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 分かってはいた。いたよ。こんな感じだろうな~とか思ってはいたよ。


 でも、こんなに酷かったとは······。




「えー、では次の質問です。お年寄りが重い荷物を運んで階段を登っています。さて、どうしますか?」


「さっきも言ったでしょ?関係ないから無視よ」

「無視」

「しーらない」


「······」


 これは模擬テストだ。現段階の倫理感、道徳心ポイントを評価している。


 問題集にある質問の殆どが、『目の前に困ってる人が居ます。貴女なら助ける事が出来ます。さあ、どうする?』と言った物。

 その質問に対して、どんな答えを出すかという質疑応答形式のテストなのだ。


 私だって新米とは言え教官の端くれだ。この正解が存在しない質問の答えに点数をつける作業くらい出来る。ちゃんとした点数をつけてあげられるハズだ。



 でも、おかしいなあー。三人の点数がさっきから一向に増えないぞー?むしろ評価するならマイナス50点くらいだぞー?


 ほとんどの質問に対しての答えが『無視』『放っておく』『可哀想とは思わない』といったものなのだ。



 そりゃあ、人間だって自分の人生だけで精一杯だろうし、何も正義のスーパーヒーローみたく助けてあげてとは言わないよ。


 関わる勇気が無くて助けてあげられないとかだって加点にはならずともマイナスにはしない。



 ところが、この悪女どもと来たら──



「次の問題です。貴女は木こりです。ある日、仕事中に大事な斧を泉に落としてしまいました。それが無いと仕事が出来ません。さあ、どうしますか?」


「メイドに拾わせようかしら。その後は代わりに木でも切らせるわ~」

「なんであたしが木なんか切らなきゃいけないのよ。やる訳ないじゃん」


 そもそも、この模擬テストの趣旨を分かってない気がする。欲しいのは正解じゃなくて、どれだけ誠実で真面目に考えるかという姿勢なのだ。


「うふふ、二人とも馬鹿だね~。この質問はね、自分でどう解決するかっていう話なんだよ。あたしだったらベストアンサー出せるよ」


 おっと!マールは良い子だ。ちゃんと私の望む答えを出そうとしている。


「はい、マールさん。答えをどうぞ」

「あたしだったら~······そこら辺の同業者から盗む。そしてらあたしの問題は解決だし、商売敵が減るでしょ?」


 期待した私の大馬鹿獄卒!

 おそらく、考えられる答えの中で最悪に近い答えだ。


「へ~、あんた頭良いわね」

「オホホ、少し庶民的な発想だけど、問題の趣旨には沿ってるわねえ」

「えっへん!」


 頭より心を良くして、趣旨に沿うより他人の心に寄り添って欲しいよ。


「はあ~······。続けての問題です。斧が落ちた泉から女神様が現れました。女神様は片方の手に黄金の斧を、もう片方の手に貴女が落とした斧を持っており、貴女にこう問い掛けました。『貴女が落としたのはこの金の斧?それともこっちの普通の斧?』。さて、何と答えますか?まずはヴィセさん」

「斧なんか要らないから引っ込みなさいって言うわね~」


 女神様かわいそう。


「えー、ではベーゼさん」

「とりあえず、どっちかの斧奪って殺ってから二つとも貰おうかな」


 森の泉があっという間に血の池だ。


「マールさん、どうぞ」

「あたしだったらね~、落としたのはダイヤで出来た斧だって答える~」


 それはちょっと欲しいかもしんない。


 やっぱりというか三者三様ながらも駄目過ぎる回答だった。

 次で最後の問題にしとこう。


「············では、次の質問です。少し複雑で哲学的な質問になるのでよく聞いて下さい。最後の問題とします」


「あら」

「盛り上がってきたわねえ」

「有終の美だね」


「では、いきます。ここにトロッコとレールがあります。トロッコが故障してブレーキが効かなくなり、猛スピードで走行しています。レールの前方には作業中の作業員が五人居り、このままではぶつかって全員死んでしまいます。しかし、貴女はたまたまポイントを切り替えられるレバーの前に立っていたので、そのレバーを操作すれば五人を助けられます」


「トロッコってあれよねえ。労働者が乗るガラクタの箱よねえ」

「ああ、底辺人間が詰められるあれね」

「見た事ないけど、要は走るゴミ箱でしょ?」


 問題半ばにして、答えを聞くまでもなくマイナス点数なんだけど続けよう。


「えー、続けます。しかし、ポイントを切り替えてしまった場合、変更された路線の上にも一人の作業員が居り、トロッコに轢かれて死んでしまいます。つまり、貴女には二つの選択が迫られる訳です」


 意外にも三人はちゃんと真面目に問題を聞いていた。このまま続ける。


「五人を助けるために一人を犠牲にするか、それとも一人を死なせたくないから五人を見殺しにするか。さあ、貴女ならどうしますか?ちなみに、トロッコを止めるという手段は存在しないとし、法的に裁かれる事もないとします」


 これはかなり倫理観や道徳観に訴える問題だ。そして、確かな正解はない。

 つまり、どっちの答えを選ぼうとも、その選んだ理由と思考回路が重要となる。


 果たして三人の答えは如何に。



「では、まずはヴィセさん」

「何もしないわ。レバーには触れないわ~」

「なるほど」


 次に──


「ベーゼさんは?」

「何もしない。放っておく」

「分かりました」


 最後。


「マールさんは?」

「何もしなーい」


 三人の答えは同じだった。

 さて、その理由が重要だ。


「では、なぜ五人を見殺しにして一人を助けたのでしょうか?まずはヴィセさん」

「あら?誤解しないでくださる?私、別に助けた訳じゃないわ。ただ、関わらなかっただけよ」


 ヴィセが笑いもせずに言った。


「だって私には関係ないもの」

「······そうですか。では、ベーゼさんの理由は?」

「まあ、同じね。あたしには関係ないし」

「······では、マールさん」

「おんなじー。関係ないもーん」

「············」


 間違ってはないかもしれない。

 でも、理由があまりに呆気なさすぎるし、冷たい。


 少なくとも、加点にはならない。



 ともかく、一応集計して結果発表だ。



お疲れ様です。次話に続きます。

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