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「こ、このお~っ!」


 怒りを押さえろ私!亡者に挑発されたくらいでカッとなってはいけない。


「うぅ、くっ······ふぅー······」


 よし、何とか鎮まった。偉いぞ私。


 それにしてもこの三人の態度は腹が立つ。




 教官である私を馬鹿にするようにニヤニヤ笑ったり、見下して睨んできたり、てんで話を聞いてなかったり。


 こんなに細かく黒板に分かりやすく書いてるのに!ここに落とされた亡者(あんたら)が何をすればより良い人生に生まれ変われるか教えてるのにっ!


 それなのに彼女らの態度は全くと言っていいほどに尊敬の念の欠片さえない。

 私の深夜の教材研究は、鼻先の嘲笑に吹き飛ばされた。



「······えー。すぐには受け入れられないかもしれません。ですが信じましょう。ここは地獄ですが、罪人である貴女達を苦しめるのが目的ではありません。救済し、罪を悔い改めさせて次の輪廻転生に送り出してあげるのが目的です。なので、はい。ちゃんと話聞いて」


「オーッホッホッ!あなたみたいなおぼこ娘の戯れ言に貸す耳なんて持ってないわ~!」

「ああっ、イライラするわね!黙りなさい!この小娘庶民!」

「あ~たま、お~はなば~たけっ!きゃはっ!」


 おぼこくないもん。友達の鬼から垢抜けたねとか色っぽくなったねとか言われるもん。

 庶民とかそういう身分ないもん。私は一般的な鬼だし、獄卒としてちゃんとした身分だもん。

 お花畑は地獄(ここ)には無いもん。天国(うえ)に行ってこいもん。



「はぁ~~······」


「ああ、喉が乾いたわ。誰か紅茶淹れなさい」

「ねえ!ここ虫がいるわ!ここのメイドはロクに掃除も出来ないの?!」

「お腹空いた~、ねー、早く用意してー。用意しないとー、クビにしちゃうよ~?」



 また我が儘言い出す三人の悪女──いや、悪役令嬢達。現世で散々に悪さして、悲惨な最期を迎えたと言うのに、まるで反省の欠片もない。


 こんな問題児達を果たして更正出来るのだろうか?



 もう、家に帰りたい······。









 いきなりごめんなさい。何の話か分かりませんよね。


 まず、ここは地獄です。そう、あの地獄です。比喩とかそういうのではなくて、実在する世界、土地の名前としての地獄です。


 地獄がどういう所か。おおよそは皆さんご存知の通りの場所です。

 罪を犯した人間の魂が、その罪を償うために責め苦を受ける為の場所となっていて、様々な苦難が用意されています。


 そんな地獄には元々の住人が居ます。人間さん的に言えば悪魔とか鬼とか色々あるだろうけど、まあそんな感じの人ならざる住人が居ります。


 そんな私達鬼ですが、役割があります。そう、罪人の魂を徹底的に痛めつけて苦しませるという役割が。


 全員が全員そういう仕事をしてる訳ではありませんが、罪人を苦しませる鬼──獄卒はかなり一般的な職業です。人間界で言うところのサラリーマンです。



 私もそんな獄卒の一人です。この間始めたばかりのホヤホヤ新人です。私はこの『浄化更正転生免許取得教習所』(長い!覚えなくていいです)というカチカチに堅苦しい名前の場所で指導員もとい、教官をやっています。


 獄卒ではあるんですが私は一般獄卒とは違い、更正指導教官という仕事をしています。簡単に言えば、罪人の亡者を苦しめるのではなく、更正させて清らかな魂にしてあげる役人です。



 教官には何人かの担当罪人が割り当てられるのですが、私には何故かヤバめな三人がふられてしまい──





「ねえっ、私の話聞いて!聞きなさい!」


「ホーッホッホッ!黙りなさいな!」

「耳障りよ!この貧民!」

「ば~か!」



 私の担当する三人。それは生前、悪役令嬢と呼ばれた悪名高き悪女達だ。



「オーホッホッ!無様だわ~!!」


 ヴィセ・フロワイド。元侯爵令嬢。


 とある世界の貴族令嬢として誕生。その性格は残忍冷酷。弱い立場や身分の下の人を虐めては自尊心を満たすような人間。

 何人もの人を不幸にしたが、婚約者に婚約破棄され、諸々の罪状で断罪。二十歳という若さで死刑となる。




「あ~!もうあたしがなんでこんな所居なくちゃいけないの!?むかつく~!」


 ベーゼ・グラオウザム。元伯爵令嬢。


 ヴィセとはまた違う世界の貴族令嬢。非常に短気で凶暴。魔力が高かった事もあり、力によって他人をねじ伏せて従えていた。

 多くの人間を抑圧していたが、やがて起こった革命により捕らえられ、そのまま処刑。十八歳で死亡。




「あ~あ~。ここつまんな~い。ねえ~、あたしを生き返らせてよ~。そしたらメイドとして雇ってあげるよ?」


 マール・アレグレー。元伯爵令嬢。


 他の二人とは違う世界の貴族令嬢。普段はニコニコと愛らしい笑顔の少女だが、その内面は陰湿で意地悪。

 令嬢であると同時に聖女でもあったそうだが、それは本物の聖女の手柄を横取りしていたから名乗れていただけらしい。その事実が発覚し島流しの刑。そして道中反感を持っていた団体に襲われ磔にされてお亡くなり。十四歳、最年少。



 と。私は改めて手元の資料でこの三人のプロフィールを読んだ。

  そして愕然とした。



 ロクでもない奴しか居ないーっ!


 三人が三人とも筋金入りの悪女じゃないか。そりゃ地獄に落ちまっせ。


「オーッホッホッホ!この世で一番美しいのは私よー!いや、あの世でも私よー!」

「はあ?!あんたみたいのがあ?!あたしに決まってんでしょうが!」

「うるさいんですけど~!あたしが一番かわいいも~ん!」


「はぁ~······」


 でも、本当の地獄に居るのは私だ。こんな悪役令嬢達を清く正しい乙女に更正させなくちゃいけないんだから。



 私こと、新米獄卒『麗羅(れいら)』の熱血教官物語が今始まるっ!


 ·············いや、早く終わって!




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