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死なずの君に送る歌  作者: 琴乃葉楓
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冬季大演習 Ⅴ

「やはり演習はいいですね。不足しているところや、行き届いていないところがよくわかる」

藤崎が言う。

まあ、今回に関しては練度の不足というよりも、経験と物量の差のような気もするが、確かに人数差がある上での戦闘を想定した訓練はしていなかった。

これは、演習が終わった後の訓練で織り込む必要がありそうだな。

「ああ。演習だと、訓練の内容で見直すべき点がよく見つかる。…さて、今回の演習を受けて貴官はどの様に感じた?早乙女中尉」

私と藤崎の後ろに立つ、戦闘服姿の少女にそう声をかける。

先程まで、この司令部にいなかったこの少女であるが、別に最前線で戦っていたというわけではない。

それを示すように、その少女が着ている戦闘服には、他の撤退してきた兵士達が着ていたものには付いているいるペンキが一滴たりとも付いていない。


「はっ…」

少女が一つ、考えるような素振りをしながらそう返す。

今回の演習では、早乙女には直接部隊指揮に関わるのではなく、第三者的な視点での部隊の動きを観察させていた。

今後は、早乙女にも部隊全体の指揮を担ってもらおうと考えている以上、経験を積ませておくに越したことはない。

実際の戦場に出れば、私も、藤崎も当然のことではあるが死ぬ可能性があるのだ。

そうなった場合には、階級的にも、役職的にも順当に行けば早乙女が臨時の連隊長に就くことになる。

つまりは、そういった緊急事態に対応できる練習。

ひいては、司令官として重要な素養である、第三者的視点と視野というものを考える機会に当てたのだ。

それが吉と出るか、凶と出るかは少女次第だが、恐らくは…。


「私の主観では、我が連隊は実戦に対する()()というものが不足しているかと思います」

「━慣れ、か。つまりは、我々が貴官らに課してきた練習に問題があったと?」

経験の不足、つまりは連隊内の練習内容に不備があったのではないか、というのが早乙女の意見だ。

解釈のしようによっては、下手をしたら上官侮辱罪で軍法会議に発展しかねない言い草ではあるが、少女の言は的を射ている。

「いえ、連隊長、副連隊長殿よりご指導いただいた訓練には何ら問題はなかったかと思われます。ですが、攻撃側━新渡戸中佐殿率いる第百九歩兵大隊に比べ、我が連隊は圧倒的に実践的な訓練がまだ足りておりませんでした。人数差も大いに関係しているかと思われますが、人間に対して引き金を引くという経験をもう少しするべきかと具申いたします」

早乙女の言う、人間に対して引き金を引く、というのは、恐らく比喩表現などではなく本当にそのままの意味だろう。


今回の演習で使用されたのは、勿論実弾などではなく、当たると派手な色のペンキが付く精巧なペイント弾だ。

つまりは、撃っても相手が傷つくことはないし、死ぬこともありはしない。

だが、それを理解した上で、何人かの隊員達は(攻撃側)に対して撃つことを躊躇していた。

【遠目】の異能を使い見ていただけでも、五人が本来殺せていたはずの場面で殺せず、逆にペンキを被ることになっていたのだ。

そして、それを早乙女がピックアップして挙げてきたということは恐らく、五人だけでは済まないほどのソレを見てきたのだろう。

「はぁっ…。まったく…演習というのは本当に至らんところがよく分かるな」

藤崎が苦笑しながら、目線を軽く下へと下げるのだった

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