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第一回、悪役令嬢倫理観テスト(模擬)の採点結果発表ー!さあ、ドキドキの集計が今終わって、いよいよ私からの宣告だ!
さあ、みんな何点かなー?気になる結果はー?いってみよー!
「まずはヴィセ。0点!」
「オーッホッホッホ!」
「次にベーゼ。0点!」
「アハハハッ!」
「最後にマール。0点!」
「イヒヒヒッ!」
「全員0点っ、落第っ、不合格っ、トリプルパーフェクトパンパカパーンッ!なんでよーっ!?」
0点っておかしくない?私の採点の仕方が悪かったのかな?
いやっ、違う!採点は完璧だった!むしろ甘めに点数付けてあげて自信をつけてあげようと思ってたくらいだ。
だけど全員0点だ。むしろ、個人的につけといた集計点数からすると、全員マイナス100点近い。
「こらーっ!三人ともーっ!少しは真面目にやりなさーいっ!」
「あら、真面目にやったわよ?」
「言いがかり止めてくんない?」
「ちゃんとやったけどー?」
むしろふざけてて欲しかったよ、この点数は。
「0点なんて本番で取ったあかつきには悪罪人にされちゃうかもしんないからねっ!そうなったら本物の地獄だよ?」
「あら、その前に出てくから問題ないわ」
「出てけないってのっ!良い点数取らないと出てけないのっ!」
「なら、どうにかしなよタワシ」
「そのために授業してんでしょっ!あと、タワシは私じゃないっ!違った、私はタワシじゃないっ!」
もう、この悪女ども~。人の気も知らないで~!
「ねー、でもさー、こんなテストなんて良い点取って意味あんの?模範回答とか覚えればいくらでもパス出来るんじゃない?」
「む、マールは鋭いね。でも、ご安心を。本番のテストでは特別な獄卒が立ち会うからね。相手が嘘ついてるか全部見通すサトリの目を持ってるから誤魔化せません」
「ふーん。それ、言っていいの?」
「あ······い、今のは忘れなさい」
これは罪人には秘密だった。情報漏洩だ。
「コホン。それはともかくとして。皆の現段階での倫理観はよーく分かりました」
食らえ、私のジト目ビーム。
「ハッキリ言って壊滅的。これでは更正の余地無しと判断されてもおかしくありません。試験の日はこちら側である程度決められるので、しばらくは指導に専念してテストの点数は意識せずに道徳観を鍛えます」
「そんなに酷いのかしら?」
「あたしらって普通よね?」
「常識って意味分かんなーい」
「それにっ!問題を真面目に聞いて答えてる?例えばさっきのトロッコ問題とかだって、答え適当なんじゃないの?」
そう言うと三人が薄く笑った。冷笑というのがこれほど似合う人間も居ないだろうと思うほど、それは冷たく嘲笑ってた。
「適当ではないわ。ただ、私は自分に損得関係ない物事には干渉しないの」
「あたしも同じく。別に殺人が趣味な訳じゃないから何人死のうが興味ない」
「あたしもー。線路の上に居るのが姉とか、親とかだったら話は変わるけど」
「なにそれ······」
あまりにも冷たい答えだ。どっちかを見捨ててしまうという倫理観は皆無。ただ単に自分には関係ないという考え方。
「それはちょっと冷酷すぎやしない?もうちょっとさ、こう、人間らしい考え方ないの?」
「オホホ、私達は冷酷で名の通った令嬢よ?」
それはそうだ。
「大体、タワシ、あんたって人間じゃないのに人間どーのこーの語る資格あんの?」
「鬼に人間らしさを説かれるのが良くないのっ」
「イヒヒ、本当に頭花畑だね」
ぬぐぐ、間違いの無い問題のはずなのに、こやつらは間違ってる気がする。人として。
「いいですか?この問題は確かに正解はありません。でも、大事なのは考え、倫理観です。何もしなければ五人が死んでしまうけど、それは自分のせいにはならない。逆に、五人を助けるために一人を殺してしまって良いのか?というのを考えるのです」
そう言うと、ヴィセが更に冷たく笑った。
「あら。ならもう答えは出てるじゃない」
ベーゼとマールも冷たい目。
「おぼこ、貴女に問題よ。トロッコのそのお話そのまま。でも、登場人物を変えましょう」
「え?登場人物?」
「ええ。片方のレールには善良とされる市民が五人。もう片方には悪女と呼ばれる令嬢が一人。さあ、貴女はどうする?」
「······」
『もう答えは出てるじゃない』
「で、でも!悪女の場合は放っておくともっと多くの犠牲が出るから·······」
「そうよねえ。なら、片方のレールには百人の善良な市民が居た訳ね。で、もう片方には悪女が一人。命は平等じゃないわ~。これなら迷う人間は居ないでしょう?あら、おぼこ。そんな顔をするもんじゃないわ。貴女は常識的よ?その結果がここにあるじゃない」
「······」
トロッコ問題と三人の令嬢の問題はまた別物だ。
だけど、この子らにとっては、ある意味答えは既に出た問題だろう。
他の人達が、自分達を守るためにこの三人は命を落としたんだから。
「······今日の授業はここまでにしましょう。三人ともお疲れ様」
「オホホ」
「は~、ダルかった」
「お腹空いた~」
「······」
答えはともかくとして。
この子達はこの子達なりに自分の経験とかで答えを出していた。
「······三人とも」
「あら?」
「うん?」
「なに?」
「ちゃんと考えて答えていたんだね。疑ったりしてごめんなさい」
いくら性悪とは言え、最初から疑ってかかるのは良くなかった。これは謝らないと。
「倫理観はともかくとして、貴女達が考え無しに答えていた訳じゃないのは分かりました。ちゃんと私の話は聞いていたんだもんね。その調子でこれからも頑張りましょう」
『·············』
おや、なんかみんな呆けた顔してるぞ?
私が素直に謝るとは思わなかったのかもしれない。教官なんだから威厳があるように見えてるのだろう。
「それでは解散。外に守衛さんが居るから指示に従って帰るように」
今日は少し疲れたなあ。悶々とする考えも私の中で渦巻いてるし。
よし、とっておいたケーキ食べよっ。
お疲れ様です。次話に続きます。