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牢獄の中に入れられても尚、その野心と言おうか、欲望と言おうか、邪悪な思考は健在の三人の悪役令嬢。ヴィセ、ベーゼ、マールは不敵な態度を取り続けていた。
「大人しくしていろよ。変な気を起こさない方がいい。お前らは上から睨まれているんだからな」
看守の獄卒が冷たく睨んで壁のスイッチを押して去る。それは結界のスイッチで、牢屋からの脱出を阻み、例え脱出出来ても警報が鳴る仕組みだ。
その事を悪女のカンで察している三人は不敵に笑う。
「オホホ。まるでライオンを恐れる羊ね」
「ふん、いつか頭カチ割ってやる」
「あいつきらーい」
鉄格子で閉ざされている独房は、罪人を通す事はなかったが、声は筒抜けになっている。
「オッホッホ。ねえ、お馬鹿さん達。私、暇でしてよ。何か余興は無いのかしら?」
「はあ?アンタあたしの事舐めてんの?言っとくけど、あたしはアンタらみたいなカスと馴れ馴れしくするつもりは無いから」
「カスは自分じゃないの~?殺されて地獄なんか落ちてるんだから」
似たような境遇で地獄に落ちたからと言って、この三人に仲間意識や共感は皆無であった。
彼女らにとっては、自分だけが信じられるものであり、自分こそが最高。それ以外の存在は全てそこら辺の雑草や石コロにしか過ぎない。
回りの令嬢はあくまで“ドジして死んだ馬鹿”にしか過ぎないのだ。
「オホホ。貴女達も貴族なんですって?その割には高貴な感じがしないけど?」
「へえ、意見が合うわね。あたしもアンタらはどっちも芋に見えるわ」
「目おかしいんじゃなーい?地獄より先に医者行って来なよ」
だが、この三人は不思議にも互いにある種の信頼感のような物を感じていた。
それは本当の信頼ではない。好意などから来るものでもない。
強いて言えば『ライバル意識』。と形容しうる感情であった。
好きではない。信じてもいない。
だが、“こいつはまあまあ使えそうだ”という評価をお互いに内心では与えあっていた。
そして──この三人には、ある共通の目標があった。
最終目標。それは地獄からの脱出。もしくは地獄の支配。いづれにせよ、自分の身の自由である。
そのための第一目標。それは──
「······まあ、いいわ。今は貴女らお馬鹿さんの相手してる暇はなくてよ」
「あら、今度は本当に意見合ったわね。同意だわ」
「ふ~ん。おんなじ事考えてる?」
誰ともなく口の端を邪悪に吊り上げて笑ってみせる。
「あの女──」
「地獄の番人だかなんだか知らないけど──」
「まずはあいつから始末しよう」
三人の忍び笑いが不気味に冷たい牢を這った。
麗羅の苦難はこれからが本場だろう。
お疲れ様です。次話に続きます。