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悪役令嬢と言えども令嬢である。
すなわち、貴族令嬢。つまり、お嬢様。
となれば、その生活だって煌びやかで華やかな面があるはずだ。悪女と言えども、良家の暮らしや息づかいを感じられる話が出てくるだろう、と。
そう思っていた私が居た。もう過去の人だ。
「そこで、そのグズにカップを拾わさせたのよ。それでまた落としてあげたわ~。オーホッホ!泣きべそかきながら何時までもカップを拾ってたわ~!」
「はん、そんくらい大した事ないわよ。あたしなんてカップ投げつけてやった事あるわ」
「あたしはね~、メイドのカップを目の前でゴミ箱に捨てた事ある~」
過去の麗しき生活お披露目会のはずが、悪行自慢大会に早変わり。
あ、これ既視感あると思ったらアレだ。男の子向け不良漫画にある『俺はこんなワルだった』ってやつだ。ただの悪行なのにトロフィーのように見せびらかすアレ。
何でこうなるんだ。と言うかひどい絵面だ。青春漂うはずの教室で、悪役令嬢達がメイドいびりの実績を自慢しあっているのだから。ここは地獄ですか?あ、地獄だった。
「その使用人は死んだ魚の目をして田舎に帰ったわ~。オーホッホ!」
「あたしなんか、1ヶ月で三人辞めさせた事あるわ。ふんっ」
「あたし、メイドのドレス燃やして寝込ませた事あるもーん」
「ちょいちょい、三人ともっ」
談笑に花を咲かせてる所申し訳ないが、こんな話を続けさせるのはイカン気がするので止める。
「せっかく麗しき乙女らが揃ってるのにさ、やれ虐めてやった嫌がらせしてやった苦しめてやったなんて言う物騒な話は無しにしてさ、もっと華やかなお話しようよ」
「あら、華があるじゃない。私によってお馬鹿さんがズタズタにされるのよ?例えるなら、暗雲を太陽が引き裂いて光り差すようでしょ?」
「どこがっ!」
私には、心をズタズタにされて泣いているメイドさんの悲しい姿しか思い浮かばなかったぞい。
「そんな酷い話じゃなくてさ、ほら、あるでしょ?私はこういう良い事したよーとか、こんな凄い事したんだー、とか」
「凄い事ねえ」
「ま、無くはないわね」
「あたし天才だしー」
なんとか誘導出来た。これで華やかな話に──
ならなかった。
口から出る言葉がヒドイのなんの。やれ誰々を蹴落としてやっただの、むかつく奴を裸にして辱しめてやっただの、正義の味方を返り討ちにしただの。
挙げ句の果てには何故か往生際の悪さ自慢大会にまで発展していった。
「オーッホッホッホ!私は王子に言ってやったわ。『言いたい事?あるわ。アンタみたいなクソ野郎と別れられるなら死ぬのも悪くないわね』ってね」
「ふん、あたしなんて死ぬ直前に三人道ずれにしてやったわよ。善人ぶった人間が血反吐を吐く姿は最高ね」
「あたしだって最後まで抵抗したも~ん。あーあ、あそこに姉が居たら殺してたのに」
何が悲しくて、地獄で亡者の往生際の悪さを聞かなければならないんだ。
「あたしなんて最後はナイトの剣で斬られて死んだのよ?どう?壮絶でしょ?」
「そんな事ないもーん。あたしなんて磔にされて槍でブスブスやられたんだもん」
「ふん、まあまあやるわね」
死に方自慢にまで発展し始めちゃった。
「あらあら~、貴女達はまだまだねえ。そんな安っぽい死に方したのね~」
「はあ?アンタはどうたったのよ!」
「どーせ、ショック死でしょー?だっさー」
しかも死に方には優劣があるらしい。ショック死はダサいそうだ。勉強になるなー。
死に方じゃなくて生き様を顧みて欲しい······。
「オホホ。お聞きなさいな。私はね······ギロチンよ~!断頭台でバッサリやられたわ~!」
「ちっ、やるわね。今回は勝ちを譲ってやるわ」
「ちぇ、負けか~」
「あ、ギロチンって勝ちなんだ······」
ギロチンは勝ちらしい。皆も死ぬ時はギロチンで首を切ろう、勝てるよっ。
いやっ、何が勝ちよ!断頭台にかけられる時点で凄惨な最期じゃん!負けだよっ!
「三人とも~。そんな物騒で痛そうな話じゃなくてさ、もっと楽しいのにしようよ。あ、そうだっ、恋バナっ。やっぱり恋の話が一番だよねっ!これだけは今昔、全次元世界共通の女の子の盛り上がりジャンルナンバー1だもんねっ」
「あら、いいわよ」
「恋の話ねえ」
「きゅんきゅんしちゃう~」
よしよし、これで少しは平和な話に──
ならなかった。
「オーッホッホッホ!庶民の分際で私に愛を囁くなんて百億年早いと言ってやったのよ。そしたらその男『う、うう~、僕の事バカにしたな~、ママーっ!』ですって」
「アハハハッ!まじウケるわ~!あたしも言い寄って来た馬鹿な男爵家の軟弱男に蹴り入れてやったわ。そしたら『ぐわあっ、持病の痔が悪化した!』だってさ!」
「イヒヒヒヒっ!それも傑作~!あたしもね、富豪のボンボンに告白されたの。だから、全財産を家から盗んで来たら考えてあげるって言ったの。そしてら本当にいっぱいお金盗んで来てさ、目の前で川に捨てたら『あばばーっ、ぼ、僕の富が~』って川に飛び込んでったよ」
「オーッホッホッホ!それも愉快ね~!」
聞いてる私は不快なんだけど、あれ?私が、私がおかしいのか?乙女四人集まって話す事ってこういう感じの話だっけ?
「うう、なんか気分悪くなってきた······」
これ以上喋らせても私が悪女の毒に当てられるだけだ。よし、一旦止めよう。
「はい、みんなそこまで。色々話せあえて盛り上がったねー。お互いの事よく分かったかな?」
「まあ、センスは悪くないって事は分かったわねえ」
「ふん。馬鹿よりはマシってのは認めるわ」
「趣味は合うかもね~」
内容はともかく、ともかくとして!
まあ、概ね私の期待した通りに他人との交流は成功したようだ。
三人とも頑張って私の授業受けてくれてるし、ここいらで少しご褒美にティータイム休憩にしようかな。
お疲れ様です。次話に続きます。