魅力的なのは間違いないわね」

「二人だし、油断してるわ。今なら殺れる。それに、あっちの馬鹿(麗羅)は多分戦力にならないだろうし」

「そうだね。多分なんとかなるよ」

「決まりね。じゃあ、私の合図でかかるわよ」



 三人はそっと麗羅達の様子を伺った。

 二人の会話が令嬢達の元へも届く。




「あのさあ、麗羅。あんまし朧みたいな事は言いたくないんだけどさ、あんたちょっと甘すぎるんじゃない?」

「やっぱりそうかなあ」

「だって、あんたがあの三人に暴力振るわれたのってこれで二度目でしょ?普通一回で即アウトの行為なのに、それを二回もやられてまだ更正させようだなんて······」

「うん。でも、ほら。今回は怪我してないし。あの子らも手加減してくれたから」

「そういう問題じゃないでしょ。脱獄されかけたんだから」




 麗羅の呑気な言葉を聞いて、三人の令嬢は内心大きく舌打ちした。

 聞いていると腹が立ってくるのだ。自分達がやった事ではあるが、あそこまでされてまだ甘い事を言う麗羅に苛立ちを感じていた。


 どこまで能天気なのだ。

 どれだけ馬鹿なんだ。

 どうしたらそこまで甘くなれるのだ。



「麗羅さ。悪い事は言わないよ。所長に言ってさ、三人とも悪罪人にしてもらいなよ。じゃなきゃ、あんたの身が持たないって」

「うーん······」


 何か悩むように考え込む麗羅の姿を見て、令嬢達は目配せした。


 ──今なら二人とも油断している──


 ハサミやメスの刃が白い光を瞬かせた。



『·········』


 そして、三人が飛び込もうとした時だった。



「でも、私はあの子達を見捨てられないんだよね」



 という麗羅の声がした。



 ヴィセも、ベーゼも、マールも。

 誰ともなく、その場で止まった。


お疲れ様です。次話に続きます。

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