精鋭連隊 Ⅲ
「まあ、両官とも異論はないということで大丈夫だな?」
早乙女の表情からは目を逸して、二人にそう問う。
「「はっ」」
「よし。では、明日十月九日を以て第一特務連隊の教育期間を終了とし、通常訓練期間への移行を命ずる。副連隊長及び連隊長補佐には、己が職務に準じたうえで部隊指揮官としての最大限の努力を期待する」
突然の決定ではあるが、まあ、藤崎と早乙女ならなんとかするだろう。
そんな風に、心の中で二人に仕事を丸投げしようと決めた時、執務室のドアが三度軽くノックされた。
「誰か?」
部屋の主である、私がそう声を上げる。
「第一特務連隊 第二分隊所属 草城灯伍長であります!先日に行いました野外演習の報告書が作成できましたので確認していただくために参りました」
おかしいな。
普通なら、報告書の確認は分隊長がして、問題がなければそのまま分隊長が持って来るはずだが…。
「…まあいい。入れ」
「失礼いたします!」
扉を開け、一度振り返って音を立てないように静かに開けた扉を閉じると、その一挙手の動きのまま、こちらに振り返って最敬礼の姿勢を取る。
「貴官が何故報告書を持ってきたのだ?本来なら分隊長が持ってくるはずだろう」
「申し訳ございません。錠前少尉殿が風邪になられて動けない状態でしたので、第一分隊の北野少尉にご確認いただき、私が持ってまいりました」
ふむ、成程。
「そうか…わかった。その報告書を確認しよう」
「お願いします!」
草城伍長から受け取った報告書に視線を移す。
ふむ、特に問題ないな。
一通りの内容を確認し、連隊長用の押印の位置に受領の印を押す。
「問題ない。このまま預かって陸相に送るから錠前少尉にもそのように伝えてくれ」
士官用のトランクバックに、印を押した報告書とその他数枚の資料を纏めて仕舞いながら、草城にそういう。
「わかりました!それでは失礼いたしました!」
すると、入ってきたときと同様に一礼をしてから、そそくさと執務室を出ていく。
「ああ、ご苦労」
そう言ったときには、すでに部屋の中には草城の姿はなかった。
あれ?俺そんな嫌われることしたっけ?
「なあ、副連隊長。俺あんなに嫌われるようなことしたか?」
軽口を叩くように、そう隣に立つ藤崎に問うてみる。
すると、心底悲痛といった面持ちで藤崎が言う。
「恐らくですが…嫌われているのは連隊長殿ではなく私かと」
へ?
確かに、副連隊長は連隊長よりも恐ろしいイメージが付いているが、それは普通の軍隊での話だ。
第一特務連隊ではそんなことは無いと思っていたが…。
「貴官そんなに酷いことしてたか?軽く毎日連隊長補佐のシーツを宙に舞わしていたくらいだろう」
「確かに、そこの連隊長補佐以外とは割と良好な関係を築けていると自負しております。ですが…」
「やっぱり毎日私のシーツが舞ってたのは藤崎大尉のせいじゃないですか!」
「いやいや。あれは貴官のシーツの畳み方に不備があったせいだろう。私のせいにするな」
そう、嘲笑混じりの声で藤崎が言う。
まあ、藤崎が言ってることは正しいな。
何日か、完璧だったのに崩してたことも会った気がしたが。
「いや、それは良くてだな。なんで副連隊長はそんなに嫌われているかという話をしていたんだ!どうしてなんだ?」
早乙女とがんを飛ばし合っていた瞳をこちらへと向け、心底不思議そうに言う。
「連隊長殿、本当に覚えてないんですか?」
覚えてない?
どういうことだ?覚えてないも何も、藤崎が誰かに嫌われるようなこと…あー。
「草城、最初に貴官に怒鳴られてた子か」
「そうです。確か、あのときは最初が肝心だと思い割と本気で怒鳴ってしまった気が…。そこからはある程度容赦をするようにしているのですが…」
やっぱり、子供ってトラウマできやすいんだなー。
心からそう思い、もう少し、子供たちに優しくしてやろうという気持ちになった。




